平成30年第8回経済財政諮問会議において、「幼児教育の無償化」が含まれた骨太方針の原案が公表されました。

「幼児教育の無償化」の中身、問題点等について、識者の意見を中心に触れていきます。

①幼児教育の無償化

待機児童問題が最優先の課題であることに鑑み、「子育て安心プラン」による受け皿の整備を着実に進めるとともに、「新しい経済政策パッケージ」での3歳から5歳までの全ての子供及び0歳から2歳までの住民税非課税世帯の子供についての幼稚園、保育所、認定こども園の費用の無償化措置に加え、幼稚園、保育所、認定こども園以外(以下「認可外保育施設」という。)の無償化措置の対象範囲等について、以下のとおりとする。

(認可外保育施設の無償化の対象者・対象サービス)
対象者は、今般の認可外保育施設に対する無償化措置が、待機児童問題により認可保育所に入ることができない子供に対する代替的な措置であることを踏まえ、認可保育所への入所要件と同一とする。すなわち、保育の必要性があると認定された子供であって、認可保育所や認定こども園を利用していない者とする。なお、保育の質の確保が重要であることに鑑み、認可施設による保育の受け皿整備を進めるとともに、あわせて認可外保育施設の認可施設への移行促進策を強化する。

対象となるサービスは、以下のとおりとする。

・幼稚園の預かり保育
・一般的にいう認可外保育施設、自治体独自の認証保育施設、ベビーホテル、ベビーシッター及び認可外の事業所内保育等のうち、指導監督の基準を満たすもの。ただし、5年間の経過措置として、指導監督の基準を満たしていない場合でも無償化の対象とする猶予期間を設ける。

このほか、就学前の障害児の発達支援(いわゆる障害児通園施設)については、幼児教育の無償化と併せて無償化することが決定されているが、幼稚園、保育所及び認定こども園と障害児通園施設の両方を利用する場合は、両方とも無償化の対象とする。

(認可外保育施設の無償化の上限額)
無償化の上限額は、認可保育所の利用者との公平性の観点から、認可保育所における月額保育料の全国平均額とする。幼稚園の預かり保育については、幼稚園保育料の無償化上限額を含めて、上述の上限額まで無償とする

(実施時期)
無償化措置の対象を認可外保育施設にも広げることにより、地方自治体において、幼稚園の預かり保育や認可外保育施設の利用者に対する保育の必要性の認定に関する事務などが新たに生じることになることを踏まえ、無償化措置の実施時期については、2019年4月と2020年4月の段階的な実施ではなく、認可、認可外を問わず、3歳から5歳までの全ての子供及び0歳から2歳までの住民税非課税世帯の子供について、2019年10月から全面的に無償化措置を実施する。

(認可施設への移行の促進)
認可施設への移行期間中の運営費助成を引き上げるなど、今後、移行促進策を更に強化し、指導監督基準を満たさない認可外保育施設も含め、認可施設への移行を加速化する。

(放課後子ども総合プラン)
女性の就業率の上昇を踏まえ、2023年度末までに放課後児童クラブの約30万人分の更なる受け皿拡大を図ることなどを内容とする新たなプランを今夏に策定する。

http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0605/shiryo_01.pdf

様々な批判が噴出しています。

高所得者優遇政策ではないか?

衆院厚生労働委員会で山井和則氏(国民民主党)が厳しく指摘しています。

(山井委員)
・無償化は恒久財源で年8,000億円、バランスを欠いている
・歴史上例を見ない高所得者優遇、格差拡大
・保育士処遇改善は年200億円だけ
・待機児童対策が後回し
・質の改善(1歳児、4-5歳児配置基準の見直し等)や子供の貧困対策(児童扶養手当等)にも用いるべき

(加藤大臣)
・小中学校は全て無償化済

(山井委員)
・世帯所得1,000万円以上は12%、給付額の16%(1,300億円)が使われる(山井事務所試算)
・世帯所得800万円以上は26%、給付額の32.6%(2,733億円)が使われる
・世帯所得別の給付額は?8,000億円の使い途はいつまでに決めるのか?

