令和5年(2023年)8月14日に大阪市立中学校に所属する中学3年生が自死しました。原因は「水泳部でのいじめ」でした。大阪市が設置した第三者委員会が調査等を行い、大阪市へ報告書を提出しました。
令和7年5月12日 10時発表
大阪市は、「児童等がその生命等に著しく重大な被害を受けた事案に関する第三者委員会 令和5年大市教委第2052号に関する部会」から「大阪市立中学校生徒のいじめ申立に関する調査報告書」を受領しました。
本市としましては、この報告書を真摯に受け止め、厳正に対処してまいります。大阪市立中学校生徒のいじめ申立に関する調査報告書(第1章~第2章)(PDF形式, 6.26MB)
大阪市立中学校生徒のいじめ申立に関する調査報告書(第3章~第6章)(PDF形式, 3.80MB)https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kyoiku/0000652898.html
自死した生徒のご冥福を祈ります。
報告書には具体的ないじめや学校・保護者の対応等が記されています。
いじめを主導したのは同じ水泳部に所属していた同級生(報告書では「S4」)でした。よくしゃべって騒がしく、同級生には偉そうな態度で命令口調で話し、大人しい生徒をいじる事があり、教員から厳しく指導を受けた事もありました。S4は授業中に教員を泣かした事もありました。
同様の「いじり行為」は他の生徒間でも横行しており、たびたび教員が相談・指導等を行っていました。被害生徒もS4を苦手としていました。被害生徒が特に嫌がっていたのは「だるがらみ」でした。
S4はクラスメイトのみならず、水泳部員にもいじり行為を行っていました。嫌がっている同級生は少なくなく、中には「部活動がしんどい」「S4が横暴」と述べた生徒もいました。
いじり行為はエスカレートし、一部の同級生も同調しました。水泳部ではS4から無視され、クラスでも執拗にいじり行為を繰り返していました。周囲の生徒が嫌悪感を示すほどの頻度と程度でした。他の生徒もターゲットとされ、教員が何度も指導を繰り返しました。
他の生徒間でもトラブルが頻発しており、「いじり行為」が蔓延していたと窺えます。学校内のみならず、S4はグループLINEにもきつい投稿をし、いじり行為はSNS空間にも拡大していました。
同様の行為は水泳部内でも横行していました。S4等が他の生徒を何度もプールへ突き落としたり、練習中にプール内で唐突に止まって被害生徒の進路を塞いだり、休憩中に水を掛けた事もありました。気づいた水泳部顧問が何度も注意しましたが、S4は指導に強く反発しました。
S4の行為を何度も制止した上級生が引退した後は、S4のふざけ行為や嫌がらせは更にエスカレートします。時には下級生が「やめましょうよ」と咎める場面もありました。その後もS4は複数の生徒にいじりを繰り返し続けました。
水泳部内の空気は荒れます。別の生徒が被害生徒をプールサイドで転倒させ、頭部を強打した事もありました。が、部員が負傷した事実を顧問は把握していませんでした。
中学3年生に進級した後もS4による悪ふざけは続きました。水泳部顧問から毎週の様に注意されていましたが、その度に反発し顧問を茶化していました。
S4の当該生徒に対する悪口等は更に酷くなりました。あからさまに仲間外れにしたり、無視したり、直接「うざい」「くそ○○」などと怒鳴ったりしていました。
S4を恐れた水泳部下級生も被害生徒から距離を取りました。水泳部内で被害生徒は孤立を深めていきます。
SNSいじめも続いています。LINEグループの名前を「○○(被害生徒の名字)カルビ」としました。S4の意向により、LINEグループに被害生徒は招待されていません。S4は被害生徒の背中を指さしながら「○○カルビ」と茶化した事もありました。
被害生徒は心を痛めていました。インスタグラムに「しんどい」「もういやだ」と発言していました。
