2020保育所等一斉入所結果分析、2回目は各区毎の状況を相互比較していきます。なお、昨年の分析記事はこちらからご覧下さい。

大阪市の保育所入所待機児童数について(令和2年4月1日現在)より作成(以下同じ)

利用保留数が急増

当ウェブサイトでは一貫して入所保留数・入所倍率(保留率)を重視しています。

人為的に算出される待機児童数とは異なり、理由を問わず入所できなかった児童数・割合を表す保留数・保留率(倍率)の方が実態を適確に表しているからです。

2020一斉入所での利用保留数は、前年より579人も増加して3,300人となりました。急増です。同時に入所倍率は0.05倍上昇して1.27倍となりました。

一言で言えば「入所難化」です。

大きな理由の一つは申込数の増加です。昨年より651人増加し、15,690人となりました。これに見合うだけの保育所等が整備されなかったのが、保留数が急増した原因の一つです。

保留率ワーストは北区、次いで中央区

多くの方に取って気になるのは、大阪市全体の数字よりも住んでいる区・地域の数字でしょう。個別に取り上げていきます。

最も保留率が高かったのは、昨年に引き続いて北区でした。保留率は33.4%、3人に1人が入所できませんでした。非常に厳しい数字です。

新規申込数は昨年より32人増加している一方、新規利用数は3人減少しています。

実は北区と中央区は保育所等を新設しにくい地域とされています。ここ数年の地価高騰の煽りを受けています。

大阪市は補助策を強化していますが、事業者が望む水準には程遠いと聞きます。

【朝日新聞より】タワマン増加地区で新設保育施設の補助額を最大4.5倍に 大阪市

隣接したビジネス街が形成されている中央区も厳しい状態です。保留率は29.4%、市内ワースト2位です。

北区同様に新規申込数が55人も増加したにも関わらず、新規利用数は12人の増加に留まっています。

ここ1-2年、この2区での就学前児童数の増加傾向に歯止めが掛かりました。にも関わらず保育所等への入所希望者は増え続けています。

市内中心部という地価が高い地域で子育てするには、保育所等を利用しての共働きが前提となりつつあるのでしょう。

保留率・就学前児童数の上昇率トップは福島区

保留率が最も上昇したのは福島区でした。8.3%も上昇して23.3%に達しました。

新規申込数が65人も増加したにも関わらず、新規利用数は1人しか増加していません。

福島区は毎年の様に多くの保育所等を新設しています。保育所等の在籍児童数の増加数は市内トップでした(201人増)。

ただ、今年は2保育所が資材高騰等の影響を受け、開所が今年6月以降に延期されてしまいました。

仮に予定通りに開所できていれば、保留率は昨年と同水準に留まっていたでしょう。

実は福島区は来年以降も懸念される数字があります。何と就学前児童数の上昇率が市内トップとなっています。1年間で約5%も増加しました。

大きな要因は区内での大型マンションの建設が相次いだからでしょう。北区・中央区・西区等ではめぼしい土地の開発が終了し、福島区等にシフトしていると感じています。

来年以降も保育所等への入所は厳しい状況が続くと感じています。また、数年後には小中学校の狭隘化が問題視される筈です。

福島区・中央区・西淀川区・東成区・旭区・城東区・阿倍野区・西成区は申込1割増

新規申込数が概ね10%以上も増加したのは、福島区・中央区・西淀川区・東成区・旭区・城東区・阿倍野区・西成区でした。

中央区以外の7区は「市内中心部に隣接して通勤しやすい」という共通点があります。

昨年前の活発な経済活動が中心部に隣接した地域の就労意欲を刺激したのでしょうか。それとも子育て世帯の居住志向が市内中心部から隣接地域へ移行したのでしょうか。

職住近接できる市内中心部は便利です。が、保育所等の入所困難さ・狭隘化する小中学校・公園の狭さ等の子育て環境を重視すると、決してベストではないかもしれません。

この中で特異な傾向を示しているのは西淀川区です。何と就学前児童数は2%以上も減少しているにも関わらず、申込数は約10%も増加しています。

子育て世帯の減少と保育需要の急増が同時に発生しています。「住むなら保育施設が必須」という考え方があるのでしょうか。

東淀川区は申込1割減

反対に新規申込数が10%以上も減少したのは、東淀川区だけでした。就学前児童数も3%減少していますが、保育所等在籍数は微増しています。

東淀川区は広い区です。阪急に近い地域なら梅田へ通勤しやすいですが、それ以外の地域は時間が掛かってしまいます。

子育て世帯の転出に加え、区内での経済活動が停滞しているのではないかと感じています。インバウンド効果が及びにくい地域です。

此花区・平野区は保育所等在籍児童数・就学前児童数が急減

市内の多くの地域では、保育所等の在籍児童数は増加し続けています。ただ、例外的に一部の区では減少傾向を示しています。

最も減少率が高かったのは此花区でした。在籍児童数が約3%、そして就学前児童数が約5%減少しています。

同じ傾向を示しているのは開くのです。在籍児童数が約2%、そして就学前児童数が約4%減少しています。

この2区からは保育を必要とする子育て世帯の転出が相次いでいると推測されます。

市中心部から距離があるので、毎日の通勤に要する時間が問題視されているのでしょうか。区内に雇用を吸収する事業所や商業施設が少ないのかもしれません。

コロナウイルスの影響は今後の在籍・入所に

ここでご紹介した数字は、あくまで昨秋~今春に行われた一斉入所における物です。今年2月以降に日本国内で大流行した、コロナウイルスによる影響は含まれていません。

しかしながら、既に一部ではコロナウイルスによる影響が生じているとの話を聞きました。経済的状況による退所者が発生しているそうです。

ここ数年、大阪はインバウンドに沸き立っていました。観光業や飲食業等には数多くの子育て世帯が従事していました。

が、インバウンドは消滅しました。観光・飲食需要は激減しています。店舗を閉店したり、従業員を解雇する事例も相次いでいます。

仕事がなくなってしまった子育て世帯も少なくありません。身近な所には、夫婦揃って仕事が激減した家庭もあります。

こうした家庭では新たな仕事を探す一方、就業を諦めて保育所等を退所する家庭もあるそうです。3-5歳児は保育料が無償化されていますが、0-2歳児の保育料は無償化されない高額のままです。

今後は退所者が徐々に増加し、来春の入所者にも影響すると予想されます。