(5/22追記)
朝日新聞の記者が松井市長へ萩生田大臣の発言に対する受け止めについて訊ねました。

“聞く耳なし”の松井大阪市長 提言した校長を再口撃「ルール逸脱するなら、辞めてもらわな」

 大阪市役所で取材に応じた松井氏は、萩生田氏の発言に「当たり前やん。前提としては対面(授業)が一番ふさわしい。オンラインは100%完璧じゃないけど、緊急事態であったのでスピード感を持って一人1台の端末を活用しようと判断した。改善点があれば、日々改善していくのは当然のこと」と語った。

 一方で、教職員が意見を述べることについては「意見を言うことは問題ないが、大きな方針は組織として決定事項。決定事項の設計図に伴った職務を遂行してもらうのは当然。それを否定するなら、公務員としての職責を逸脱している」と改めて主張。「ルールから逸脱するような形で、教育振興基本計画と違う形で学校運営するとあればルール違反。辞めてもらわな」と処分の可能性について言及した。

 さらに、「決めたことをやらないというなら処分の対象。考え方は違うけど、教育振興基本計画に沿って学校運営するのが当然の話。社会人として当然じゃないの?組織の決まったことを覆そうと言うのなら、自ら公約掲げて市長にならないと変えれませんよ」と話した。

https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/news/3192099/

オンライン授業は100%でないどころか「10%」止まりでした。日々改善するのは当然ですが、無為無策の1か月が改善されないままに過ぎました。

意見を外部に発出した事は問題かもしれません。が、組織として決められた大きな方針に重大な誤りがあり、数回に渡って意見具申しても何ら回答が無かったが故の行動でした。

組織内のルールに重大な過誤がある場合の対応は誰しもが抱える悩みでしょう。どう対応するのが適切だったのでしょうか。

仮に校長先生を辞職に追い込んだら、大阪市で働く職員の間に「市長方針に異を唱えたら辞めさせられる、淡々と仕事をするしかない」という強烈な萎縮効果が生まれるでしょう。

(追記)
遂に文部科学大臣の耳にも入りました。今日の記者会見の大半はこの話題でした。

文科相、大阪市長に「耳を傾けて」 現職校長からの提言

萩生田氏は大阪市の対応について「自治体の判断を尊重する。ただオンラインで子供たちが納得する授業が十分できなかったという実態があれば、しっかりフォローして欲しい」と述べた。久保校長と松井市長のやりとりについては「現場の先生が首長に意見をおっしゃることは決して悪いことだと思いません。ただ、大阪市は考えた上での結果だと思う。やってみて不具合があったという報告だとすれば、耳を傾けて改善したらどうですかね」と話した。

https://digital.asahi.com/articles/ASP5P42KYP5PUTIL00R.html

会見では文科相は「コロナで互いにストレスが溜まっていませんか?」と苦笑いしつつ、丁寧に言葉を選んで対応していました。

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大阪市の教育行政や松井市長が要請した「オンライン授業及び給食の実施」に対し、大阪市立木川南小学校の校長先生が声を挙げました。

 大阪市立小学校の校長が、市の教育行政への「提言書」を松井一郎市長(57)に実名で送った。今回の緊急事態宣言中、市立小中学校の学習を「自宅オンラインが基本」と決めた判断について「学校現場は混乱を極めた」と訴える内容。全国学力調査や教員評価制度などにも触れ、子どもが過度な競争に晒(さら)され教師は疲弊していると訴えた。松井市長は20日、報道陣に「子どもの命を守ることを最優先にコロナ対応の手段としてオンラインを活用した」と反論した。

現職の校長が実名で市長を批判するのは異例だ。提言書の筆者は大阪市淀川区の市立木川南(きかわみなみ)小学校(児童数140人)の久保敬(たかし)校長(59)。17日朝、松井市長宛てに封書で郵送し、山本晋次・市教育長にも同じ内容を送った。

提言は、オンライン学習を基本とした松井市長の判断を「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出している」と批判している。久保校長自身はSNSに投稿していないが、内容を聞いた知人が本人の許可を得て投稿し、広がっている。

松井市長がこの判断を報道陣に表明したのは、府内で新型コロナウイルスの感染者が増えていた4月19日。これを受け市教育委員会は市立小では3限または4限から給食までを「登校時間」と決めた。家庭の要望がある場合、それ以外の時間も児童生徒を校内で預かることも求めた。今月17日、松井市長は宣言下で子どもが重症化した例がないとして、24日に通常授業を再開すると発表した。

