横浜市の戸塚芙蓉(ふよう)保育所が実費徴収額を年1万8000円へ値上げした事が問題視されています。
横浜の保育所、実費7.5倍に値上げ 土曜給食虚偽報告
横浜市に対して「土曜日も給食を出している」と虚偽の報告をしていた戸塚区の認可保育所「戸塚芙蓉(ふよう)保育所」が今春、本や雑品の購入などに充てる実費の徴収額を、5歳児で従来の7・5倍にあたる年1万8千円に値上げしていたことが市への取材でわかった。突然の大幅値上げに保護者が反発。市は必要最小限の実費徴収を認めているが、額の規定がないことから、全市で実態調査を始めた。
市は26日、戸塚芙蓉保育所など、社会福祉法人「ももの会」が運営する六つの保育施設に特別指導監査に入り、保育の実態を調べている。この日の職員からの聞き取りで、戸塚芙蓉を含む認可保育所4施設で事前の報告に反し、土曜給食を出していなかったことがわかったという。
市によると、戸塚芙蓉保育所は昨年度は「教材費」として年齢を問わず年2400円を徴収。だが今年度は年齢で徴収額を変え、最も高い5歳児は毎月1500円ずつ、年間合計で1万8千円と7・5倍に値上げした。
「なぜ高くなるのか」との保護者の指摘に対し、保育所側は内訳を説明。月刊本12カ月5040円▽写真アルバム・保育証書など4800円▽ひらがな練習帳900円▽お楽しみプレゼント2千円▽制作費用(画用紙、のり、絵の具)1500円などとしている。
ももの会の上山福恵子理事長は、朝日新聞の取材に対し、「従来は教材費とは別に実費を頂いており、手間を省くためにまとめた。保護者が払う額は変わらない」と説明した。
一方、関係者は「昨年度は月刊絵本や写真は希望者のみで、最低限払う実費は年3千円程度だった」と証言。保育所側は今月になり、月刊本とアルバムは希望者のみにすると、利用者側に説明したという。
保育にかかる費用は、行政が保育所に払う委託費でまかなうのが原則だ。市が直営する市立保育所では現金は扱わない規則で、実費徴収はない。必要な物品は業者から直接購入してもらい、額も最小限にしているという。
一方、戸塚芙蓉保育所のような民間保育所に対しては、ガイドラインで「費用徴収は原則認めない」と規定。例外として「十分な説明を行い、全ての利用者から理解を得た」場合に、必要最小限の徴収を認めるとしている。
この実費徴収額は、保育所によって大きく異なる。各保育所が戸塚区に提出した重要事項説明書の記載によれば、月額や年額などの定額ではなく、連絡帳やクレヨン、帽子代などを個別に記載する例が多い。年間数百円で済む園もあれば、絵本や教材を購入し、合計すると1万円近くなる園もあった。
市幹部は「年1万8千円は常識で考えて高すぎる」と話すが、実費徴収の実態は把握できていないのが実情だ。このため平均値など指導の根拠となる数字を得ようと、全保育所の実費額を調べることにした。
戸塚芙蓉保育所は、土曜日の給食を提供していないのに、市の調査に対し、通常通りの給食を出していたと記載した虚偽の給食日誌を提示。その後に「弁当を持参させ、軽食を出していた」と説明を変えた。保護者は軽食もなかったと証言しており、市は給食日誌の記載やその後の説明が虚偽の可能性が高いと判断。特別指導監査に踏み切った。
保育所等で過ごすのに必要な費用は、自治体へ支払う「保育料」だけではありません。殆ど全ての保育所で「実費徴収」が行われています。
大阪市ウェブサイトでの説明書きによると、実費徴収とは『幼稚園・保育所(園)・認定こども園・地域型保育事業で使用する日用品・文房具等の購入に要する費用、遠足等の行事への参加に要する費用等について、市の定める利用者負担額(保育料)とは別に、各施設等が徴収するもの』とされています。
つまり「保育所等の指示により、保護者が保育所等(斡旋する業者を含む)へ支払う費用の総称」と呼べそうです。具体例も掲載されています。
制服、通園かばん、スモッグ、体操服、おむつ、午睡用ふとん(リース可)、名前のゴム印、名札、カラー帽子、歯ブラシ、タオル、コップ、上履き、文房具、連絡帳、食事エプロン、教材代、絵本代、IDカード、修了証書入れ、各種保険料、バス送迎費、宿泊行事費、遠足等の行事に係る交通費、入場料(こどもに係る費用のみ)、副食費(おかず等/1号認定こどものみ)など
延長保育料、一時預かり保育料、主食費(米飯・パン等)、 副食費(おかず等/ただし1号認定こどもは対象)、PTAや保護者会の運営に要する費用、英語レッスン料・講師謝礼等、写真・アルバム・DVD代など
これらは個人の所有物となる(制服)、必要とするのは一部の園児のみ(バス送迎費)、施設によって費用にバラツキがある(宿泊行事費)といった性質があります。
その為、自治体から支払われる委託費には含まれず、必要とする園児から徴収する形式となっているそうです。
