学校が再開してから5カ月が経とうとしています。
臨時休校の影響を三菱UFJリサーチ&コンサルティングが分析しました。
新型コロナウイルスの感染拡大により、貧困世帯の子どもが大きな影響を受け、教育格差が拡大する――。そんな分析を大手シンクタンク(調査会社)が発表した。コロナ禍で親の雇用や所得が不安定になると同時に、休校で教育の機会が奪われるためだ。教育機会の逸失を最小限に食い止めるべきだと指摘している。
分析したのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング。6月8日~12日、インターネットで小学生から高校生の子どもがいる2千世帯を対象にアンケートした。
新型コロナウイルスの感染が拡大した2月以降に就業状況に変化があったか聞いたところ、男性の非正規社員のうち26・2%が離職・転職したと回答。正社員や役員(3・4%)の8倍だった。また、今年1月から5月にかけての世帯月収について減少したと答えたのは、年収200万円未満では16・4%だったのに対して、年収1千万円以上の人は1割未満で、低所得の人ほど収入が減少した人が多かった。(以下省略)
元となった資料は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社のウェブサイトに掲載されています。
新型コロナウイルス感染症によって拡大する教育格差
独自アンケートを用いた雇用・所得と臨時休校の影響分析https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_200821/(以下同じ)
新型コロナウイルスの感染予防としての臨時休校によって、子育て世帯は甚大な影響を受けました。
ただ、その影響の度合いは学校の成績・世帯所得・家族構成等によって異なります。
■教育への影響
○新型コロナ拡大前から、子どもの学校の成績と世帯所得は強い相関があり、所得が増えるほど成績も良くなる傾向がある。世帯構造別にみても、1人親世帯の場合は成績の低い子どもが多い。(図表S-4)
○新型コロナの拡大による臨時休校によって、オンライン教育等の代替的手段が提供された。代替的教育手段を活用するためにはパソコンやタブレットPC等のICT機器が不可欠となるが、世帯年収400万円未満の世帯ではいずれも保有していない割合が3割に達している。1人親世帯についても同様である。(図表S-5)
○臨時休校前の勉強時間を学校での成績別にみると、もともと成績の高かった子どもほど勉強時間が長い傾向がある。臨時休校後は、全体として勉強時間は低下しているものの、その低下幅はもともと学力の低かった子どもほど大きい。そのため、臨時休校は子どもの教育格差を拡大させたと考えられる。(図表S-6)
○臨時休校前後での勉強時間や勉強への集中力、生活習慣、健康状態の変化に対してはその他に、家庭・学校が子どもの勉強を見てあげられているかどうかなどが大きな影響を与えている。
○臨時休校は、長期化するほど勉強時間や集中力、生活習慣などが悪化する。経済状況別にみると、貧困世帯は短期間の臨時休校でも勉強時間の減少幅が大きい。一方で非貧困世帯は、臨時休校が長期化するにつれて勉強時間が減少していく傾向がある。
以下、特に気になる点をレポートから引用します。
PCやプリンターの保有率
②ICT機器の保有状況ICT機器の保有状況を示したものが図表17である。
2019年の年間世帯所得別にみると、スマートフォンの保有割合については全体として7割程度と大差はないものの、PCやプリンターの保有率の違いは大きい。400万円未満のPC保有率は55%程度だが、800万円以上の世帯では80%を超えている。プリンターについても400万円未満の世帯では35%程度だが、1,000万円以上の世帯では6割程度となっている。世帯構造別にみると、1人親世帯は他世帯と比較してPCの保有率が顕著に低い。
多くの世帯が所有しているスマートフォンは、世帯所得による差が大きくありません。一方、PCやプリンターの所有率は世帯所得で差が付いています。
臨時休校中に活躍したのは「プリンタ複合機」でした。コピー・印刷・スキャナーが一体化した製品です。
学校から配布された学習教材をWebから直接印刷したり、問題集をコピーしたりと、連日の様に使用しました。
休校中に自宅で学習問題を印刷できたか否かは大きな差が生じたと感じています。
PCの代わりに高性能タブレット(iPad)があれば、大抵の作業は代替できます。ただ、タブレットを使いこなすには一定程度の知識が求められます。
学習時間差も拡大
学校の成績が最も低かった子ども(学年のなかでの成績が5段階で1)に比べて最も高かった子ども(同じく5)では、1週間の勉強時間の差が8.6時間拡大している。成績の高い子どもはもともと勉強時間が長い傾向があるため、新型コロナに伴う臨時休校は勉強時間の差をさらに拡大させたといえる。
休校前から存在した勉強時間の違いが、休校後(休校中)に11時間から18時間へと拡大しています。学力の差は開く一方です。
学力差には学校の先生も苦慮しています。教科によっては同じ教室での一斉授業が難しくなってきています。
妻の就業形態と最終学歴
家庭が勉強を見てあげられているかどうかに決定的な影響を与えているのは、妻の就業形態と最終学歴である。
妻が正規・役員として働いている場合と比較して、非正規で働いていたり無職だったりする場合は、家庭で子どもの勉強を見てあげられている度合いが高まる。
加えて、妻の学歴が高まるほど子どもの勉強を見てあげられている度合いが高まる。以上を踏まえると、母親が家にいる時間の長い世帯や学歴が高く教えるスキルを有している世帯では、臨時休校による子どもの勉強時間や集中力の低下を一定程度抑制できたと考えられる。
「決定的な影響」と強く指摘しています。在宅する親(母親)の有無と学歴ですね。
子供が帰宅する時間や早い時間に親が在宅していれば、子供の勉強を小まめに見る事が可能です。分からない事を訊かれても、小学校低学年程度の学習内容なら答えられます。
更に親の学歴が高ければ学習を効率的に教えられます。数十年前に身につけた受験勉強等の知識を転用するだけですね。有名大卒の専属家庭教師ですね。
都市部の保護者には、小中学校の先生よりも選抜が厳しかった大学を卒業した方が一定数いるでしょう。関西だと京都大学・大阪大学・神戸大学等が当てはまります。
こうした通り、学校の臨時休校は子供やその家庭に重大な影響を与えました。特に世帯所得が低く、子供の学力が低く、子供の勉強を見られない家庭には極めて大きな悪影響を及ぼしました。
この差を埋めるのは容易ではありません。学校等が集中的な学習支援を行わない限り、差は開く一方ではないでしょうか。
専門家「臨時休校は無意味だった」
なお、専門家は「臨時休校は意味が無かった」と指摘しています。
報告書には、2月27日に安倍氏が政府対策本部の会合で、「全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう」と突然の一斉休校を要請した際の経緯が記された。
それによると、会合前の午後1時半ごろ、萩生田光一文部科学相が首相官邸で「本当にやるんですか、どこまでやるんですか」と安倍氏を問い詰めた。反対する萩生田氏に対し、安倍氏は「国の責任で全て対応する、それでもやった方がいいと思う」と述べたという。
報告書はこの決定を、「学校給食や学童保育の拡充の問題など教育現場に混乱をもたらした」だけでなく、これに対する批判的な世論が水際対策の遅れにもつながったとみている。政府の専門家会議の関係者は聞き取りに、「疫学的にはほとんど意味がなかった」と述べている。
何の為の臨時休校だったのでしょうか。徒労感と虚しさばかりが残ります。