一方で小中学校の現場は、オンライン学習への対応や児童ごとに異なる登校時間の把握に追われた。保護者にも不安が広がっていた。久保校長の提言は「通信環境の整備など十分に練られること(が)ないまま場当たり的な計画で進められ」「保護者や児童生徒に大きな負担がかかっている」と書いた。(以下省略)

https://digital.asahi.com/articles/ASP5N6HGBP5NPTIL00F.html

大阪市立木川南小学校は大阪市淀川区にあります。新大阪や西中島南方駅と淀川に挟まれた場所です。

提言書はこちらに掲載されています。

大阪市立木川南小学校・久保校長の「提言」全文
https://digital.asahi.com/articles/ASP5N6KWMP5NPTIL00R.html

学校を預かる校長としての立場から、何が大切で何が不要かを明確に指摘した文書です。オンライン授業については「大人の都合による勝手な判断によるもの」と指摘しています。

確かに学校は業務が加重になっています。今は全国学力テストやすくすくテスト(大阪府独自のテスト)の対策が、それ以外にも様々なアンケートや計画書の作成等に追われています。

中には「これは本当に必要だろうか」といった業務も少なくないでしょう。夜も遅いのに明かりが点いている学校を何度も見かけました。

「テストの点数というエビデンスはそれほど正しいものなのか」と否定的なスタンスを示しています。が、全国学力テストにおける同校の点数は常に大阪市平均を上回り、概ね全国平均を保っています。


https://yodokikaku.net/?page_id=18737

児童の学力はSES(社会経済的要因)が強く影響していますが、同じ地域で隣接している木川小学校の点数を毎年10%前後も上回っています。丁寧に学習指導を行い、児童にしっかり勉強させる習慣や雰囲気が根付いているのでしょう。

オンライン授業で守れる命は無く、学びも継続できず

オンライン授業は不満しか聞きません。本当に不満の声ばかりです。「よかった」との声は皆無です。

「子供の命を守る為にオンライン授業を」という判断自体は決して誤ったものではありません。しかし、オンライン授業によって子供の命を守れたのか、そしてオンライン授業によって学びを継続できたのか、答えはどちらも「No」です。

子供の感染経路の大半は「家庭内」です。これはオンライン授業でも防げません。むしろ在宅時間が長くなる事により、親から感染する可能性が高まります。

(子供の感染経路、大阪府コロナ本部会議資料より)

子供をコロナ感染から守るには、「同居家族がハイリスク行動を行わない」のが最も重要です。

また、当時は豊中市立新田小学校で大規模なクラスターが発生した直後でした。これが市長の判断に影響した可能性は否定できません。

【コロナ・4/21更新】豊中市立新田小学校でクラスター拡大、教職員22人・児童13人が感染、28日まで休校延長

ただ、児童の多くは無症状、残りも軽症でした。むしろ「学校再開後も全教職員が揃わない恐れも」と、教職員が重症化する懸念が強く指摘されていました。

オンライン授業では学びも継続できていません。双方向のオンライン授業は週1回のみ、低学年は端末の操作説明のみで時間切れ、授業が成立したのは一部の先進校だけという始末でした。オンライン授業が全く出来なかった学校も少なくありません。

在宅中は配布されたプリントを自分で解き、登校してからは健康観察やプリントの丸付け、そして給食を食べてから下校というスケジュールでした。

リスクが高い給食は学校で行えるのに、どうして通常授業は行えなかったのでしょうか。これに対する明確な回答はありません。

オンライン授業によって守れる命は無かった、そして学びは継続できませんでした。

思い切った提言書を提出した校長先生ですが、実はユニークな一面もあるそうです。「教えてもらう前と後」(TBS/MBS系)に出演していたそうです。

【大阪市淀川区】本日1月21日放送! TBS系列で放送中の「教えてもらう前と後」に木川南小学校の児童が出演するようです!
https://yodogawaku.goguynet.jp/2020/01/21/oshietemorau-maeto-ato-01-21/

全国放送で取り上げられるとは非常に珍しいですね。

松井市長「違う仕事を見つければよい」「組織の一員から逸脱」

これに対し、大阪市の松井市長は言葉を選びつつも、「変異株は分からない」「子供の命を守る為にオンラインを活用」「競争社会に対応できる学校教育を」「違う仕事を見つければよい」「組織の一員から逸脱」などと厳しく批判しています。

松井一郎市長 オンライン学習めぐり批判書面送付の校長に「社会人として外に出たことあるんかな」

ネット上で内容を読んだという松井氏は「校長の考えというのは一つあるんでしょうけど、僕とは少し違う」とした上で、「今の時代、子供たちはすごいスピード感で競争社会の中を生き抜いていかないといけない。考え方の違いだけど、義務教育の間に世界中の同年代の中で生きるための基礎部分を培うことは大事だと思う」と持論を述べた。

オンライン授業に関しては通信面などで問題があり、多くの学校で形式上、タブレットが用意されただけで授業として全く機能しなかった。

書面では「場当たり的な計画で学校は混乱を極め、児童、生徒や保護者に大きな負担がかかっている。子供の安全・安心も学ぶ権利も保証されない」としているが、松井氏は「その校長の考え方はそうなんだろう。我々は子供の命を守るのを最優先として、オンラインを活用した」と反論。