徴収方法は大きく二通りあります。一つは「その都度に徴収する(制服)」、もう一つは「毎月徴収する(バス送迎費)」方法です。こうした費用は保育所等での生活に必要な物・サービスに充てられています。
実費徴収の内容・額は重要事項説明書に記載
では、実費徴収の内容・額はどこに記載されているのでしょうか。必ず記載されているのは「重要事項説明書」です。この書類には保育施設の運営主体・施設概要・保育目的・職員数等、重要な事柄が記載されています。
とある大阪市内の保育所の重要事項説明書はウェブサイトに掲載されています。この様な形で項目・目的・金額が記載されています。
重要事項説明書は保護者に交付する物とされています。
その反面、保護者以外の方が確認するのは容易ではありません。ウェブサイトに掲載している施設は一部に限られています。また、見学の際に「重要事項説明書が欲しい」と依頼するのは勇気がいるかもしれません。
なお、これと同じ内容が各施設のウェブサイトや自治体ウェブサイトに掲載されている場合もあります。大阪市は「特定教育・保育施設基本情報」に「保育料以外に保護者に負担を求める費用」として掲載されています(支援施設データベースよりアクセスできます)。
これらを全て確認しても分からなかった場合は、施設へ「実費徴収額を教えて欲しい」と訊ねるのが良さそうです。
事実上、実費徴収は拒否できない
では、実費徴収は必ず支払わなければならないのでしょうか。
実費徴収は一方的に徴収されるものではないとされています。制度パンフレットには「保護者の同意(書面同意は不要)を得る必要があります」と明記されています。
しかし、同意を拒めるものでしょうか。横浜市のウェブサイトに詳しく掲載されています。
(9)重要事項説明書に同意しなかった場合の対応は。重要事項説明を修正しなければならないのか。
重要事項説明は、施設・事業が提供する保育・教育の内容を記載するもので、同意が得られなかったからといって、ただちに修正しなければならないものではありません。
同意が得られない場合は、なぜ同意することができないのか、どの部分に気になる点があるのか、など保護者の方からよく聞き取りをし、丁寧に施設・事業における保育内容や事業者の意図、考え方を説明し、理解を得るようにしてください。
なお、保護者の方々との話し合いの結果、提供内容の見直しが必要であると事業者が判断した場合は、他の保護者の方の同意を得たうえで、重要事項説明書の修正をしていただくことは問題ありません。
どうしても納得されず、同意が得られない場合は、利用者は保育・教育の提供内容に同意しないということですので、保護者より区役所に対し利用の取り下げ、転園申請等の手続きをしていただくことも考えられます。なお、転園申請の場合は、他の申請者よりも優先度が下がります。
重要事項説明書には実費徴収に関する項目も含まれています。これに同意しない場合は、施設への入所自体も同意しない扱いとされてしまいそうです。
入所が決まってから初めて重要事項説明書を読んで気づいた、新年度から実費徴収額が大幅に値上げされた等、大きな問題が生じる可能性が否定できない趣旨となっています。
高額の実費徴収で事実上の入所者選抜を行う施設も?
実費徴収は施設の広い裁量が認められているのが実情です。問題が明白で無い限り、自治体が介入して実費徴収額を変えるのは困難でしょう。
これを逆手にとっている施設もあるそうです。多様な習い事や充実した施設を提供する代わりに、高額の実費徴収額を設定している施設です。
例えば「充実した食育・グローバル人材を育てる為の英会話・お受験教育・有名デザイナーが作成した制服など」を名目とし、一時的には数万円、毎月1万円前後の実費徴収を行っている施設です。
所得によって負担額が変わる保育料と異なり、実費徴収額は一定額とされています(生活保護世帯を除く)。この為、高額の実費徴収を要する施設は負担額が相対的に大きくなってしまいます。
実費徴収額を高く設定する事により、事実上、低所得世帯の入所申込を拒む事ができてしまいます。
大阪市の保育所を調べたところ、幾つかの施設で高額の実費徴収を行っている施設が見つかりました。毎月1500円の実費徴収への変更が問題視されている戸塚芙蓉保育所を遙かに上回る額です。
しっかりした目的を持って徴収しているとは言え、低所得世帯は入所しにくい雰囲気を感じてしまいました。
おかしな点は自治体へ相談を
実費負担の中には「不要では無いか、あまりに高額だ」といった内容が含まれている場合もあるでしょう。無条件で同意しなければならないのでしょうか。
黙っていたら「同意した」と見做されてしまいます。まずは実費徴収の目的を詳しく訊いて下さい。しっかりした考えを有している施設長であれば、十分な説明が行われるでしょう。
しかし、中には辻褄が合わない説明が行われる事もあります。納得できなければ、自治体の保育窓口へご相談下さい。複数の保護者で相談すると、事態の重要性が自治体へ伝わりやすくなります。