少子化にかかわる保育・教育政策等を研究分野としておられる池本美香氏(日本総研)が、「幼児教育無償化の問題点 財源の制約をふまえ教育政策としての制度設計を」とするレポートを公表されています。
レポートはPDF8枚とコンパクトにまとめられています。趣旨や強く気になった点は下記の通りです。
・家計の経済的負担軽減ありきで、教育内容についての掘り下げた議論が欠けている。
・保育料は既に家庭の所得に応じて減免されているため、無償化の恩恵は高所得層に偏る。
・少子化対策としての効果も期待しにくい。
・フルタイムの保育無償化は保育時間の長時間化を助長し、時短を掲げる働き方改革との整合性を欠く。
・幼稚園の時間相当分のみ無償化し、それを上回る時間数については応能負担とするなどの対応が妥当。
・無償化対象施設となる基準や監査制度を構築し、クリアした施設を無償化の対象とすべき。
・3歳未満の子どもも親の就労の有無にかかわらず施設を利用できるように制度を改めるべき
・所管省庁の一元化、都道府県と市町村の監査の重複解消など、制度自体を合理化すべき。
・ICTを活用して自治体や現場の事務作業の効率化や好事例の共有などを進めるべき。
無償化の恩恵が高所得層に偏るのは、以前から多くの方から指摘され続けていました。残念ながら、この疑問に対する政府から見解等はまだ見ていません(あったら教えて下さい)。
少し見落としていたのは、「働き方改革との整合性を欠く」という指摘です。保育無償化に延長保育料金等が含まれれば、長時間保育を助長する効果が生じそうです。
また、従来から長時間保育を助長していた制度もあります。「入所調整のポイント制」です。
多くの自治体は保護者の就労時間をポイント化して入所調整を行っています。例えば大阪市は「8時間以上の就労(休憩時間を含む)」で100点に換算されます。
これにより、1日8時間以上の就労に従事している保護者が保育所へ入所しやすくなり、これより短い就労時間の保護者が入所しにくい実態が生じています。
また、同レポートでは大阪市が導入している「4-5歳児の幼児教育無償化」が大きく評価されています。
わが国の自治体で先行して 4・5歳児の幼児教育無償化を行っている大阪市も、こうした海外の考え方に近い。
大阪市では、保育所の保育料全額を無償化するのではなく、幼稚園の教育費相当額、時間分を無償化するという考え方を採っており、幼稚園は無料、保育時間が幼稚園の約2倍になる保育所は保育料の約半額が無償となる。
大阪市の無償化は、学力底上げの要請や小1プロブレムを背景に、幼児教育の充実が急務だとして、「すべてのこどもが等しく教育を受けられる環境づくりを進める」ことに主眼が置かれている。
ただ、無償化導入以前から、大阪市では95%以上の4-5歳児が幼稚園・保育所等を利用していました(残りは認可外保育施設等)。家計が幼児教育に対する制約にはなっていなかった、と推測されています。
詳細はレポート本文をご参照下さい。