主に首都圏で待機児童問題が深刻さを増していますが、大阪市も例外ではありません。様々な対策を既に実施しており、更なる対策も検討しています。今回は保育所を利用している児童や保護者に大きく関係する施策、すなわり「保育士配置基準の緩和」を取り上げます。
既に幼稚園教諭等で一部代替できる条例は可決されました。これに加えて、育児経験等を有する保育サポーターで更に代替する構想が検討されています。
大阪府と大阪市は待機児童対策として、府内市町村の保育士の配置や保育室の広さの基準を緩和する国家戦略特区の制度案をまとめた。「保育ママ」ら地域の人材を生かし、保育所や職員不足の解消を目指す。松井一郎府知事が近く、石破茂地方創生相に提案する。
国は4月から、子の年齢や人数に応じて定める保育士の配置基準の3分の1までは、小学校や幼稚園の教諭資格などを持つ人で代替可能とした。大阪府・市はさらに、市町村の研修を受け、自宅などで子どもを預かる保育ママや保育士を補助する子育て支援員も活用できるように提案する。
国は待機児童が100人以上で、地価が高い一部の都市部で保育室の面積基準も緩和している。大阪市では、0~1歳児のほふく室(はいはいをする部屋)で、1人あたり「3・3平方メートル以上」とする国の基準を、待機児童がいる地区は半分の「1・65平方メートル以上」にしており、他の府内の市町村も待機児童数や地価に関係なく、面積基準を緩和できるよう求める。
府によると昨年10月現在の府内の待機児童数は、大阪市の511人を含めて計3349人。保育所や職員を増やすことで受け皿を増やしたい考えだ。今後、府内の市町村長の意見も聞きながら、安全対策なども盛り込むという。
あくまで提案であり、実現されるかは今後の議論等に委ねられています。
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(5/12追記)
国に対して正式に要望しました。
【ニュース】保育所設置要件、特区による緩和を要望…大阪府知事
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特区構想はおおさか維新の会が主導か
肝は「市町村の研修を受け、自宅などで子どもを預かる保育ママや保育士を補助する子育て支援員も活用」という部分です。実は3月市会の教育こども委員会にて、佐々木委員(維新)が10月市会で提案した内容を改めて指摘しています。趣旨は下記の通りです。
・資格はないが十分な育児経験や知識を有する方を積極的に活用すべき
・保育ママバンクの登録者を保育サポーターとして割り当てるという手法も考えられる
・これによって保育士の勤務時間が短縮され、潜在保育士が復帰しやすくなる
・保育士の業務負担が軽減される
・保育所における人的資源の拡大を図れる
・手が掛かる時間帯・年齢へ保育士を集中できる
おおさか維新の会が提言した『今すぐ待機児童「ゼロ」作戦』でも取り上げられています。
待機児童が多い地域に限り、5年間の特例措置として、 保育士資格は持たないが、保育に関する知識と経験を持つ 「 保育サポーター」を認定する。0歳児、1~2歳児の保育士を対象とし、児童の各年齢ごとの配置基準を目安として、「保育サポーター」を配置する。これにより、保育士不足が原因によって生じる待機児童の問題解消を目指す。
実現されると確かに保育士不足が緩和されるでしょう。しかし、これは「保育士を保育現場へ呼び戻す」のではなく「保育士の代わりに保育士以外を配置する」という手法です。
保育人材は拡大するが、否めない不安
保育所を利用している保護者の立場からすると、保育所・保育士の監督下であっても保育士以外による保育には漠然とした不安が残ります。養成校等で教育を受けた保育士と一定の研修を受けた保育サポーター等、保育に関する知識や経験等が大きく異なるのは否めません。
こうした提案が現行の保育士配置基準(1歳児6人に対して保育士1人以上など)に上乗せするものであれば歓迎できます。保育の質は維持ないし向上し、勤務環境も改善されるでしょう。
しかし、特区案は「保育士の代替」として検討されています。保育人材の供給拡大が図れるのと引き換えに、保育の質は一定程度は確実に低下するでしょう。
大阪市では先日、認可外保育施設で男児が死亡する事故があったばかりです。児童の安全に直結する保育士配置基準は、より慎重に検討して欲しいと感じました。
なお、特区制度が導入されても、保育サポーター等を雇用するかは各施設の判断に委ねられるでしょう。幼稚園教諭等の雇用と同じです。自治体が問題ないと判断するのであれば、まずは極度の保育士不足に陥っている公立保育所から導入して検証するのを望みます。