現行の児童手当限度額(京都府向日市ホームページより)

児童手当の所得制限を撤廃する方向で議論が進むと思いきや、これに反対する世論や政治家の意見も少なくありません。

JNN(TBS系)にが行った世論調査によると、56%が「所得制限を継続すべき」、33%が「廃止すべき」と回答しました。

児童手当の所得制限「継続すべき」56%、「廃止すべき」33% JNN世論調査

政府は少子化対策の一環として、自民党の茂木幹事長をはじめ、公明党や多くの野党が「児童手当の所得制限を撤廃すべき」と主張していますが、所得制限について「継続すべき」と考える人が56%、「廃止すべき」と考える人が33%だったことが最新のJNNの世論調査でわかりました。

児童手当は中学生以下の子どもがいる世帯に1人あたり最大1万5000円を支給するものですが、一定以上の収入の世帯は所得制限によって減額、もしくは支給対象外となっています。

複数の政府関係者によりますと、現在、政府はこの所得制限を撤廃する方向で検討に入ったということです。

また、岸田総理は「異次元の少子化対策に挑戦する」と意欲を示していますが、岸田内閣の少子化対策に「期待する」と考えている人は33%、「期待しない」と考えている人は61%でした。

さらに、政府は将来的に子ども関連予算を倍増させる方針ですが、その方針に「賛成」の人は68%、「反対」の人は19%でした。一方、その財源について増税で賄うことに「賛成」の人は40%、「反対」の人は51%でした。

少子化対策の具体的な取り組みとしてもっとも効果的だと思う取り組みについて聞いたところ、▼「児童手当など経済的支援の拡充」は16%、▼「幼児教育や保育サービスなどの拡充」は17%、▼「働き方改革の推進とそれを支える制度の充実」は29%、▼「若い世代の賃上げ」は26%、▼「結婚を支援する取り組みの拡充」は7%でした。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/313044

所得制限が適用されている子育て世帯は極一部に留まっています。制限を受けている世帯が廃止を主張するのは当然だとしても、制限を受けていない世帯でも一定割合が「廃止すべき」と主張しています。

所得制限を継続すべきと主張している代表的な政治家は、自民党の西村経産大臣です。

 西村経済産業大臣:「私は限られた財源のなかで、その方々(高所得者)に配るよりかは、より厳しい状況にある方に上乗せをするなり、別の形で子育て支援、厳しい状況にある家庭の子育て支援をすべきだという考え方を今でも持っております」

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000285804.html

より慎重な議論を求めているのは、加藤厚労大臣です。

 加藤厚生労働相は5日、岡山市内の会合で児童手当を巡り、政府・与党内で所得制限の撤廃案が浮上していることに関し、「撤廃しろという話にちょっと議論が行き過ぎ、中心になり過ぎている」と述べ、苦言を呈した。(中略)

加藤氏は所得制限の対象者は都市部と比較して地方には少ないと指摘。「そういう皆さんからすると、何を議論しているのかなと思われてしまう」と懸念を示し、国民負担などを含め、「もう少し幅広く議論すべきだ」と呼びかけた。

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20230205-OYT1T50108/

ニッセイ基礎研究所の調べによると、児童手当が支給されていない子供は全体の4%に当たると見込まれています。

高所得者の殆どは東京区部に集中しています。東京都千代田区・港区・文京区・中央区では、児童手当が支給されない子供の割合が半数以上に上っています。

18歳以下への10万円相当の給付で、東京23区のうち千代田区など4区で所得制限によって支給の対象外となる子どもが5割以上を占めていることがわかった。

区名児童手当が支給されない子供の割合
千代田区56%
港区56%
文京区54%
中央区50%
目黒区48%
渋谷区46%
世田谷区44%
新宿区40%

https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/support/51410/より作成

児童手当の所得制限撤廃は、こうした極めて恵まれた高所得世帯へ児童手当を支給するという話となります。子育て世帯間の所得格差を増大するのは間違いありません。

では、所得制限撤廃が少子化対策になるのでしょうか。答えは明らかに「No」です。

既に多額の所得を得ている世帯に児童手当を支給しても、世帯所得の伸び率は僅かです。都市部での子育ては高コストです。もう1人を産み育てようとする動機付けにも費用補助にもなりません。

制限を撤廃して支給された児童手当は、多くは塾代や私立学校の授業料に充当されるでしょう。産まれてくる子供の為では無く、今いる子供の為に使われます。そして、その金銭は教育業界を潤します。高所得世帯への児童手当支給は、費用対効果という面では全く見合わないでしょう。

児童手当の拡充等はあくまで「育児支援」です。決して「少子化対策」ではありません。

ただ、世帯で所得を生み出しているのは子供ではありません。どの様な世帯所得であれ、子育てには一定の費用が掛かります。同じ高所得世帯であっても、子供が4人いる世帯と全くいない世帯で児童手当による補助額が同一(共に0円)なのは不合理です。

世帯所得の高低によって制限を設ける事は不公平であり、子育て世帯間の分断を招きます。

こうした観点から、私は世帯所得によって制限を設ける事には否定的です。少なくとも特例給付(月5000円)を復活させるべきでしょう。それと同時に、世帯間の所得格差を是正する措置も必要となります。

昨年前に岸田首相が「異次元の少子化対策」を打ち出しました。それに続き、様々な自治体や首長等も同趣旨の主張や施策を展開しています。

が、殆どは子育て世帯の育児支援です。子育て世帯に金をバラマキ、様々な費用を無償化しようとするものです。少子化対策の本丸となる「若年層の雇用・経済対策」や「育児負担が重い母親の負担軽減策」等は殆ど議論されていません。交際・結婚・出産できない世帯を切り捨てようとしています。

一つの子育て世帯として、家計への経済支援は助かります。でも、限られた財源をこの様な浪費しても良いのかは甚だ疑問です。子供や孫の世代に重い負担としてのし掛かってくる未来が見えています。タダより高い物はありません。