その上で「世の中いい人ばかりで、もっと競争するよりもみんながすべての人を許容して、そういう社会の中で子供が生きていければそれは理想。校長だけど現場が分かってない。社会人として外に出たことはあるんかなと思いますね」と久保校長を批判した。

書面では教職員、学校の疲弊も指摘されているが、松井氏は「疲弊してやりがいが見つけらないんやったら、違う仕事を見つけたらいい」とバッサリ。

教職員が市長に意見することを「表現の自由、言いたいことを言えばいい」と話したが、処分に至る可能性については「僕には人事権はない。処分とかはまったく考えていない。ただ、組織の中なのでルールがある。ルール通りに現場を進めていくのが社会人として当然の行動。個人の意見を言うのは構わないが、我々には教育振興基本計画がある。それに沿った形で運営してもらわないと、組織の一員として逸脱していることになる」と語った。

https://www.tokyo-sports.co.jp/entame/news/3187023/

松井市長がオンライン授業の実施を指示した当時は、大阪府で非常に多くの感染者が日々報告されていました。その中には数多くの子供も含まれていました。

子供に対する変異株の影響は不透明ながらも、3月下旬以降の第4波では子供が重症化した事例は確認されていませんでした。子供の感染割合が高まった時期もありましたが、これが学校や保育所等のクラスターが集中した為との分析も上がっていました。

競争社会に対応できる学校教育も重要です。であれば、どうして大阪維新の会のメンバーが大阪市長に就任してから10年も経つのに、大阪市の学力は全国最低水準に低迷しているのでしょうか。「これまでの教育が悪かった」という言い訳が通じる時期は過ぎています。

大阪市の学力低迷の原因は、学校ではなく家庭にあると感じています。経済問題(貧困)や家庭問題(ひとり親等)です。少なくない児童生徒が競争の土台に経つ事すらできておらず、その責任は学校にありません。

学校や教職員を疲弊させたのは誰でしょうか。オンライン授業では更に家庭も疲弊しました。1か月に渡るオンライン授業により、私自身も疲労困憊です。

「違う仕事を見つければよい」とはパワハラそのものですね。一言で言えば「恫喝」です。コンプライアンス上、問題がある発言です。「僕には人事権がない」と逃げていますが、この発言を聞いた市教委は市長の意向を無視するのは困難です。

確かに今回の提言を外部にも発した事は、組織の一員としては逸脱しているでしょう。しかしながら、そうせざるを得ないところまで追い詰められているのが実情です。

松井市長の「世の中いい人ばかりで、もっと競争するよりもみんながすべての人を許容して、そういう社会の中で子供が生きていければそれは理想。」という発言には全く同感です。

世の中には実情に即していないルールを振りかざし、問題があった場合の責任を現場に転嫁し、部下にパワハラや恫喝紛いの発言を行う人もいます。

提言を支持・共感する教員も多い

市長に行って欲しいのは、悲鳴にも似た叫び声に耳を傾ける事です。不満は様々な学校に広がっています。

 別の区の60代の市立小学校長は「声を上げにくい中でよく言ってくれた」と提言書の内容を支持した。区内の校長の間でも共感する声が多いという。「これまでも教育現場の声を聞かずに色んなことが決められてきた」。今回のオンライン学習の方針も同じだと感じるという。

この校長の小学校では家庭の事情で8割強が1限目からの登校を希望。オンライン学習では集中力が続かない児童も多くプリントの答え合わせが精いっぱいだ。「多くの先生が、この混乱を予想していたはずだ」

阿倍野区の市立小学校の50代男性教諭は通信環境が整わない中でオンライン学習を進めざるを得ず、児童の学習に遅れが出ていることに危機感を抱く。「私たちは決まった方針に対して何も言えず、従うしかない。諦めていたが、この提言に心から賛同したい」と話した。

https://digital.asahi.com/articles/ASP5N6HGBP5NPTIL00F.html

松井市長は「有事だから現場の声を聞く時間がない」と強調していました。しかし、学校・児童生徒・家庭の実情を鑑みない拙速な判断は、現場をかき乱して混乱を招いただけでした。

教育委員会も情けないです。オンライン授業を実施したら混乱する事は容易に想定出来た筈です。実情を示し、市長の判断を食い止められなかった事には重大な責任があります。レーマンコントロールが泣けます。

せめて十分な通信環境だけでもあれば各校の創意工夫が発揮できましたが、全ての通信を市教委を経由する「集約型システム」はフルオンライン授業に耐えられませんでした。

来週から通常授業が始まります。されど、しばらくは生活リズムを整えるのに一定程度の時間が掛かるでしょう。特に入学したばかりの1年生は、再びゼロからやり直しです。

大阪市の教育行政は本当に大丈夫でしょうか。不安ばかりです。

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