保育士が一斉退職する立石保育園(同園ホームページより)
立石保育園(群馬県藤岡市)でほぼ全ての保育士が一斉に退職します。園児急減によって給付金が減額されて経営問題が発生し、給与カットが長期化しようとしています。
保育士18人中17人が退職へ 補助金減額で給与カット
群馬県藤岡市立石の私立認可保育園「立石保育園」(園児138人)で、保育士18人のうち17人が3月末で退職することがわかった。園や藤岡市によると、待遇面や園の対応への不満が背景にあるという。園は13人を新たに採用。4月以降の運営に支障はないとしており、市は静観する構えだ。
園によると昨年3月、新たに入園する園児が募集を40人下回り、市の補助金が減る見通しとなったため、全保育士に今年度の基本給が前年度比減になると書面で伝えた。保育士側の要望を受け、園は翌月に対面で説明し、全員が契約書に押印したという。
だが7月支給の賞与も減額となり、保育士数人が改めて園側に説明を要求。園は8月に賞与を追加支給したが、9月1日までに保育士17人が今年度限りでの退職を申し出たという。
このため、園は新年度の園児の定員を120人に減らし、保育士は残る1人と新たに確保した13人で運営に当たることにした。
園は一斉退職について、今月22日に文書で、23日にメールで保護者に通知。問い合わせが相次ぎ、園は24日に緊急保護者会で一連の経緯を説明した。説明会は26日にも行うという。ある保護者は「あまりに突然で驚いた。新年度からどうなるのか」と不安を漏らした。
園の担当者は「誠実に対応してきたと考えている。全員引き留めたが、こうした状況になり残念」と話し、「どう対応していいかわからず、保護者への連絡が遅くなってしまった。ご心配をおかけし、申し訳なかった」としている。
立石保育園は群馬県藤岡市にあります。高崎市や藤岡JCTに近く、周囲には住宅や田畑が広がっています。都市郊外の農村地域がベッドタウン化したと感じました。
同園の認可定員は170人でしたが、現時点での在籍園児は138人に留まっています。約2割が欠員となっています。
平成27年に定員250名へ拡大しましたが、令和2年には170人へと急減、更に令和3年には120人へと減少しています。短期間で園児数が急減している様子が見て取れます。
地域性もありますが、定員250名は非常に規模が大きい保育園ですね。大阪市内で同程度の規模があるのは数園に過ぎません。群馬県内でもトップクラスの規模だそうです。園児離れの一因かもしれません。
社会福祉法人 共栄会 立石保育園さま 群馬県/藤岡市
1974年設立。0歳児から6歳までの乳幼児保育のほか、小学3年生までの学童保育、子育て支援センターも運営。約250名のお子さまを預かる市内トップクラスの大型保育園。
同園を運営している社会福祉法人共栄会の財務諸表等はWAMNETに掲載されています。
法人基本情報
法人番号 1020951000220
法人の名称 社会福祉法人共栄会
平成30年度の事業活動収入は約1億8,000万円でしたが、平成31年度は約1億6,400万円へと急減しています。マイナス約870万円もの資金収支差額が発生していました。
保育所の収入は自治体からの給付金や助成金が主となっています。定額部分もあれば、園児数に比例する部分もあります。園児が2割も欠けてしまうと、給付金等は大きく削減されてしまいます。
一方、支出の大半は人件費です。同法人の平成31年度の人件費率は約82%でした。保育所等では一般的な水準ですね。
園児数が急減した令和2年度は事業活動収入が更に落ち込み、法人運営を圧迫していたのでしょう。保育士の基本給を削減して乗り越えようとしました。
保育士としても給与削減は納得し難いですが、園児が減少して経営が厳しい様子は肌感覚で分かるはずです。「今回限りなら・・・」という断腸の思いで受け入れたのでしょう。
しかし夏の賞与も減額となってしまうと、基本給が元の水準へ引き上げられるか不安に感じてしまいます。
また、保育士は全国的に不足しており、同業他園へ転職するのは容易です。藤岡市から人口密集地たる高崎市へ通勤するのも可能でしょう。
園児減少による経営不安が保育士の一斉退職へと繋がりました。
新年度は園児の定員を120人に減らし、保育士13人で保育を行うそうです。しかし、保育士13人がフルタイムで出勤し続けない限り、配置基準に抵触する恐れが高いです。有給休暇が取得しづらく、体調を崩しても休めない状態が容易に想像できます。
藤岡市は「4月以降の運営に支障はない」と判断しているそうですが、著しい支障が生じるのは明白です。この規模の保育所であれば、概算で保育士20人(大半が常勤、一部パート)が必要です。
今回の問題の根幹は「園児数が急減した理由」です。
この地域で少子化が急速に進行しているのでしょうか、それとも同園が意図的に避けられているのでしょうか。前者ならば保育施設の供給量の見直し、後者ならば同園に対する指導等が必要となります。
不安定な保育所運営は、子供や保護者を直撃します。保育士が急激に入れ替わると、当然ながら子供は落ち着きません。昨日までいたほぼ全ての先生が、次の日にはいなくなってしまいます。
こうした保育所からは園児が更に流出する可能性も高いです。潜在的に「転所できるなら転所したい」と考えている家庭も少なくないでしょう。
市が静観できる問題ではありません。早急に原因を特定して対処する必要があります。退職に追い込まれた保育士、そして子育て世帯に負担を押しつける構図はよくありません。