大阪府岸和田市で発生した車内放置死は、周囲でも話題になっています。

死に至った原因は一つだけではありません。様々なミス等が重なり、子供を守る為の多重防護をすり抜けてしまった印象を受けました。

当日の流れを中心に時系列でまとめ、主な事故原因等を指摘します。

日時出来事
数ヶ月前岸和田市内の新興住宅街に一家が引っ越した。
長女(4歳)と三女(1歳)は同じ町内にある認定こども園に通っている。2歳児の空き枠が無かったので、渕上惺愛ちゃん(次女)は隣町にある岸和田市立桜台保育所に通っている。
7時50分頃父親がワンボックスカーに子供3人を乗せて出発した。普段は母親が送り迎えしていた。
長女と三女を認定こども園(同じ町内)に送った。
母親が別の車で出勤した。
8時頃次女を保育所へ預けるのを忘れたまま、帰宅した。
父親は仕事が休みだった。夕方まで在宅して過ごした。
10時頃次女が登園していない事に担当保育士が気づいた。保護者に電話しようとしたが、他の保護者の対応に気を取られ、電話したと思い込んでしまった(平日は保育所長等が電話している)。
この日は20人が登園予定(定員は150人)だったが、連絡無く欠席したのは次女だけだった。
車の前を通りかかった犬がずっと吠えていた。
車の後部座席にはフィルムが貼られ、中が見えにくかった。
16時頃次女が死亡(推定時刻)。死因は熱中症。堺市の最高気温は24.1度だった。
17時過ぎ父親が保育所へ迎えに行ったが、職員に「来ていない」と言われ、預け忘れた事に気づいた。
保育所の駐車場の車内で次女を発見した。3列目の運転席側のチャイルドシートに座ったままだった。
17時25分頃119番した。
18時半頃搬送された病院で死亡が確認された。

2箇所保育

2箇所保育は非常に大きな負担が掛かります。私自身は経験した事がありませんが、経験中の方からは「とにかく大変。荷物も行事も全部バラバラ。」という愚痴を聞いています。

きょうだいが同じ保育所等に入所できるのがあるべき姿です。一方、特に待機児童問題が深刻な都市部では困難なのも実情です。各年齢毎に募集枠が定められており、家庭の状況を換算した点数順によって入所が決まります。

一家は子供3人を同じ町内(岸和田市内の同一地域)にあるこども園へ通わせたかったとされていますが、空き枠が無かった2歳児(次女)は別の保育所へ通う事になりました。

大半の保育所等は0-1歳児で大半を募集してしまうので、2歳児募集枠は非常に少ないです。また、あったとしても入所倍率は低くありません。たとえきょうだいが通っている(もしくは同時入所申請)しても、同じ保育所等に通えるとは断言できません。

岸和田市は既にきょうだいが希望する保育所等へ入所している場合には、4点を加算しています(点数表)。が、募集枠がなければ入所できません。

当日は父親が送迎

普段は母親が送迎していましたが、事故が起きた土曜日は父親が送迎していました。不慣れな人が送迎すると、何かしらの見落とし等が起こりやすいものです。

4歳以下の女児3人が乗車している車内はさぞ賑やかだったでしょう。が、父親にとっては大変です。早く送迎を終え、帰宅したい一心だったのでしょう。

先に2人をこども園へ連れて行き、次女を預けるのを忘れて帰宅してしまいました。次女が起きていたら気づく筈なので、きっと寝ていました。

父親が出発したのと同じ時間帯に母親も出勤する為に家を発ちました。普段と同じく母親が送る事もできましたが、仕事が休みである父親に任せたのは自然です。

仕事が休みでも土曜登園

保育所等によって判断が分かれるでしょうが、我が家がお世話になっている保育所へ土曜保育を利用するには、両親それぞれの勤務証明書等が必要です。共に仕事等で保育ができないのが要件とされています。

数年前まではもう少し緩かったのですが、コロナ禍以降は厳しくなりました。本当に保育が必要な園児に限定して感染リスクを抑制すると共に、保育士の負担を減らす為と聞いています。

岸和田市の認定こども園や保育所での取扱いは不明です。ただ、休日で在宅している父親が4歳児以下3人の育児を行うのも大変です。恐らくは一時も気が抜けず、家事は回らないでしょう。

仮に自宅で保育できるとしても、こども園等から「仕事が休みでも土曜登園は可能です」と言われたら、登園させたくなる気持ちは理解できます。

騒がしい子供3人がいない自宅にて、父親は自分の時間を楽しんだ筈です。自宅の駐車場に駐車している車内で次女が苦しんでいるのには全く気づいていませんでした。

保育所は土曜シフト

事故が発生した土曜日に登園する園児は1割強でした。殆どの園児は自宅等で保護者と過ごしていました。

土曜日に少ないのは職員も同じです。平日は保育所長が出勤して様々な指示や電話連絡等を行います。無連絡欠席者への電話もその一つです。が、当日は休日だったので、担当保育士が行う手筈でした。

担当保育士は10時頃には渕上惺愛ちゃんの姿が見えない事に気づいていました。電話しようと受話器を持ち上げたのですが、同時に発生した他の保護者への対応に気を取られてしまい、電話したと思い込んでしまいました。仮に保護者へ連絡していたら、最悪の結果は免れました。

職員数が少ない土曜日は、様々な業務を限られた人数で回さなければなりません。特に午前中は大変です。逆に午後以降は普段より落ち着いていて、卒園児が遊びに来る事も多いです。

車にフィルム

渕上惺愛ちゃんが乗せられていたワンボックスカーの後部座席にはフィルムが貼られ、中が見えにくくなっていました。静岡県牧之原市のバス車内放置事故死でも、バスには同じ様なシールが貼られていました。

プライバシーを保護するのが目的でしょうが、反対に車内で何か異常が起きていても周囲が気づきにくくなってしまいます。

安全面に重きを置くと、子供が乗る様な車に視界を妨げるようなシールやフィルムを貼るのは弊害が大きいです。

車の前を通りかかった犬は、惺愛ちゃんの存在に気づいたのでしょうか。もしくフィルムが貼られていなければ、飼い主が車内を一瞥して異変に気づいた可能性があります。

様々な要因が重なり合って、取り返しが付かない事故が起きてしまいました。以上で指摘した箇所の一つでも起きていなければ、幼い女の子の命は助かっていたでしょう。「助けられた命」という言葉は重いです。