教育・保育を行う幼稚園・保育所において、子どもが亡くなる事故が後を絶ちません。

中日新聞が「守って子どもの命 遺族たちの願い」という連載記事を掲載しました。同記事では死亡事故が多い「プール」と「うつぶせ寝」と、判明しづらい「死因・事故原因」を取り上げています。

中日新聞では掲載し切れていない、報告書・訴訟経過等を追います。

神奈川県大和市の伊礼利奈さん(43)の携帯電話がなったのは、正午前だった。二〇一一年七月十一日。「たかちゃんが、意識不明です」。長男の貴弘ちゃん=当時(3つ)=が通う幼稚園からの電話だった。

貴弘ちゃんはプールの授業中、うつぶせで浮いているのが見つかった。外出先から救急病院に駆けつけると、医師四人が交代で貴弘ちゃんに心臓マッサージをしていた。「たっくん、起きて」。呼び掛けても返事はない。約一時間半後、貴弘ちゃんは亡くなった。

翌日、貴弘ちゃんは司法解剖され、解剖医が肺に多量の水がたまっていたことを教えてくれた。「溺れたことに気付かれるのも遅かったし、気付いてからも遅かった」。園の不注意で貴弘ちゃんが溺れ、発見や救命が遅れたことを示唆する内容だった。(以下略)

(上)幼稚園のプール

伊礼貴弘ちゃんが学校法人西山学園大和幼稚園(神奈川県大和市)の室内プールで溺死したのは、2011年7月11日の事でした。

事故原因等は、消費者庁ウェブサイトに掲載されている報告書等に詳細に書かれています。

平成23年7月11日に神奈川県内の幼稚園で発生したプール事故
http://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_003/

当時の園長と担任1人が業務上過失致死罪で起訴され、担任は罰金50万円の有罪判決、園長は無罪が確定しました(日経新聞)。

また、両親が保育園等を訴えた民事訴訟では、地裁・高裁が元担任・元園長・西山学園に計約6,300万円の支払いを命じる判決が下されています(最高裁へ上告されたか未確認)。

 浅野響翔(ひびと)ちゃん=当時一歳二カ月=は二〇一六年四月四日、大阪市の認可外保育園でうつぶせ寝で、ぐったりしているところを発見され亡くなった。母親の美奈さん(34)が園から連絡を受け職場から病院に駆けつけた時、響翔ちゃんの意識は既になかった。「戻っといで、戻っといで」。呼び掛ける美奈さんの願いは届かなかった。その日は、初めて響翔ちゃんを保育園に預けた日だった。

同年六月に市が立ち上げた検証部会の報告書によると、当日は一~三歳児の十一人を保育士と無資格の職員計二人で見ていた。保育士が寝かしつけて午後二時四十分ごろからあおむけで寝始めた。だが、午後三時二十五分ごろ、保育士がうつぶせで寝ている響翔ちゃんに気付き抱き上げたところ、顔は真っ白で唇も紫色で反応がなかった。保育士は人工呼吸などをしてから、約二十分後に一一九番通報。午後四時前に救急車が到着した時には心肺停止状態だった。(以下略)

(中)保育園でのうつぶせ寝

大阪市内で発生した事故でした。当ウェブサイトでも数回に渡って取り上げました。同市が設置した第三者委員会が調査を行い、報告書を公開しています。

涙無しには読めない「たんぽぽの国保育事故調査報告書」

捜査の末、事故当時の施設長等が書類送検されましたが、嫌疑不十分で不起訴処分となりました。今年4月に両親が運営会社・大阪市等を相手とする民事訴訟を起こしました。

【ニュース・4/4追記】認可外保育「たんぽぽの国」での死亡事故、遺族が運営会社・大阪市を提訴

 

 「娘はなんで死んだの? 何があったの? その疑問からずっと抜けられない」。横浜市の松田容子さん(49)は言う。小学六年生だった長女の伶那(れいな)さん=当時(12)=は、二〇一三年二月、通っていた私立小学校のスキー旅行で訪れていた長野県の宿泊施設の前で突然倒れた。午後三時すぎに、友達とそり遊びをしている時だった。

午後四時ごろ松田さんは学校から連絡を受け電車で現地に向かった。「もう助かる見込みはない。蘇生措置をやめていいでしょうか」。途中で医師からも電話があった。「助けてください」とすがったが、「続けても伶那さんが苦しむだけです」と言われ承諾した。午後九時ごろ、病院で伶那さんの遺体と対面した。手を握るとまだ温かかった。

司法解剖は行われず、死亡診断書の死因は「心不全」。死因の種類は「病死及び自然死」に丸が付けてあった。学校は事故が起きた時の状況を詳しく教えてくれなかった。倒れた時、宿泊施設には心臓に電気ショックを与えて救命する自動体外式除細動器(AED)がなく、約一キロ離れた別の宿から借りてきてAEDが使われたと知ったのは半年後。松田さんが学校に質問書を送り、返ってきた回答書でやっと分かった。(以下略)

(下)解明進まぬ事故原因

小学校卒業直前の出来事でした。学校でのスキー旅行中での病死・自然死と診断された為か、事故調査報告書や裁判記録等は見つかりませんでした。

しかし、学校以外の公的機関等が何らかの調査を行わない限り、死亡前後の状況を両親が知るのは著しく困難です。学校の顔色を窺う教員や同級生は口を噤んでしまうケースが多いでしょう。

神奈川県鎌倉市の吉川優子さん(46)も同じ苦しみを経験した。吉川さんは一二年七月、一人息子の慎之介ちゃん=当時(5つ)=を、当時住んでいた愛媛県内の私立幼稚園のお泊まり保育中の事故で亡くした。慎之介ちゃんは川遊び中に水に流され死亡。園は救命道具を用意していなかった。

吉川さんは県に事故原因の調査や園への指導を求めたが「私立幼稚園の運営は自主性に任せているので、監督や指導はできない」と言われた。文部科学省にも資料を送り対策を求めた。だが答えは「園を認可しているのは県なので対応できない」。国の消費者安全調査委員会(消費者事故調)にも訴えたが「川遊びは消費サービスに該当せず対象外」と取り合ってもらえなかった。子どもの事故情報の一元化や安全対策を阻んでいるのは縦割り行政だと実感した。(以下略)

吉川慎之介ちゃんの事故を私は鮮明に覚えています。「幼稚園のお泊まり保育における川遊び」での事故だったからでしょう。

記事にもある通り、消費者安全調査委員会のウェブサイトには同事故に関する記載はありません。

幼稚園内でのプール事故が調査対象となる一方、幼稚園が行ったお泊まり保育での川遊びが対象とならないのは違和感を拭えません。保護者目線では、どちらも「幼稚園が行う教育活動」です。

国等による調査報告が無い中、ご両親は独自に調査・検証等を行い、詳細な内容をウェブサイトやツイッターで公開しています。

Éclairer Les gens de faire la Lumière : ロザリオ学園・西条聖マリア幼稚園 園児溺死事件 吉川慎之介
http://eclairer.org/

同サイトの内容によると、当時の園長は罰金50万円、その他の先生を無罪とする刑事裁判が一審で確定しました。反面、民事訴訟は現在も継続しています。

幼い子どもが命を落とす事件・事故が起きない為には、何をすれば良いのでしょうか。充実した体験と安全性を両立させていきたいです。