非常に深刻な相談です。

来年3月末に地域型保育事業を卒園する児童が、4月から保育所へ入所する申込みを行いました。なお、母親は妊娠中であり、今年度内に出産・育児休業を取得する予定です。

しかし、「(入所時期である)来年4月は母親が育児休業を取得している。家庭での保育が可能であり、(卒園するので)保育環境等の変化に留意する必要がない」という理由により、大阪市は入所申込そのものを拒否したそうです。

事実上の「育休退園」ではないでしょうか。

市民の声

 育児休暇中の保育園の継続利用に関してです。

 現在2歳の子供を小規模の認可保育園へ通わせております。小規模の為、こちらの園は2歳児クラスまでしかなく、来年3月末で卒園となります。来年4月以降は3歳児クラスのある大きい保育園へ新たに通わせる予定で、一斉入所申込みの準備をしていたところ、申込み自体ができないということが発覚しました。

 理由は、私が現在第二子を妊娠中であり、来年4月の時点では育児休暇に入っております為、家庭で育児ができるということで、この度の一斉入所へは申し込みができないということでした。育児休暇中は自宅で保育できるため、保育園へ通わせることができない、という点に関しては理解できます。しかし、もともと進級できるクラスのある保育園に通っていれば、育児休暇中も子供の環境変化への配慮として、第二子が1歳になる年度の3月末までは、第一子もそのまま通園できるのが現状の制度かと思います。

 同じ育児休暇中でも、保育園を継続利用できる方がいる一方、私のように小規模園の卒園というタイミングと被ってしまったが為に、継続利用ができない人がいるというのは不公平を感じざるを得ません。もともと付くはずであった卒園加点や、第一子を先に入園させることで付くはずであった兄弟加点も全てなくなってしまいます。

 1年後に職場復帰するにあたって、第一子、第二子を同時申し込みするしかなく、二人とも保育園が決まる保障もないという現状に、やるせない思いでいっぱいです。せめて何か救済措置をとって頂けるような配慮があればと思わずにはいられません。(以下省略)

市の考え方

 小規模保育事業を卒園後に他の保育施設の利用を申込みされる場合ですが、基本的には保護者の育児休業期間中は、子どもを保育することができないとは認められていないため、利用開始月中に復職されることが前提で申込みをしていただく必要があります。

 休業開始前既に保育施設へ入所していた児童については、「次年度に小学校への就学を控えているなど入所児童の環境の変化に留意する必要がある場合」や「当該児童の発達上、環境の変化が好ましくないと思料される場合」に、国は継続入所の取扱いとして差し支えないものとしており、本市においても引き続き同じ保育施設等を利用することができることとしています。しかしながら、申出人様の事例につきましては、利用施設が変更となってしまうために、国が認めている条件に当てはまらず、残念ながら育児休業時の継続利用を事由とした保育認定を受けることができないのが現状です。

 なお、育児休業取得時に保育施設又は保育事業を退所され、復職時に利用申込みされる場合は7点の加点の対象としております。(以下省略)

http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000452414.html

申込みを断られた方は、努めて冷静に意見をまとめています。

大阪市は平成14年通達に準拠して判断

保育所等を利用中に育児休業を取得する場合であっても、大阪市は保育所等を継続して利用する事を容認しています。これは「育児休業に伴う入所の取扱いについて(平成14年2月22日
雇児保発第0222001号)」に基づくものです。

○育児休業に伴う入所の取扱いについて

家庭での保育は子どもの育成の上で重要なことではあるが、保護者が育児休業することとなった場合に、休業開始前既に保育所へ入所していた児童については、下記に掲げる場合等児童福祉の観点から必要があると認める場合には、地域における保育の実情を踏まえた上で、継続入所の取扱いとして差し支えないものである。

(1)次年度に小学校への就学を控えているなど、入所児童の環境の変化に留意する必要がある場合
(2)当該児童の発達上環境の変化が好ましくないと思料される場合

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta9728&dataType=1&pageNo=1

本事例につき、大阪市は「利用施設が変更となってしまうために、国が認めている条件に当てはまらず」と判断しました。

しかしながら、これまで地域型保育事業にて集団で保育されていた子供が、唐突に4月から家庭で保育されるのは「環境の変化に留意する必要がある」「児童の発達上環境の変化が好ましくないと思料される場合」に該当しないのでしょうか。

そもそも大阪市は「環境の変化」を幅広く捉え、育児休業中の保育施設等の利用を容認しています。

国の法令に基づき、上のお子様がすでに保育施設等を利用しており、保護者が育児休業を取得する場合で、こどもの発達上環境の変化が好ましくないと認められる場合は、保護者の申し出により、下のお子様が1歳の誕生日を迎える年度の3月31日までを限度に、利用中の保育施設等を引き続き利用することができるとしています。

http://www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/page/0000422908.html

