東京都がこれまでは考えられなかった規模の少子化対策を打ち出しています。18歳までの子供への月額5,000円の給付に加え、「0歳児~2歳児の保育料無償化」と打ち出しました。

小池知事は「全国の出生数は減少の一途をたどっており、一刻の猶予もないという思いだ。これらの施策に総合的・継続的に取り組み、少子化に歯止めをかけたい。『東京から少子化を止める』という決意のもと、大胆な施策を実行していきたい」と述べました。

都は、少子化対策の一環として、これまで一部負担が生じていた2歳までの子どもの保育料について、支援の対象を拡大し、2人目以降を完全に無償化するとしています。
保育所などの保育料について、3歳から5歳までは国の補助によって4年前から無償化されています。
一方、2歳までの子どもについては住民税の非課税世帯のみの無償化にとどまっていました。

このため、都は国の補助に上乗せする形で3人目以降については全額無償化、2人目の子どもについては半額負担としていました。
都は今回、子どもを2人以上持ちたいと願う人たちへの支援策を拡充しようと、2人目も完全に無償化する方針を決めました。

対象は、私立や公立の保育所と障害児通所支援事業所などに通う子どもで、都はことし10月から開始できるよう、110億円を新年度予算案に盛り込むことにしています。

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20230112/1000088498.html

東京都は既に第2子・第3子以降の保育料減免措置を「第1子の年齢を問わない」と拡大していました。

大阪市等は第1子と第2子が保育所等に同時に在籍していなければ第2子減免措置が適用になりません。その為、きょうだいの年が離れた子育て世帯の保育料負担が重くなっています。きょうだいの年齢差で保育料負担が異なるのは理不尽極まりないです。

追加的に打ち出した「0歳児~2歳児の保育料無償化」のインパクトは絶大です。この年代の子供に掛かる保育料は極めて高く、子育て世帯の家計を著しく圧迫しています。

例えば東京23区で最も子供が多い自治体の一つである世田谷区の場合、3歳児未満児の保育料で人数が多いのはD5~D7階層(月額保育料は23,000円~29,700円)、及びD21~D23階層(同61,000円から67,300円)となっています。

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kodomo/003/009/d00036138_d/fil/6.doc

https://www.city.setagaya.lg.jp/theme/006/001/002/d00005744_d/fil/hoikuryouitirann.pdf

これが無償化される効果は絶大です。保育を利用している多くの子育て世帯において、手取りベースで毎月2万円~7.9万円も違ってきます。将来の教育費貯蓄、新たな習い事、海外旅行、より大きな住居への転居等、子供に関連した様々な使途が考えられます。

特に大きなメリットを受けるのは、高額の保育料を支払っている高所得世帯です。世田谷区の保育料階層で最も高いのは月額7.9万円です。年間で約100万円もの保育料が無償化されます。

園児減少が顕著になっている地域型保育事業にとっても大きすぎる朗報です。入所希望者が集まりやすくなります。

一方で、副作用も絶大です。真っ先に考えられるのは、新たな施策から漏れ落ちる施設や人間です。

無償化対象となるのは、保育所や通所支援事業所等とされています。こども園や地域型保育事業も含まれるでしょう。その反面、認可外保育施設やベビーシッターは対象外となると考えられます。様々な理由から認可外保育施設やシッターを選択していた世帯の目が、一斉に保育所等へ向けられるのは不可避です。

これを機に、経営を終える認可外保育施設も現れるでしょう。認可外から地域型保育事業への転換が促進されるでしょう。

全国各地で少子化が進行していますが、その例外は東京都です。日本で生まれる子供の内、8人に1人が東京都で産まれています。出生数は減少傾向にあるものの、他自治体等と比べると緩やかな減少です。雇用等を求めて地方から上京した若年層が東京で結婚し、そのまま出産・子育てしている為です。

数年前より大幅に入所しやすくなったとは言え、希望者全員が入所できるわけではありません。例えば東京都中野区の1歳児入所(2022年4月)の場合、2次調整を行った施設は殆どありませんでした。1歳児枠は1次調整でほぼ埋まってしまい、少なくない入所希望者が漏れてしまった公算です。

2022年4月2次申込 クラス別募集予定人数(中野区)
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/244000/d028620_d/fil/202204_2akijyoukyou.pdf

入所できなかった方は、無償化の対象ともならないという二重苦に苦しみます。理不尽この上ありません。

育児休業を取得する期間にも影響が出ます。保育料が無償化されるのであれば、より早い時期に育児休業を終えて復職する傾向を促します。ここ数年は育児休業を少し長めに取れる様になり、ゆっくりと復職できる動きが強まっていました。これに逆行する施策です。

経済的メリットを大きくするには、保育所等へより早い時期に入所して親が復職する事となります。保育所等により大きな負担が掛かります。

無償化によるメリットにも差があります。保育料が低額ないし無料になっていた低所得世帯や生活保護世帯にとっては、無償化による経済的メリットは限定的です。高所得世帯ほど特をする制度であり、子育て世帯間の格差を確実に促進します。

保育士の待遇改善や保育所等の質的改善も見落とされています。東京都内はまだまだ保育士が不足していると聞きます。業務負荷も強いです。様々な虐待事案の引き金となりかねません。

園庭不足も深刻です。特にここ数年の間に都内で新設された保育所等の多くには、園庭がありません。身体を動かす機会が限られ、児童公園は復数園の園児で混み合うこともあると聞きます。

子育て支援に予算を投じるのは大賛成です。ただ、それをどの分野にどれだけ投じるか、どういった意思決定や議論が行われたかが気になります。

最大の問題点は、これらは「既婚者の子育て支援」であるという点です。少子化の最大の原因である「未婚化」への対策は軽視されています。意図的に見落としている様な雰囲気さえ感じ取れます。

保育料無償化のメインターゲットは「第2子を望む中高所得世帯」です。所得制限ない月額5000円給付も、所得制限によって児童手当から漏れてしまう高所得世帯へのアピールポイントという側面が強いと感じます(なお、私自身は児童手当等における所得制限には反対です)。

ここ数日の間に打ち出した施策からは、東京都は共働き・子育てする中高所得世帯を重視する方針が透けて見えます。反対に低所得世帯や未婚者の結婚・出産を促進する姿勢は見えません。

実はここ数日の各社の報道も同じ様な方針を感じています。子育て支援に重きを置き、未婚者支援は殆ど触れられていないのです。尺の長さが全く違います。

東京の方針は大阪へも飛び火します。相対的に財政余力に乏しく、多額の費用や労力を要する万博が控えている大阪がどの様な方針を打ち出すのでしょうか。横浜市は住宅購入費補助や一時預かり券の配布等を検討しています。

横浜市は子育て世帯の支援を拡充するため、住宅購入者らに1戸当たり約100万円を補助するなど、2023年度に複数の新規事業に乗り出す方針を固めた。保育所などによる一時預かり無料券の配布や、ビッグデータを活用した通学路の交通安全対策事業も開始。若年層の定住や呼び込みにつなげたい考えだ。

https://www.kanaloco.jp/news/government/article-962062.html

大阪では統一地方選や知事選が間近に迫っています。春には大阪府知事選・大阪市長選挙が行われます。その前に何らかの思い切った施策を発表する可能性が高いと見ています。