決定的だったのは、8月14日に実施された水泳大会後の打ち上げ(カラオケ・焼肉)でした。水泳大会で優秀な結果を残した被害生徒は喜びましたが、打ち上げはS4の主導によって被害生徒抜きで行われました。被害生徒は打ち上げの有無を水泳部員に訊ねましたが、S4に「言うな」と口止めされていました。
S4のインスタグラムへの投稿を見た別生徒は、被害生徒が打ち上げに誘われていない事に気づきました。LINEにて「はぶられてない」と投げかけると、被害生徒からは「やっぱし」等の返事がありました。
その日の夜、被害生徒は自死しました。遺書には「ごめんなさい 今までありがとう すべてが嫌になった 本当にごめんなさい もうこれ以上傷つきたくなかった。ありがとう」と遺されていました。
報告書は「S4を中心に繰り広げられた水泳部内の当該生徒に対するいじめが最大の要因であると考えるのが合理的である。」と断定しています。
「いじりを笑いと捉える」「子供が年齢不相応に大人びた行動」
興味深い記述もありました。「いじりを笑いと捉える地域文化的背景や、子どもたちが年齢不相応に大人びた行動をとる生活様式である。」という文言です。私も思い当たる節があります。
「いじりを笑いと捉える」というのは、大阪特有のお笑い文化、特に多くのお笑い芸人は所属している有力芸能プロダクションに影響されています。
「いじり」への対応は本当に難しいです。無視するとエスカレートする、言い返すと「本気にすんなよ」「冗談なのに分からないやつだなあ」などと再びいじります。いつどこでいじられるか予測できず、心が病んでいきます。
学校でのいじりは教員が厳しく指導するのが筋です。当該学校では教員や水泳部顧問が繰り返し指導を行いましたが、S4は反発するばかりでした。最終的には顧問や他生徒の目が届きにくい水泳部内でいじり行為がエスカレートし、最悪の結末を招きました。
「年齢不相応に大人びた行動」も同感です。いずれも子供だけで「USJに遊びに行った」「学校行事後にカラオケやファミレスで打ち上げをした」「なんばへ買い物に行った」という事例を周囲から聞き、本当に驚きました。
こうした行動は大繁華街を抱える大阪特有なのでしょうか。一昔前の高校生や大学生の行動様式です。
一般的な中学生のおこずかいではこうした遊びはできないので、親が承認等をしているのでしょう。我が家の子供も友達とこうした遊びをしたいとの相談がありましたが、「中学生には早い」と拒否しました。
中学校の指導が甘い、家庭への連絡が遅い
自死後、学校はS4の保護者へ頻繁に連絡を行い、学校にも来て貰っています。しかし、自死前にはこうした記述がありません。S4への指導を家庭に連絡し、家庭での見守り等を依頼した形跡は見当たりません。
確かに中学生に親が注意等をしても、なかなか聞き入れられません。むしろ反発を強めるばかりです。しかし、学校で発生している事態を親が認識しているか否かは大きな違いです。もしもS4の保護者が重大視したのであれば、スマホを取り上げるという対応を行えたかもしれません。
実は2025年度から「大阪市学校安心ルール」が改訂されました。
S4等の行為は第2段階や第3段階に相当します。が、その場での注意や個別指導に留まっていました。学校の対応が温く、事態を悪化させた側面もあります。
中学校の先生方は「SNSは学校から見えない。家庭で対応して貰わざるを得ない。」としばしば口します。しかし、SNSトラブルの発端は学校で発生しており、それがスマホで深刻化するのが専らです。
小学校とは違い、中学校で何が起きているかは保護者からはなかなか見えません。何らかのトラブル等が起きており、家庭での対応を求める旨の連絡等があれば、本件でも何らかの対処ができたかもしれません。
いじり行為等の被害に遭っている生徒の中には、「加害者に学校に来て欲しくない」という思いを有する人もいるでしょう。学校で十分な対応が行わなければ、教育委員会や所轄の警察署へ相談するのも一つの方法です。