今は小さな子供でも、あっという間に大学生になっているかもしれません。
大学の学費は気が重いテーマです。少しずつ貯金しようとしているのですが、目標額にはほど遠いです。
そうした中、大阪府は府立大学・市立大学の授業料免除基準の緩和を打ち出しました。
大阪府立大・市大 年収590万円未満は無償化へ 来年度入学から
大阪府は13日、令和4年度の統合を目指す大阪府立大と大阪市立大について、来年4月に入学する府内在住の大学・大学院生で、年収590万円未満の世帯を対象に、入学料金と授業料を無償化すると発表した。国が来年度から行う年収380万円未満の低所得世帯の学費減免制度に、府独自の補助を上乗せする。すでに在籍している学生・院生は対象外となる。
府によると、支援対象は年収590万~910万円未満の世帯。590万円未満は一律無償で、そこから910万円未満までは子供の数に応じて支援を行う。
学生本人と保護者など生計を維持する人が、いずれも入学日の3年以上前から府内に住所を有していることが条件。出席率が著しく低い場合は補助を打ち切る。留学生や社会人大学院生は対象外とした。
両大学の授業料はともに年間53万5800円。入学料は居住地が府内外で異なるが、府内であれば府立大が28万2千円、市立大が22万2千円。今回の制度により最大で81万7800円が無償化されることになる。
導入に必要な財源は、来年度で約11・6億円。両大学の統合後も無償化制度は継続する方針。府は来年2月の府議会に予算案を提出する。吉村洋文知事は13日の定例会見で「将来的には学び直しをしたい社会人らも無償化に入れたい」と対象拡大の意向を示した。
https://www.sankei.com/west/news/191113/wst1911130033-n1.html
受験生の志望動向や保護者の考え方はどう変わるでしょうか。
府立大学は1883年に設置された獣医学講習所が、市立大学は1880年に設置された大阪商業講習所が起源とされています。その後、拡大や統合等を繰り返し、今の形となりました。
入学するのも容易ではありません。
河合塾の2020年度入試難易予想ランキング表によると、大阪市立大学経済学部経済学科(前期日程)の偏差値は57.5、大阪府立大学現代システム科学域マネジメント学類(前期日程)は偏差値60とされています。
また、大阪市立大学工学部電気情報工学科(前期日程)の偏差値は57.5、同(後期日程)は偏差値62.5、大阪府立大学工学域電気電子系学類(中期日程)は偏差値62.5とされています。
何れの学部等の偏差値60前後が必要とされています。入学するには、40人クラス(小中学校)の中で上位3~4位の学力が必要と言えそうです。
こうした学力を有する高校生が府大・市大と天秤に掛けるのは、国公立大学では神戸大学、私立大学では同志社大学や関西学院大学ではないでしょうか。
いずれも関西の名門大学です。神戸大学の偏差値は概ね62.5~60、同志社大学・関西学院大学は62.5~57.5です(但し入試科目数が少ない)。府大・市大と競合するレンジです。
充実した神戸大学の免除制度、年収600万円~800万円以下で免除
他大学の授業料免除制度と比較してみます。例えば神戸大学は以前から授業料等の免除制度を導入しています。
夫婦と子供1人の3人家族の場合、給与収入が概ね628万円以下であれば授業料が免除されます。
新たに導入される府大・市大の授業料免除制度と神戸大学の制度を比較すると、実は大きな差はありません。意外な結果です。
閾値や免除割合等に若干の違いはあるものの、いずれも子供1人なら年収600万円前後で、子供3人なら年収800万円前後で授業料が免除されます。
異常に厳しい府大・市大の免除基準、生活保護水準を要する
気になって、府大・市大の今年度までの免除基準について調べてみました。
最低生活費の具体例(大阪市在住の2人~6人家族の場合)
・2人家族{母(46歳)、本人(20歳)}の場合、最低生活費は約157万円(約157万円×1.3≒204万円)となります。
・3人家族{父(48歳)、母(46歳)、本人(20歳)}の場合、最低生活費は約211万円(約211万円×1.3≒274万円)となります。
・4人家族{父(48歳)、母(46歳)、本人(20歳)、妹(17歳)}の場合、最低生活費は約255万円(約255万円×1.3≒332万円)となります。
・5人家族{父(50歳)、母(48歳) 、兄(22歳)、本人(20歳)、妹(17歳)}の場合、最低生活費は約292万円(約292万円×1.3≒379万円)となります。