(内閣官房)
・所管省庁から回答したい
・現時点では数字を持ち合わせていない
・今年12月の予算編成過程で決めていく

(山井委員)
・この案は国民、与党、厚労省もNoではないか
・世帯所得400万円以下のは20.6%、給付額の6%(477億円)に過ぎない
・これほど高所得者優遇の政策は聞いた事が無い
・より高所得の子供を応援する為の消費税増税ではないか
・子供に使うのは良い、だが待機児童対策、保育士賃金引き上げ、保育の質、貧困対策等も待ったなし
・試算を出して欲しい

(加藤大臣)
・可能であれば提出したい、データが無ければ難しい、時間が欲しい

(山井委員)
・決定する前に国民は知る権利がある、与党も知りたいのではないか
・山井事務所は数時間で試算した(少し紛糾)
・来年4月から保育士賃金は月3,000円(1%)しか上がらない、予算額200億円
・仮に保育士賃金を月15,000円引き上げるとしたら、所要予算は1,000億円
・高世帯所得への給付額と保育士賃金引き上げのバランスが???

(加藤大臣)
・政権交代後、11%引き上げた
・保育士給与のボトムは平成25年、更に1%引き上げる
・3-5歳児の教育、国の役割を考えていきたい
・福祉的視点と教育的視点、両方の視点から議論していきたい

(山井委員)
・無償化に8,000億円、保育士賃金引き上げに200億円、国民が許さない
・世帯所得1,000万円以上に1,300億円が給付される、貧困対策等に充当すべきでは

(加藤大臣)
・児童扶養手当等は改善し続けてきた、必要な見直しをしている
・それぞれの目的を達成できる様に努力していきたい

(山井委員)
・試算を必ず出して欲しい

(内閣官房・内閣府)
・持ち帰って検討したい
・関係省庁と相談の上、検討したい

(山井委員、時間超過を委員長から注意される)
・子供達の日本の未来が決まる、高所得者中心にお金を配るこの案は絶対にダメ

厚生労働委員会(2018年6月1日)

委員会で配付した資料は、山井事務所ウェブサイトに掲載されています。縦横の向きが正しくないので、修正した資料を当ウェブサイトで掲載します。

Download (PDF, 2.46MB)

与党内からも批判が相次いでいます。

保育園の経営に携わる白須賀貴樹衆院議員は「衆院厚生労働委員会で(国民民主党の)山井和則氏が『歴史上例を見ない金持ち優遇策だ』と言っていたが、初めて山井氏に賛成する」と皮肉交じりに政府方針を批判(以下略)

https://mainichi.jp/articles/20180606/k00/00m/010/149000c

(自民党の萩生田(はぎうだ)光一幹事長代行)
政府の幼児教育・保育の無償化方針には「保育の質を担保するには、親たちがウオッチすることが絶対に必要。タダになると興味が薄れるのではないか」と懸念を表明した。

http://opi-rina.chunichi.co.jp/topic/20180606-1.html

指導監督基準未達の認可外施設も無償化?

幼児教育無償化の一つとして提案されているのは「認可外保育施設の無償化」です。これについて、ジャーナリストの猪熊弘子氏がTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」で語りました。

要旨をまとめます。

・認可外保育施設の方が事故が多い
・指導監督基準を満たさない認可外施設であっても、5年間は経過措置として無償化対象、問題が多い
・無償化で質が向上するというのは性善説、虐待紛いで亡くなる子どもも多い
・基準を守った施設を無償化するという順序が重要
・「認可への移行を加速する」とは、認可基準を緩和する懸念がある
・日本の保育基準は戦後に定められたもの、決して高くない、3-5歳の配置基準はOECD最低
・認可保育所の保育料、非課税世帯は既に無償化されている、認可外への拡大は「?」
・幼児教育の無償化は世界的な流れ、日本に焦りが?
・大学進学等でお金が掛かる、その先も踏まえた計画が必要
・「子どもの権利としての教育」を確立する必要がある、制度的なバックアップが必要

【音声配信】骨太の方針、幼児教育無償化についての言及は?(猪熊弘子×荻上チキ)▼2018年6月5日(火)放送分

問題がある認可外保育施設の存在は、大阪市内でも耳にします。無償化で質が向上するというのは、まさに「性善説」でしょう。

誰の為の、何の為の幼児教育無償化なのでしょうか。分からなくなってきました。