以前に「保育園からの騒音がうるさい」として、近隣住民が防音設備設置と慰謝料の支払いを求めて提訴した件をお伝えしました。

「保育園の声うるさい」近所の男性が提訴 神戸

昨日2月9日に神戸地裁で判決が出ました。原告の請求は棄却されました。

保育園騒音訴訟
「受忍限度超えず」請求棄却 神戸地裁

神戸市東灘区の私立保育園の近くに住む男性が「子どもの声がうるさい」として、運営する社会福祉法人(岡山県津山市)に防音設備設置と慰謝料100万円の支払いを求めた訴訟で、神戸地裁(山口浩司裁判長)は9日、「社会生活上、受忍すべき限度を超えているレベルとは認められない」として、男性の請求を棄却した。

判決によると、保育園は神戸市が認可して2006年に開園し、定員は約120人。男性は約50年前から園の約10メートル北に居住している。市に保育園の騒音を規制する条例はなく、裁判所が騒音レベルを鑑定。特定の工場などに適用する騒音基準に照らすと、園庭での音はこの地域の基準(60デシベル)を上回る76デシベルだったが、男性宅での音は54.2デシベルで、環境基本法に基づくこの地域の昼間の環境基準55デシベルを下回っていた。

判決では、児童福祉の観点から保育園の公益・公共性を認める一方で「近隣住民は、直接その恩恵を享受しておらず、殊更重視できない」と公共性を理由に特別に我慢を強いることは認めなかった。その上で、園庭での遊戯時間が3時間程度であることや、既に防音壁などの対策が取られていることから「精神的・心理的不快を被っていることはうかがえるが、騒音レベルは受忍すべき限度を超えていない」として男性の主張を退けた。

http://mainichi.jp/articles/20170210/k00/00m/040/110000c

他誌も報じています。

「保育園から騒音」近隣住民の請求棄却 神戸地裁(神戸新聞)
保育園めぐる裁判 「限界超えず」、子どもの声「騒音」訴え棄却(FNN)
「うるさい園児の声」限度超えてない…請求棄却(読売新聞)
「保育所がうるさい」原告の訴えを棄却(毎日放送)

争点となっている保育所はロングステージCOCORO保育園、被告は社会福祉法人鴬園です。

保育所は神戸市東灘区魚崎西町2丁目にあります。敷地面積が約1600平方メートルあり、大阪市内の一般的な保育所と比較すると余裕のある敷地規模でしょう。

上記保育園と近隣住宅はほぼ隣接しています。これを踏まえた上で、報道内容から地裁判決で重視された点などを見ていきます。

保育園の公益・公共性による受忍限度の緩和

原告・被告の主張は明らかではありませんが、裁判長は「保育園の公益・公共性と受忍限度」について指摘しています。

具体的には「近隣住民は、直接その恩恵を享受しておらず、殊更重視できない」「保育園の公共性をことさら重視し、受忍限度を緩やかに設定できない」と指摘したそうです。

公共性・公益性を理由とした受忍限度の緩和(=異なる基準の採用?)を否定した様子です。

騒音基準

原告は「子供らの声や太鼓の音などは騒音で、神戸市が工場などを対象に定めた規制基準が保育園にも適用されるべきだ」「神戸市の基準である70デシベルを採用すべき」と主張しています。この数字は幹線道路の近接地域・工業区域等に適用される基準です(詳細はこちら)。

原告宅は保育園に加え、阪神高速道路や六甲ライナーにも取り囲まれています。こうした点も踏まえ、「70デシベル」という基準値を主張したのでしょうか。

しかし、裁判長はこれを認めませんでした。理由は明らかではありません。

ところで神戸市には保育園の騒音を規制する条例はありません。そこで、裁判長は通常の騒音規制、つまり環境基本法に基づく環境基準を採用しました。

神戸市の指定状況によると、この地域は「AないしB地域」とされています。昼間(午前6時~午後10時まで)は「55デシベル以下」が基準値とされています。

裁判長は園庭及び原告宅での騒音レベルを鑑定し、基準に当てはめました。園庭では自動車騒音の限度(75デシベル)すら上回る76デシベルを測定しました。

一方、保育園から約10メートル離れた原告宅では54.2デシベルを測定し、上記基準値を辛うじて下回ったそうです。

保育園の騒音対策・努力

これに加え、裁判長は保育園の騒音対策を評価しています。具体的には下記の事項を指摘しています。

・約1年にわたって住民説明会を開き
・園庭での遊戯時間が3時間程度である
・要望に基づいて防音壁を設置している
・一部近隣住民宅の窓を二重サッシに取り換えている
・原告に対し、保育園から防音対策等も提案されていた

保育園も騒音問題が生じている事を認識した上で、周辺への影響を可能な限り小さくしようとしていました。

より丁寧な騒音対策が必要

これらの点から判決は「原告が精神的・心理的不快を被っていることはうかがえるが、騒音レベルは受忍すべき限度を超えていない」として、原告主張を退けました。

上記判決から、下記の教訓が読み取れそうです。

1.子供の声も騒音、保育園だから「うるさくても構わない」という主張は通らない
2.一般的な住宅等と同様、保育園からの騒音も地域の騒音基準に当てはめて検討する
3.保育園による騒音対策も勘案する

上記判決が地裁で確定するか、それとも控訴審で争われるかは分かりません(2週間以内にはっきりするでしょう)。いずれにしても、今後の保育所の新設に際しては、こうした点をこれまで以上に重視されるのではないでしょうか。

仮に事業者が「保育園だからうるさいのは当然だ。騒音対策も予定しない。」として工事・開設を強行した場合、裁判所によって保育所の工事や利用が差し止められる場合もあるかもしれません。

同時に、保育所の開設等を審査する場においても、騒音対策・交通対策等といった近隣住民への配慮がより重視されるべきでしょう。