保育園での子供の声を巡る訴訟です。
保育所の子どもの声などで生活に支障が出たとして、愛知県豊田市の住民などが保育所側を訴えた裁判で、名古屋地方裁判所岡崎支部は「我慢すべき程度を超えているとは言えない」などと指摘し、訴えを退けました。
愛知県豊田市の私立保育所の近くに自宅や職場がある男女4人は、平成22年に保育所ができてから、子どもの声など保育所からの音によってうつの症状が出たり、仕事に集中できなくなったりするなど日常生活に支障が出たとして、保育所を運営する社会福祉法人に防音設備の設置と600万円の賠償を求めていました。
28日の判決で、名古屋地方裁判所岡崎支部の長谷川恭弘裁判長は「園児が庭で遊んでいる時間帯の音は、環境基準の60デシベルを下回っていて、社会生活上大きな音ではなく、不快な音であるとも言えない。幼児が遊具で遊ぶことや集団生活を送ることは発育のために不可欠で、誰もがこのような時期をへて成長するものだ」と指摘しました。
そのうえで「住民らが保育所からの音で精神面で悪影響を受けたことは認められ、運営開始前に住民への説明会を開かなかった点など、保育所の対応が真摯(しんし)でなかったことを踏まえても、保育所の音が一般的な社会生活において我慢すべき程度を超えているとは言えない」として、4人の訴えを退けました。(以下省略)
一方、原告の住民らの代理人は「判決文を見ていないので、今の段階ではコメントできない」としています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180928/k10011648311000.html
訴えは2年前の4月に起こされました。当時の報道を引用します。
近所の保育所から聞こえてくる子どもの声がうるさくて、日常生活に差し支えが出たとして、愛知県豊田市の住民などが保育所を運営する社会福祉法人に対し、防音設備の設置と慰謝料を求める訴えを、15日までに名古屋地方裁判所岡崎支部に起こしました。
訴えを起こしたのは豊田市の私立保育所の近くに自宅や職場がある男女4人です。
訴えによりますと、4人は6年前に保育所ができて以降、子どもたちの大きな声で仕事に集中できなくなったり、うつの症状になったりるするなど日常生活に差し支えが出たということです。
このため、騒音対策を求めたのに十分な対策を取らなかったとして、保育所を運営する市内の社会福祉法人に対し、防音設備の設置と慰謝料、計600万円の損害賠償を求めています。
訴えられたことについて、保育所の園長はNHKの取材に対し「真摯に受け止め、今後も努力して円満な解決を目指したい」と話しています。
訴えられたのは社会福祉法人正紀会でした。紛争の原因となったのは、同法人が運営する浄水ひかりこども園です。
同こども園は2010年4月に豊田市浄水町設立されました。定員138人の中規模保育所です。
この地域は名鉄豊田線浄水駅を中心として形成された新興住宅地です。豊田市中心部へは鉄道・車を利用して通勤できます。また、名鉄豊田線は名古屋市営地下鉄鶴舞線と相互直通運転を行っているので、名古屋駅にも1時間程度で通勤できます。
つまり、豊田市中心部・名古屋駅の双方へ通勤できる場所です。子育て世帯にとっては非常に魅力的な立地でしょう。
具体的にどの様な場所なのでしょうか。空中写真で確認します。
こども園は名鉄豊田線と平行して浄水駅へ延びている主要道路沿いに設置されています。駅・鉄道に近い道路なので、交通量は比較的多めでしょう。
驚く事に、こども園は幼稚園・小学校と隣接しています。
南隣にあるのは浄水松元幼稚園です。社会福祉法人正紀会のグループ法人である、学校法人昇龍学園が運営しています。
更にその南には、豊田市立浄水小学校があります。こども園・幼稚園・小学校が隣接しているので、子育て世帯は非常に助かります。
3施設を合わせると約1000人の子供が過ごしています。子供の声のみならず、移動や送迎に伴う音・砂埃等、不快な要素が少なくないでしょう。裁判長が「住民らが保育所からの音で精神面で悪影響を受けたことは認められ」と述べたのは理解できます。
その上で裁判長は「保育所の音が一般的な社会生活において我慢すべき程度を超えているとは言えない」「園児が庭で遊んでいる時間帯の音は、環境基準の60デシベルを下回っていて、社会生活上大きな音ではなく、不快な音であるとも言えない。」と述べ、原告の訴えを退けました。
受忍限度論と呼ばれるものでしょう。同じく保育園からの騒音問題が争われた、平成29年12月19日最高裁決定と同じ考え方だと推測されます。
しかしながら、保育園での子供の声は「単なる騒音問題」と片付けられません。
保育園の運営にあたっては、近隣住民との良好な関係が欠かせません。地域行事への参加・公園の利用・道路でのお散歩・商店への買い物等、保育園と近隣住民・地域は様々な面で関係を有します。
設置前に十分な住民説明会を行わなければ、設置後に「こんな話は聞いていない!」と様々な苦情が噴出するのは避けられないでしょう。苦情対応が拗れ続けると、最終的には民事裁判に至ってしまいます。
保育園にとっても住民にとっても、こうした訴訟は不幸です。弁護士費用等で防音板が設置できたのに、と思うと残念です。
今後、新興住宅街や住宅密集地では更に多くの保育園が設置されていくでしょう。土地が不足している都心部では、オフィスビルやマンション内に設置される保育所も少なくありません。
多くの子供が生活する保育園と騒音問題は切り離せません。問題が生じる前に十分な説明を行い、苦情に対しては真摯に対応するのが重要でしょう。
中には保育園側の説明に耳を傾けず、苦情を繰り返す方もいるでしょう。
最後には裁判長が指摘した様に「幼児が遊具で遊ぶことや集団生活を送ることは発育のために不可欠で、誰もがこのような時期をへて成長するものだ。」と押し通さざるを得ないかもしれません。