・6人家族{祖父(73歳)、祖母(65歳)、父(48歳)、母(46歳)、本人(20歳)、妹(17歳)}の場合、最低生活費は約324万円(約324万円×1.3≒421万円)となります。https://www.osakafu-u.ac.jp/campus_life/fees/exemption/exempt-general/(削除済み)
3人家族で授業料全額免除を受けるには、所得認定額(課税所得?)が211万円以下、かつ成績が上位3分の1以上でなければなりません。
異常に厳しい基準だと感じました。これを満たした学生はどれだけいるのでしょうか。
大阪市立大学での免除基準等は残念ながら掲載されていませんでした(あったのは分納例のみ)。
ただし、宮本徹衆院議員が文部科学省から取り寄せた「国立大学授業料減免、自宅通学全額免除モデル世帯(母子世帯)」に、大阪市大を含む各大学の免除基準が掲載されていました。
大阪市立大学の授業料免除基準として、「収入が267万円以下かつ、年間36万円以上貸与奨学金を受給しているもの。」と書かれています。
収入が267万円以下だと、日々の生活すら苦しい基準です。とても勉強どころではない、と感じました。
府大・市大が導入していた授業料免除基準は、国の高等教育無償化(低所得世帯に限る)の対象世帯と概ね重複するでしょう。
大阪府は「無償化拡大、教育重視!」と謳っていますが、「一般的な国立大学並の免除基準にようやく追いついた」のが実情です。
「家計が苦しくて進学を断念した高校生」は存在するのか?
これにより、受験生の大学志望動向等にどれだけの影響が出るのでしょうか。
受験生が志望大学を選ぶ基準は様々ですが、自身の学力・大学の社会的評価・学びたい学問分野・授業料は重視する基準です。
前提として指摘しておきたいのは、「経済難によって大学進学を断念する高校生はどれだけ存在するのか?」という点です。
府大・市大への合格者が多い大阪府立生野高校は、進路実績を公表しています。
2019年3月に生野高校を卒業した直後に就職した学生はゼロでした。
少なくとも、ここからは「家計が苦しくて大学進学を断念した高校生」の存在は読み取れません(※生野高校は進学校であり、入学するには一定以上の経済力等が求められるとも言えます)。
ただ、苦しい家計の中から学費を捻出し、多額の奨学金を借りてやりくりする家庭は少なくないでしょう。恥ずかしながら私自身、未だに学生時代の奨学金を返済しています。
同志社大学・関西学院大学への志望動向に影響?
大阪府の授業料免除拡大により、ようやく神戸大学と同等の免除水準となりました。
ただ、要求される学力等に開きがあり、免除基準に大きな違いは無い為、神戸大学に合格する学力がある学生が敢えて府大・市大を志望するケースは決して多くないと感じました。
親としても「これだけの学力があるなら、頑張って神戸大学に進学して欲しい。授業料は神大も府大・市大も変わらない。」と考えるでしょう。
一方、影響を受ける可能性があるのは、同志社大学や関西学院大学です。
学部にもよりますが、両大学の学費は年間100万円(文系)~150万円(理系)程度です。
2020年度入学生学生納付金
https://www.doshisha.ac.jp/admissions_undergrad/info/procedure/payment.html
2019年度入学生対象 大学の検定料・学費
https://www.kwansei.ac.jp/university/university_018180.html
府大・市大の学費は年額53万5800円です。一般的な学生でも年間50万円~100万円が、免除対象者なら更に大きな違いが生じます。4年間で600万円を越えるケースも生じます。
ただでさえ関西では国公立大学への志望が強い地域です。その背景には国公立大学の社会的評価・授業料の違いがあるのでしょう。
大阪府内に住む保護者では今後、「同志社大学や関西学院大学に受かる学力があるなら、何とか府大・市大を目指して欲しい」と考える方が増えても何ら不思議ではありません。
特に理系は尚更でしょう。国公立大学と私立大学は教員や設備の充実度に雲泥の違いがあります。
府大・市大は2022年に統合、2025年に森之宮新キャンパスがオープン予定
大阪府立大学・大阪市立大学は2022年4月の統合を目指しています。また、2025年度には森之宮(大阪市城東区)に新キャンパスを設置する予定です。
大阪府・市立大、大阪城そばに新キャンパス 市有地活用
https://digital.asahi.com/articles/ASM8V3K0DM8VPTIL012.html
大阪を代表する教育・研究機関となって欲しいです。