東京都立高校等の制服を販売している「ムサシノ学生服」に注文した制服が入学式に間に合わず、混乱が広がっています。
入学式までに制服届かず “私服などで参加を” 都教委呼びかけ
東京都内では7日に、多くの高校や中学校で入学式が行われますが、「前日になっても注文した制服が届かない」という声が、相次いで学校に寄せられています。
いずれも武蔵野市の事業者に発注した制服だということで、都の教育委員会は、制服が届かない場合は、私服などで入学式に参加するよう異例の呼びかけを行っています。東京都や区や市の教育委員会によりますと、多くの学校で入学式を7日に控える中、八王子市や町田市など、多摩地方を中心に「入学式の前日になっても注文した制服が届かない」という連絡が、保護者から学校に相次いで寄せられたということです。
いずれも、武蔵野市に本社を置く「ムサシノ商店」が店舗を運営する「ムサシノ学生服」に注文した制服だということです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220406/k10013570241000.html
昨日4月7日に社長が記者会見を行い、謝罪しました。
“新入生100人ほど入学式までに制服届けられず” 社長が謝罪
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220407/k10013571011000.html
記者会見や関連報道から、間に合わなかった理由を抜粋しました。
【工場】
・海外からの材料納入が遅れた。
・国内工場はベトナム人等の外国人技能実習生の確保が難しく、人手が不足している。
・日本人従業員の採用や残業増によっても補いきれなかった。
・操業遅延によって納品が3月に集中した。
・1月以降に感染者や濃厚接触者が相次ぎ、工場の操業が停止した。
・デザイン性を向上した制服が増え、必要な技術を有する従業員を集めるのが難しい。
【販売店】
・2月中旬に社内で新型コロナウイルス感染者が発生し、対応に追われた。
・3月中旬になってから、とあるメーカーから「納期に間に合わない」と連絡があった。
・制服業界は受注、発注、製造、納品、出荷が1月から3月に集中する。
・3月末に危機感を覚えたが、出荷を最優先し、顧客や教育委員会への連絡が後回しになった。
【高校入学制度の変更】
・東京都立高校の男女別定員制度の緩和により、男女別入学者が変動する様になった。
・入学直前に私立高校を選択する生徒が増え、都立高校への入学者数が落ち込んだ。
従来は納入数を予測して早めに製造した上で、1月から3月の超繁忙期に全力を投入していました。しかし、今年は全力投入できませんでした。
最大の原因は「新型コロナウイルス」です。工場での感染拡大や技能実習生の入国不能により、工場の操業率が低下してしまいました。例年ならば期日内に何とか仕上げられていましたが、今年は生産計画が間に合いませんでした。
販売店もコロナに苦しめられました。同社の本社で2月15日にコロナ感染者が発生し(プレスリリース)、業務が停止・縮小してしまいました。
記者会見等では触れられていませんが、入学説明会等の会場における集団採寸・注文を避けた方も例年より多かったでしょう。大勢の人間が集まる会場での採寸等を避け、後日に販売店を訪れて採寸・注文した方は少なくない筈です。
更には納入予測を難しくする事情もありました。都立高校特有の制度であった男女別定員の廃止(女子の不合格者の最高点より、男子の合格者の最低点の方が低かった)や私立高校無償化による私立人気の高まりにより、都立高校の男女別制服受注予測にブレが生じてしまいました。
そして、こうした事態をムサシノ学生服が把握するのが遅れました。しかも適切な発表や相談より出荷業務を優先してしまい、混乱に拍車を掛けました。
あくまで推測となりますが、経営効率の低さも一因です。多くの制服販売店では、受発注業務を未だに「紙伝票」で行っていると聞きます。電子化とは無縁です。クレジットカードすら使えない店が少なくありません。全て現金決済です。
制服業界を取り巻く構造的な問題もあると感じました。保護者目線からは「制服は高い」と感じてしまいますが、少子化の影響が直撃している同社の経営は余裕がありません。
東京商工リサーチによると、ムサシノ商店の2021年7月期は売上高17億6329万円、最終利益237万円でした。営業利益や経常利益が分かりませんが、最終利益237万円は著しい低い水準です。一言で言うならば「薄利多売」です。
大阪市でも多くの小中学校が制服を採用しています。小学校は半数以上、中学はほぼ全校が制服(標準服)となっています。同様のトラブルが発生したとの話は聞いていませんが、今後に起こり得ないとは限りません。
少子化・納期短縮・人件費や原価の上昇は大逆風です。これから生じるのは「制服の値上げ」です。子育て世帯の経済状況は更に苦しくなります。