集団保育から家庭保育への移行は「こどもの発達上環境の変化が好ましくないと認められる場合」と判断していました。本事例もこれと同じケースです。

ただ違うのは、「育児休業中に地域型保育事業を卒園する」事です。

厚生労働省の通達は「継続入所の取扱いとして差し支えない」としています。「本事例は継続入所ではなく、そもそも通達が想定する事例に該当しない」という考え方も成り立ちそうです。

しかし、本通達は「平成14年2月22日」に発せられた物です。16年以上前です。当時は地域型保育事業が存在しない時代です。途中で保育施設を卒園し、別の保育施設へ入所し直す事態は想定されていなかったでしょう。

であれば、「継続入所」とは「同一の保育施設での継続入所」ではなく、「(多様な)保育施設の継続利用」と判断すべきではないでしょうか。

子ども・子育て支援法で育児休業中の継続保育を明記

実は新たに施行された子ども・子育て支援法において、育児休業中の取扱いが明記されています。

平成27年4月1日から,子ども・子育て支援法,改正児童福祉法が施行され,これまでは通達レベルの根拠しか存在しなかった,保護者が育児休業を取得した場合について,子ども・子育て支援法施行規則1条9号に,上の子の保育の必要性が認められる場合があることが規定されるに至りました。

https://p-law.jp/legal_column/380/

法令を見てみます。

第十九条 子どものための教育・保育給付は、次に掲げる小学校就学前子どもの保護者に対し、その小学校就学前子どもの第二十七条第一項に規定する特定教育・保育、第二十八条第一項第二号に規定する特別利用保育、同項第三号に規定する特別利用教育、第二十九条第一項に規定する特定地域型保育又は第三十条第一項第四号に規定する特例保育の利用について行う。
一 満三歳以上の小学校就学前子ども(次号に掲げる小学校就学前子どもに該当するものを除く。)
二 満三歳以上の小学校就学前子どもであって、保護者の労働又は疾病その他の内閣府令で定める事由により家庭において必要な保育を受けることが困難であるもの
三 満三歳未満の小学校就学前子どもであって、前号の内閣府令で定める事由により家庭において必要な保育を受けることが困難であるもの

子ども・子育て支援法

九 育児休業をする場合であって、当該保護者の当該育児休業に係る子ども以外の小学校就学前子どもが特定教育・保育施設又は特定地域型保育事業(以下この号において「特定教育・保育施設等」という。)を利用しており、当該育児休業の間に当該特定教育・保育施設等を引き続き利用することが必要であると認められること。

子ども・子育て支援法施行規則

育児休業中に地域型保育事業を卒園した場合の取扱いは明記されていません。しかし、「特定教育・保育施設等」として一括して定義されている点を重視すると、「何らかの保育施設等」と幅広く捉えるべきではないでしょうか。

ただし、「当該特定教育・保育施設等」と記載されているのが課題です。保護者の希望によって育児休業中に別の保育施設等へ転所する事を容認しない一方、保護者の希望に基づかずに転所せざるを得ない場合は容認されると解釈されるべきではないでしょうか。

保育所と地域型保育、育児休業に差を付けた

本件における大阪市の判断において最も大きな問題なのは、「保育所と地域型保育事業において、育児休業の取得について異なる取扱いを容認した」事でしょう。

保育所在籍中ならば育児休業を取得しても継続して利用できる一方、育児休業中に地域型保育事業を卒園すると(何らかの)保育施設を継続して利用する資格を喪失するとしました。利用施設の違いによる、不合理な差別的取扱いではないでしょうか。

また、待機児童等への悪影響も懸念されます。

ここ1-2年の間に第2子以降の妊娠・出産を希望している方は、地域型保育事業への入所申込を躊躇わざるを得ません。入所希望は更に保育所へ集中し、地域型保育事業はますます避けられかねません。待機児童問題がより重くなります。

年度途中であっても3歳児が保育所へ容易に入所できるのであれば、まだ許容できるかもしれません。

しかし、大阪市の保育所の3歳児入所は厳しい状況です。一斉入所でさえ入所できない児童が大量に生じる見通しです。年度途中の入所は極めて困難です。

【H31保育所等一斉入所申込分析】(1)大阪市各区をざっくり/ほぼ昨年通り

7点の加点が得られたとしても、入所枠がなければ絵に描いた餅です。平成32年度一斉入所を待たざるを得ない可能性が高いです。

集団保育から家庭保育、そして乳児の育児

育児休業中の生活は本当に大変です。出産直後の乳児からは片時も目が離せず、常に授乳・添い寝・洗濯・オムツ交換等を迫られます。休む間はありません。

ここに地域型保育施設を卒園した3歳児が毎日の様に家庭で過ごすとどうなるでしょうか。

3月までは多くの子供や保育士に囲まれ、遊んだり運動したりして生活していました。しかし、家庭では望めません。親は常に下の子に掛かりきりとなり、上の子の相手をする余裕は皆無でしょう。

体力を持て余した上の子が室内で走り回ったり、赤ちゃん返りする光景が容易に想像できます。自宅は荒れ果て、親はノイローゼまっしぐらです。

非常に問題がある判断、だと感じました。様々な悪影響が懸念されます。