大阪市は、大規模マンションの建設事業者に保育施設等の設置に関する協議を義務づける条例案の作成を検討しています。同条例案の「骨子」に対してパブリックコメントを実施する事となりました。

「(仮称)大阪市大規模マンションの建設における保育施設等の整備に係る事前届出等に関する条例(案)」の骨子について
大阪市では、待機児童解消を最重要施策と位置付け、待機児童はもとより保育を必要とする全ての児童に対応した入所枠を確保するため、新たな待機児童対策を強力に推し進めているところです。
近年、住居の都心回帰傾向が強まり、都心部や都心部へのアクセスのよい地域における大規模マンションの建設に伴い局地的に保育ニーズが急増しています。このような保育ニーズの増加に対応するには、本市が大規模マンションの建設事業者と、その建設計画が確定する前に協議を行う機会を確保することにより、中長期的な地域の保育ニーズを把握し、新たな保育施設等の整備が必要な場合においては、その整備について当該大規模マンションの建設事業者に協力要請することが有効な方策であると考えています。
このため、今般、大規模マンションの建設計画が確定する前における当該建設計画に関する事項の届出及び保育施設等の整備に係る本市の意見(保育施設等の整備についての協力要請等)に対する回答を事業者へ義務付けること等を定める条例案の骨子を策定いたしました。
パブリック・コメントを通じて、市民の皆様から広くご意見をいただき、条例案の策定に活かしてまいります。

http://www.city.osaka.lg.jp/templates/jorei_boshu/kodomo/0000403807.html

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あくまで「協議義務・協力要請」、「設置義務」ではない

本条例案は、平成28年12月に開催された待機児童解消特別チーム会議で打ち出された内容を踏襲しています。

簡単にまとめると、「保育施設等の整備を検討・協力要請する可能性があるので、ファミリー世帯向けの大規模マンションを建設する場合大阪市へは早く教えて欲しい」という内容(骨子)です。

骨子案は概ね妥当な内容だと感じています。しかし、あくまで「早期の情報把握」「協力要請」が主な内容です。

事業者は協力要請に応じて保育施設等を整備する義務を負いません。大阪市からの要請に「整備予定はありません。協力要請にも応じられません。」と返事しても何ら問題はありません。

昨年12月の会議案より後退している箇所もあります。同会議の資料(15ページ)には「手続の前置 以上の手続きを経た後でなければ、一連の建築手続きに移れないように規定」という一文がありました。

しかし、本骨子案「勧告・名称の公表」止まりとなっており、建築手続きには着手できてしまう内容となっています。

また、大規模マンションの建設情報を保育担当部局が入手しても、それに見合う保育施設を機動的に整備するのは容易ではありません。公募・保育事業者の準備・審査等、1年近くの年月が必要です。また、保育士不足・用地不足がネックとなります。

同条例案は一定の効果を生むでしょう。しかし、実効性の観点では疑問です。

大規模マンションの低層部分に保育施設を

実は大規模マンションが建築される地域において新たに保育施設する場合、最も適している場所は「大規模マンションの低層部分」だと感じています。ニーズがあるからではありません。「敷地面積が広く、日当たりも良く、園児が生活するのに適している」からです。

ここ数年、大阪市内各地で建設される保育所や周辺地域をくまなく歩いてきました。多くは保育所として許容できる敷地・建物を利用して開設されています。しかし、中には「本当にここに保育所を建てるのか?」と感じた場所もあります。

典型例はラブホテルの目の前・鉄道高架の横に建てられたケースです。

大阪市でもラブホテルの目の前に私立保育所を新設か?

これ以外にも、トラックが頻繁に行き交って工場が集中する地域のど真ん中に建てられた保育所・鉄道高架横の不整形地でペンシルビル状に建てられた保育所などがあります。

こうした土地に共通するのは、「マンションや戸建住宅を建築するには適さない」という点です。住居としての利用に適さない土地の一部が、保育所として利用されているのが実情です。

大規模マンションの低層部分を保育所へ誘導するにはどうすれば良いのでしょうか。骨子案では「協力要請」と記載されているだけです。「協力要請」から一歩踏み込んだ対応が必要ではないでしょうか。

一つの方法は「大阪市による低層部分の賃借・保育事業者への転貸の制度化」です。大規模マンション事業者の中には「保育施設として大阪市が借りるなら、要請に応じても良い」と考える事業者もいるでしょう。賃借料という形で金銭的なインセンティブも働きます。

超大規模マンションには設置義務を

大規模マンションの中には800戸を超えるタワーマンションもあります。ザ・パークハウス 中之島タワー(894戸、北区中之島6丁目)、リバーガーデン福島木漏れ日の丘(850戸、福島区鷺洲5丁目)は市内有数の超大規模マンションです。

仮に半数弱の400戸がファミリータイプ、各世帯に子供(0-15歳)が2人がいると仮定すると、800人の子供が暮らす事となります。各学年の子供数は50人です。小学校1校(300人)・保育所1-2園(想定120人)に相当します。

特に中之島地域では、保育所に見合う広さ・価格の土地を見つけるのは極めて困難です。全体最適の見地から考えると「タワーマンション内に保育所を設置する」のが適当です(他の方法は困難)。

骨子案では「70戸以上のマンション」を対象としています。しかし、こうした超大規模マンションに対しては、保育施設の設置義務化も含めた強い対応が必要です。

小中学校も足りない

不足するのは保育施設だけではありません。園児が大きくなれば、小中学校へ進学します。実は市内中心部では、既に小中学校の児童数・生徒数が急増しています。

第1回大阪市内中心部児童急増対策プロジェクトチーム会議の会議録・資料に赤裸々と記載されています。堀江小(西区)は既に児童数が1000人を超え、日吉小(西区)・中央小(中央区)も数年内には1000人を突破する見通しです。

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保育施設に限らず、小中学校も早急な対応が必要です。大規模マンションや周辺地域に住んでいる子育て世帯が可哀想です。

現在も入所しにくい保育所へは更に入所しにくくなる、新しい保育所は住居に適さない場所・小中学校はあまりに過密で運動会すら開催できない、という事態が見えています。

同条例で得た内容は保育施設の整備のみならず、小中学校の過密化対策としても利用されるべきです。また、事業者はマンションの購入検討者に対して、地域の保育施設・小中学校の現状と将来予測を正確に伝えるべきでしょう。教育・保育情報の告知義務化です。

大阪市は子育て世帯への重点支援を打ち出しています。しかし、過密化する市中心部は子育てに適した生活環境とは言い難いです。子育て世帯の市外流出を引き起こしかねません。

マンション事業者の目的は営利です。当然です。その一方で、開発による外部不経済を一方的に大阪市・地域住民・入居者へ押しつけているのが現状です。営利に見合った一定の負担を負うべきではないでしょうか。

パブコメは平成29年7月24日まで

同骨子案に対するパブリックコメントは7月24日まで募集が行われます。応募方法等は大阪市ウェブサイトをご覧下さい。

特に市内中心部で子育てしている方は、保育施設が不足して入所しにくい事に不満を持っている世帯が少なくないでしょう。この機会にパブリックコメントを提出し、不満の大きさや対策の強化を主張するべきです。

私も提出する予定です。皆さんでぜひ送りましょう。