4月から早3カ月が過ぎました。当初は泣き止んでいた子供達も、今はすっかり保育所に馴染んでいる様子です。

その反面、奈良市で保育所を利用しているとある家庭に、「育児短時間制度を利用するなら、年度途中で退所して欲しい」という電話があったそうです。

(中略)長男はいま1歳4か月。夕貴さんは今年4月から長男を近くの認可保育園に預けて職場復帰しました。

「(職場に)復帰してから1か月ちょっとですけど。だいぶ慣れました。」(夕貴さん)

育児真っ只中の夕貴さんは、会社の時短勤務制度によってフルタイムの社員より2時間短い勤務時間が認められています。ところが、長男を預け始めて約2週間後、奈良市から思いもよらない電話がかかってきたと言います。

「私の携帯に(奈良市から)電話がかかってきて、『育児短時間取得の場合は保育園に入ってもらえないので、退園をお願いするしかない』みたいなことを急に伝えられて。『退園が難しいのであれば、フルタイムで勤務してください』みたいなこともおっしゃっていたんですけど。」(夕貴さん)

なんと、せっかく入ることができた保育園を退園するか、時短勤務をやめてフルタイムで働くか、2つに1つの選択を求められたのです。(以下省略)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190709-00010000-mbsnews-l29

報道を聞く限りでは「奈良市は酷い」と感じました。

しかしながら調べてみると、奈良市の主張にも相当の説得力があり、保護者にも批難されても仕方ない点がありました。

自治体で異なる入所調整制度

保育所等への入所申込に対し、ほぼ全ての自治体は「点数に基づく入所調整」を行っています。

項目や点数等は、各自治体のウェブサイトで公表されています。

奈良市特定教育・保育施設等利用基本指数表
http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1539819808227/simple/shisuu.pdf

就労時間・世帯の状況(祖父母同居等)・きょうだいの状況(同一保育所への申込み、人数)・障害の有無・世帯の所得等を点数換算し、これに基づいて入所調整を行っています。

各家庭の状況を細かく拾い上げられないという批判がある一方、点数化によって公平・公正・透明な入所調整が期待できるというメリットもあります。

ただ、どの項目にどういった点数を割り振るかは、自治体によって大きく異なっています。

特に注意が必要なのは、自営業・派遣社員・パート勤務等の取扱いです。同じ就労時間であっても、正社員より減点する自治体があります。

【ご相談】自営業・パート・非常勤だと保育所等へ入りにくい?


(注:吹田市は正社員とそれ以外の区別を撤廃しました)

保育所等への入所を申し込む前に、自治体が配布している「入所申込のしおり」等を熟読する必要があります。

入所調整における育児短時間勤務の取扱い

異なる取扱いを行っている項目の一つとして、当該記事では「育児短時間勤務」を取り上げています。各自治体で大きな差があるそうです。

実は、この点数のつけ方は自治体ごとに決められているためバラつきがあります。関西では奈良市や尼崎市などが、フルタイムと時短勤務で点数に差をつけている一方、大阪市や神戸市などでは同じ点数になっているのです。

以前に大阪市へ問い合わせたところ、「育児短時間勤務制度を利用しても、雇用契約や勤務証明書等に記載された正規の勤務時間に基づいて利用調整を行います」との回答がありました。

同趣旨が大阪市ウェブサイトにも掲載されています。

 お問い合わせいただいている「職場の育児短時間勤務制度を利用」することにより利用調整において点数が下がることはありません。育児短時間勤務制度を利用して復職される場合、「就労・就学等証明書」にもありますように、記載する勤務時間は「労働契約上の正規の時間または、基本となる時間」となっていますので、勤務先に復職後の労働契約上の正規の時間をご確認いただき、記載していただくようご相談ください。お子さまの点数は、ご提出いただきました就労証明書の内容に基づいて付けさせていただきます。

https://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000470368.html

ただ、こうした内容は申込書や指数表に掲載されていません。いわゆる内規で定められているそうです。

奈良市は明記無し、勤務証明書で示唆?

では、奈良市はどうなっているのでしょうか。

奈良市の指数表には「居宅外労働が月160時間以上なら100点、月150時間以上なら90点」とする旨が掲載されています(居宅内労働等はより低い点数)。

しかし、ここには育児短時間勤務制度を利用した場合の取扱いは明記されていません。

奈良市は「育児短時間制度を利用して就労時間が減少するなら、減少後の就労時間で調整する」という考え方を採用しています。

「奈良市でも就労している母親の40%がパートやアルバイトといった就労形態の方で、育児短時間勤務の制度はあるけれども取得しづらいという方々が大変多いというのが実情です。正社員の方と公平性を確保するためにも奈良市は現在、実労時間というところで判断しています。(育児短時間勤務の)制度がありながら有効に活用されていないというところは、今後の課題ではあるかなというところですかね。」

各自治体の調整表を見る限り、こうした考え方も一概には否定できません。

短時間勤務制度を事実上利用出来ない保護者の視点では、「正規の就労時間で入所調整、実態は短時間勤務はいいとこ取りだ」と感じてしまいます。

ただ、確認した限り、奈良市はこうした方針を明示していません。

強いて言えば、勤務就労(内定)証明書に「~育児短時間勤務取得の場合は取得予定の時間でご記載願います」と記載されています。

注意深く読めば「短時間勤務を取得する場合は、通常と取扱いが異なるかもしれない」と気づけるかもしれません。

しかし、育児や家事で非常に忙しい子育て世帯に望むのは酷です。

入所後の電話照会で気づいた?

