大阪府立高校の縮小再編が止まりません。今後5年間の間に「9校程度」を募集停止する予定です。

大阪府教育委員会は23日、府立高校の新たな再編整備計画案を承認した。2023年度からの5年間で生徒の新規募集を停止する9校程度を公表することを盛り込んだ。3年以上連続で定員割れとなっている学校が対象となる見込みで、同定員割れは大阪市外の府立高が多い。府立高がゼロになる自治体が増えることを懸念する声も出ている。

府教委が23日に承認した再編整備計画案では、27年度末に府内の公立中学校を卒業する生徒が23年度比で約4000人減の約6万2900人になるという推計などに基づき、9校程度の募集停止を明記した。3月末に最終的に計画を決定する。(中略)

府教委によると、約150校の府立高のうち、3年以上連続で定員割れし現時点で募集停止が決まっていない学校は14校ある。そのうち大阪市外にある高校は10校で約7割に上る。

14校の中には不登校の経験者や発達障害を抱える生徒にきめ細かな支援をする「多様な教育実践校」として存続している学校や、すでに募集停止が決定した学校の統合先になっている高校があり、これらは再編対象にはならない見通し。一方、2年連続で定員割れしている高校は11校で、定員割れが続けば23年度以降に募集停止の対象になる可能性がある。(以下省略)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF234I30T20C23A1000000/

3年半前に「8校を募集停止に」という記事を掲載しました。

【ニュース・追記】大阪府立・市立高校8校を募集停止済、更に8校を募集停止へ、市立高校は府立へ移管合意

この計画は概ね予定通りに実行されました。これに加えて、更に9校程度が募集停止されるとするのが本記事です。少子化が急速に進んでいるのは実感していますが、ここまで行う必要があるのかというのが正直な気持ちです。

新たな計画案は大阪府教育庁ウェブサイトに掲載されています。

府立高等学校再編整備計画(令和5年度から令和9年度)(案)」
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5181/00444097/g1.pdf

「大阪府内の中卒者」に「計画進学率(93.9%)」を掛け合わせ、他府県等への進学数を減じ、公私受入比率(直近3年間平均は62.4%、R4は61.6%)を掛け、公立高校の総募集人員を試算しています。

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5181/00444097/g1.pdf

資料に一通り目を通しましたが、抱いたのは「机上の試算」という感想でした。

募集停止が検討されているのはどこでしょうか。日経新聞には3年連続で定員割れした高校が掲載されています。

北から豊中高校能勢分校・福井高校・箕面東高校・長尾高校・門真西高校・野崎高校・西野田工科高校・枚岡樟風高校・布施工科高校・大正白陵高校・大阪わかば高校・西成高校・藤井寺工科高校・岬高校です。

偏差値では下位に属する高校ばかりです。ただ、それぞれに特色がある教育を行い、一定数の入学者を集めています。例えば西成高校(エンパワメントスクール)は生活的自立・社会的自立・職業的自立を目指した教育を行っています。ドキュメンタリー番組でも何度も取り上げられました。

貧困の連鎖を断て!西成高校の「反貧困学習」
https://www.nhk.or.jp/campaign/mirai17/kiji_manabitai_gyakuten.html

これらの高校は定員割れしているからといっても、学生が全くいない状況ではありません。

大阪は日々の生活が苦しい世帯も少なくありません。私立高校の授業料が無償化されたとは言え、授業料以外の負担額は少なくありません。公立高校の方が負担額は遙かに安く済みます。

また、どうしても府境にある高校は入学者が少なくなってしまいます。反対側の府県から入学する人間がいない為です。豊中高校能勢分校・長尾高校・岬高校が該当します。地理的な条件が余りに不利です。

私立高校へ進学する中学生が増加しているのも大きく影響しています。

実はここ12年間で公私受入比率は大きく変化しています。2011年度(平成23年度)から始まった私立高校授業料無償化制度が要因です。私立高校へ進学する割合が年々上昇し、R4は38.4%に達しました。12年間で公私比率が約10%も変わりました。

では、どういった層が私立高校を選択しているのでしょうか。公立高校の志願倍率を見ると一目瞭然です。2022年度一般選抜入試で競争率が高かったのは、春日丘高校(1.62倍)・豊中高校(1.61倍)・高津高校(1.58倍)・泉陽高校(1.52倍)・阪南高校(1.48倍)でした。

高等学校名募集人員志願者数競争率
春日丘3205191.62
豊中3605791.61
高津3605681.58
泉陽3204861.52
阪南2403541.48
寝屋川3204701.47
三国丘3204601.44
茨木3605141.43
泉北2783961.42
箕面3164461.41

国公立大学へ多数の合格者を輩出する高校が大半です。

高水準の学力がある中学生が公立進学校を志願して多数の不合格者が発生する反面、低中学力の中学生が当初から公立高校ではなく私立高校を選択している構図が透けて見えます。

既に東京では発生しているそうです。東京都は年収910万円未満の世帯で私立高校授業料を実質無償化しています(大阪府は590万円未満)。

東京の無償化政策で困窮世帯が私立高校に大量入学→価値観の相違で学校側が困惑「東京では貧困層は私立に進む時代に」「無償化の弊害?」
https://togetter.com/li/1957978

入試制度が東京と大阪では異なるので全てが該当するわけではありませんが、無償化によって発生している現象は似たり寄ったりでしょう。

大阪府立高校の更なる募集停止は、少子化のみが引き起こした現象ではありません。私立高校への進学者増が効いています。

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(1/26追記)
大阪維新の会の候補者は「私立高校授業料無償化の所得制限撤廃を」と主張しています。

子育て世帯の経済的負担を軽減する公約は歓迎したい反面、公立高校の更なる減少は避けられません。たとえ私立高校の授業料が無償化されても、それ以外の負担は軽くありません。トータルでは公立高校の方が負担が軽くて済みます。

また、大阪府高等学校の廃校一覧(Wikipedia)を見て驚きました。2010年以降に29校の公立高校が閉校・統廃合していますが、私立高校は2校のみです。

少子化に合わせて公教育を縮小する一方で、私教育は概ね維持しています。これが大阪府の現実です。

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また、高校受験が間近に迫ったこの時期に公表したのは驚きでした。数年度に募集停止される可能性がある高校を受験する予定だった中学生や保護者が動揺します。デリカシーの欠片もありません。

それにしても公立高校へ進学する割合がここまで低下しながらも、高倍率を保っているのは衝撃的でした。

公立高校でしっかり学習して主要大学に合格して欲しいとする保護者・生徒のニーズの多さに対し、大阪府が答え切れていません。文理学科と普通科との差(カリキュラムや予算等)が開き、文理学科に志願者が集中してしまうとも聞きました。

様々な資料を読み込んで「親世代の高校受験とは全く違う」と強く感じました。公立中学校への進学を予定している方は、高校に関する情報を早めに入手する様にして下さい。恥ずかしながら、我が家は今更慌て始めています。

なお、年度内に「英語検定優遇」「大阪市内に中堅公立進学校がない」「無償化予定の大阪公立大学への進学者は軒並み文理学科」に関する記事を掲載する予定です。今週末は大阪市保育所等一斉入所の結果発表が行われます。いろいろと時間が足りません。