新年度が始まりました。この時期に頭が痛くなるのは「学校や保育所へ提出する大量の手書き書類」です。

「こうした書類を減らしたり、オンライン入力に変更できないか」と河野大臣へ訴えたところ、大臣がツイッターで取り上げて話題になっています。

毎年4月初旬、我が家はこの様な書類を提出しています。全て「手書き」です。

【保育所】
児童原簿(新規作成)
緊急連絡票(新規作成)
健康調査票(新規作成)

【小学校】
児童原簿(差分を更新)
保健調査票(差分を更新)
結核健康診断調査票(新規作成)
運動器健診保健調査票(新規作成)

大変なのは保育所ですね。3種類の書類はいずれも手書きする内容が多い物です。1年前に作成した書類の控えや予防接種手帳を見ながら、時間をとって手書きしています。

それと比べると小学校は楽でした。多くの書類を手書きするのは同じですが、児童原簿や保険調査票は入学時に作成した物を卒業まで使います。2年生以降は変更部分を修正・追記するだけで済みます。

多くの方が河野大臣へ「毎年同じ物を書くのが辛い」「双子でほぼ同じ内容なのに2枚手書き」「オンライン化して欲しい」「パソコンで入力できるようにして欲しい」等と訴えています。

ただ、こうした書類作成をオンライン化へ移行するのは決して容易ではありません。ユーザー側、施設側、それぞれに大きな問題があります。

一部書類は紙で保管せざるを得ない

施設側はオンライン化されても概ね対応出来るでしょう。既に保育所等から自治体へ提出する書類の大半はオンライン化されています。小学校も同様です。それぞれに技能を有した事務職員が配属されています。

問題はオンライン化の先にあります。入力された情報を利用する場面です。典型的なのは災害発生時です。

地震や大雨と言った災害が発生した際に必要不可欠な物の一つは、各児童の緊急連絡先を記した書類です。児童原簿や緊急連絡票に記入する事が多いでしょう。

10年前に発生した東日本大震災では、津波が迫る保育所から園長が緊急連絡網や児童台帳を持ち出した様子が描かれています。

佐竹は,全員の避難を見送った後に緊急連絡網と児童台帳を取りに建物に戻った。事務室内キャビネットは,全く開かない状態だったので蹴飛ばして壊した。保育所を出る時に,ひょっとしてここに迎えに来る人がいるかもしれない」と思いつき,紙とマジックを取りに戻った。揺れているので字が書けなかった。ようやく「小学校にいます」と書いて,揺れを堪えながら何とか貼り付けて出発した。子どもたちよりは,10分程度遅かったと思われる。

保育所における保育士の意思決定――宮城県名取市閖上保育所の東日本大震災避難事例に学ぶ

また、台風等によって停電したり通信回線が遮断されてしまうと、オンライン上のデータにはアクセスできなくなってしまいます。

児童原簿や緊急連絡先等がオンラインで入力されても、その後に印刷してファイル類へ綴じるのは不可欠でしょう。

最終的な成果物が紙である物は、施設側にとってオンライン化するメリットは乏しいです。

ITスキル・環境は家庭毎の開きが大きい

一方、ユーザー側の問題はより大きいです。家庭毎のITスキルには大きな開きがあります。

保護者にはパソコンを利用してツイッターを使いこなす方もいれば、スマホでLINEを使うのが精一杯という方もいます。

また、多くの子育て家庭にある電子端末は「スマホ」です。パソコンがある家庭は決して多くありません。スマホで大量の入力作業を行うのは骨が折れます。

オンライン化に対応してメリットを享受できる家庭は決して多くないのが実情です。

更に全面的にオンラインへ移行した場合、保育所や学校の職員が各家庭の対応に追われるのが目に見えています。サポートセンターと化してしまいます。

また、各家庭から施設へデータを安全に送信する方法がない、という現実的な問題もあります。各家庭にIDやパスワードを配布し、指定されたシステムへデータを入力するのは非現実的です。

この様に学校や保育所等へ提出書類のオンライン化には、様々な障壁があります。少なくとも現時点ではメリットをデメリットが上回ります。

今すぐ出来る改善策を

多くの手書き書類を提出している当事者として望むのは、「書類の継続使用」「簡略化」「入力用雛形の掲載」です。

「書類の継続使用」とは、書類を単年では無く卒業・卒園まで使用し続けるものです。

1年経っても内容に変化がない(もしくは少ない)児童原簿を新規作成して提出するのはナンセンスです。1年前に提出した書類を家庭へ返却し、修正・追記した上で再提出するのは難しいのでしょうか。

ただ、この方法には大きな欠点もあります。返却中に災害等が発生すると、緊急連絡等が行えなくなってしまいます。何らかの方法で施設が控えを保有するのが不可欠です。

「簡略化」とは記入する項目を減らしたり、更には書類その物を廃止してしまう対応です。たとえば第6緊急連絡先や祖父母の住所・勤務先は必要でしょうか? 一つ一つの項目であっても、積み重ねると結構な分量となります。

「入力用雛形の掲載」は今すぐにでも対応して欲しい事項です。ワードファイル等を保育所等のホームページに掲載し、必要な方はそこからダウンロードして入力・印刷・提出するものです。

高いITスキルを有している家庭にとっては、雛形が入手できると本当に助かります。手書きよりPC入力の方が早く、訂正も容易です。

多くの方を苦しめる「自宅周辺の見取り図」も、Yahoo!地図をモノトーンでデータ化して貼り付けるだけで済みます。

大阪市中央区役所から大阪市役所への徒歩経路(Yahoo!地図より)

こうした一連の改善策が講じられれば、多くの子育て世帯は助かるでしょう。施設側の負担は殆どありません。

特に「雛形の掲載」は強く望みたいです。小学校や保育所単位では無く、教育委員会や市保連で共通の書式を作成して掲載するとより良いでしょう。

出来るところから、少しずつ改善・改良して欲しいですね。