上述の通り、奈良市は「育児短時間勤務制度を利用する場合は、制度利用後の就労時間で調整する」という方針を採用しています。

MBSニュースで紹介された保護者が勤務証明書に短時間勤務を取得する就労時間を記入したのであれば、奈良市は取得後の就労時間に基づいて利用調整を行っていたでしょう。

結果、希望した保育所へ入所できなかった可能性が非常に大きいです。

奈良市が書類と実態が異なるのに気づいたのは、各勤務先への電話照会でしょう。

虚偽申込を防ぐ為、各自治体は保護者の勤務先等へ在籍確認の電話を掛ける場合があります。我が家でもありました。

奈良市の入所申込書にも、「就労、就学等の状況や申請書等の記載内容を確認するため、勤務先や学校等に直接照会する場合があります。」と書かれています。

これに則って保護者の勤務先へ電話したところ、保護者が提出した勤務証明書に記載されている就労時間と、現に就労している時間が異なる事が判明したのでしょう。

奈良市の担当者は「書類が実態と異なっており、入所取消事由に該当する恐れがある」と判断したと考えられます。

奈良市「虚偽申込」、保護者「入所調整がおかしい」

両者の言い分は対立しています。

保護者は「育児短時間勤務制度は労働者の権利、これで保育所利用に不利益が生じるのは納得しがたい」としています。

一方、奈良市は「短時間勤務制度利用者は就労証明書に記載する様に要望している、実労働時間に基づいて入所審査を行っている」としています。

どちらの主張も理解できる反面、どちらにも弱い部分があります。

保護者(及び勤務先)が批難されても仕方ない「短時間勤務を前提としていたにも関わらず、それを勤務証明書に記載しなかった」という点です。

毎日、奈良市の自宅から大阪市内の会社に片道1時間以上かけて通勤している夕貴さんは、仕事を終えると大急ぎで保育園へと向かいます。この日、夕貴さんが仕事を終えて長男のお迎えに行った時間は午後5時半でした。

「一応6時半までにお迎えということになっていて。時短取っているからいけていますけど、時短なしだったら絶対間に合わないので…」(夕貴さん)

時短無しではお迎えに間に合わないと理解していました。当初から短時間勤務を想定していたと考えられますが、申込書には記載されていませんでした。

奈良市が「虚偽申込であり、退園をお願いするしかない」と伝えたのも無理はありません。

奈良市の説明不足も問題です。

上述した通り、育児短時間勤務制度を利用した場合の取扱いは明記されていません。保護者にとっては、減点されるとは夢にも思わなかったでしょう。

また、仮に説明していたとしても、こうした入所調整制度は短時間勤務制度の趣旨に沿いません。

育児短時間の取扱いは電話や面接で徹底確認を

これから保育所等への入所を申し込む方が教訓とすべきなのは、「育児短時間勤務制度を利用する場合の点数をしっかり確認する」という事でしょう。

関西だと大阪市等が点数に違いを設けないとしていますが、奈良市等は違いを設けています。これらは申込書等に明記されていません。

後になって「短時間勤務を利用すると減点されていた」「入所後に退園を迫られた」という事態に直面しても、多くは手遅れです。

入所調整制度は非常に複雑です。忙しい子育て世帯が全てを理解するのは不可能です(自治体職員ですら間違える)。

であれば、それぞれの家庭が置かれた状況を基に、自治体の担当者へ徹底的に訊くのが一番です。

例えば大阪市であれば、申込時に面接を行っています。ここでしっかり訊くことが出来ます。

オススメの訊き方は「私が計算したら○○○点になりました。これで合っていますか?」とする方法です。

自治体職員が誤った回答をすると、責任問題になります。目の前にある書類やヒアリングを基に、可能な限り正確な点数を算出しようとします。

仮に奈良市の職員と当該保護者がこうした手筈を踏んでいたらどうなっていたでしょうか。

恐らく奈良市の職員は「書類は大阪市内で午後6時まで就労するとしている。お迎えの時間に間に合うだろうか?」と気づいたでしょう。

そして保護者へ「お迎えは祖父母が、それとも短時間勤務、もしくは延長保育を利用する予定でしょうか?」と訊けたでしょう。

皆さんも自治体職員と共にしっかり確認して下さい。