「企業主導型保育」を巡る助成金詐欺事件やその原因等につき、NHK関西が掘り下げて報道しました。

待機児童対策の切り札「企業主導型保育所」で助成金の不正受給が相次いでいる。不正が疑われているのは23施設、11億円余。保育の現場でいま何が起きているのか?

待機児童対策の切り札として、3年前に創設された「企業主導型保育所」。施設の整備費や運営費を手厚く助成することで企業の参入を促し、これまでに3800施設の開設が認められた。しかし今年、大阪や名古屋など全国の保育所で助成金を不正に受給していたことが相次いで判明。国の制度設計や審査体制の不備を指摘する声も上がっている。保育の現場で何が起きているのか、関係者の証言や内部資料から徹底検証する。

https://www4.nhk.or.jp/P2852/x/2019-10-11/21/52972/8207044/

番組冒頭で「保育所が出来る筈だった」と紹介されているのは、大阪市阿倍野区美章園にあるパチンコ屋跡地でした。

しかし、近所の方は誰も知りませんでした。土地の所有者すら全く知らなかったそうです。

運営予定会社がウソの申請を行い、助成金を詐取した疑いが持たれています。

助成金詐欺の疑いで、コンサルタント会社「WINカンパニー」川崎大資容疑者(設置予定者の実質的経営者)等が逮捕されています。

 企業主導型保育所2カ所に対する整備助成金をだまし取ったとして、詐欺の疑いで再逮捕されたコンサルタント会社「WINカンパニー」(福岡市)の社長川崎大資容疑者(51)が、他に3カ所への助成金計約3億円も不正に受給した疑いがあることが9日、関係者への取材で分かった。

詐取額は再逮捕容疑の約2億円と合わせて計約5億円に上るとみられ、東京地検特捜部は川崎容疑者らを勾留期限の13日に追起訴する方針。

3カ所は「KIDSLAND守山」と「KIDSLAND栄」、「KIDSLAND美章園」。いずれも設置会社は川崎容疑者が実質的に経営、WIN社が助成金の申請を代行していた。

https://www.kanaloco.jp/article/entry-187737.html

設置予定者は「株式会社東京キッズランド」でした。

助成額(要返還額)は72,753,000円、返還理由は「・整備費の完了報告において、事実とは異なる報告をし、助成金の不正受給を行っていた事実が判明したため ・合理的な理由なく、施設の運営が開始されないため」とされています(詳細はこちら)。

当初の逮捕容疑は、本ウェブサイトでも紹介しました。

【ニュース】企業主導型保育「キッズランド」経営者を助成金詐欺容疑で再逮捕 

助成取消によって返還を求めている施設は、大阪市内でも数多くあります。内閣府の調査結果から引用します。

名称助成額(要返還額)
キッズランド巽中117,260,000
キッズランド真田山舟橋店101,872,000円
KIDSLAND美章園72,753,000円
キッズランド公園南矢田店34,285,000円

大阪市内に設置予定だった施設だけでも、3億円以上が詐取されたと疑われています。

不正が明らかになった企業主導型保育では、閉鎖を迫られるケースが相次いでいます。唐突に退園を迫られた保護者の苦悩は想像を絶します。

こうした不正が続出した背景には、国から審査業務等を受託している「公益財団法人児童育成協会」の審査体制に問題があったとされています。

とある職員は「人員不足・審査スタッフ55人中38人が未経験の派遣職員・当初は審査基準すらなかった・形式的儀礼的な審査のみだった」と証言しています。

保育施設の量的拡大を目論む国の政策の下、審査体制や保育の質が蔑ろにされた形です。

同事業の担当者(魚井宏泰氏、内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(子どもの貧困対策担当)付企画調整官、立命館大学理工学部卒?)は「実施要綱に明確な審査・指導・監査基準を定めていなかったのが反省材料」「新規事業なので体制やノウハウが不十分だった、反省している」と述べていました。

番組ゲストには、坂下千里子氏(タレント)・前田正子氏(甲南大学教授、厚生労働省出身)が来られ、主に前田氏が下記の発言していました。

・審査を行う児童育成協会は、過去に審査等を行った事がない団体でした。
・審査契約は1年単位なので、従業員を安定的に雇用するのが難しかった側面も指摘されています。
・認可保育所の新設にあたっては、自治体による現地調査及び事業者(代表者や園長候補者)との面談・ヒアリング等が行われます。
・しかし、企業主導型保育ではこうした調査等は行われていません。
書類だけで助成金が決定され、現地調査すら行っていません。
・2015年に子供子育て支援新制度が始まり、僅か1年後に企業主導型保育が始まりました。
・内閣府としてはスピード重視、質より量で、制度設計に甘さがあったと考えられます。
・モデル事業すら行ったいませんでした。
・国に裏切られた(坂下氏)

内閣府は審査機関を改めるとし、現在は新規施設の申請を受け付けていません。それによって深刻な影響が生じています。

豊中市に開所した豊中少路保育園の運営法人は新規施設の開所を申請したいのですが、できていません。

施工業者や保育士の選定も進めていたので、この事態に戸惑っているそうです。保護者からも不満の声が上がっています。

神戸市にある保育所運営コンサル会社では、申請から半年以上経っても審査が終わっていない施設が6か所もあるそうです。

既に開園しているのに、助成金が入金されない状態です。資金繰りに苦しんでいる保育施設もあります。

沖縄にある企業主導型保育では、4,000万円の整備費と月450万円の運営費を申請していました。しかし、殆どが入金されず、自己資金による綱渡りの経営を強いられています。

・母親の職場復帰にも影響する(坂下氏)
・審査機関が再決定するのが12月末、申請が再開するのは早くても年明け

再審査に当たって、内閣府は「利用者ニーズの確認、審査機関による現地調査、運営者へのヒアリング」を求めています。

一方、こうした条件が加わるとスピードが失われる(坂下氏)との指摘もあります。ただ、拙速に審査すると、唐突に潰れる施設も生じてしまいます。

「企業主導型保育は既に3,000か所以上もあります。安心して預けられる施設、既存施設の質の向上が重要。」だとまとめられました。