平成29年度保育所等一斉入所申込状況分析、第3回は新しく導入された「保育士優先利用枠」を取り上げます。

なお、昨年の分析記事はH28申込分析H28結果分析からご覧下さい。大阪市子育て支援施設マップ(非公式)も役立つと思います。

待機児童問題を解消するにあたり、ネックの一つは「保育士が集まらない」という点です。最大の要因は「待遇の低さ」にあるでしょう。一方、「自分の子供が保育所へ入所できず、復職したくてもできない」という理由も存在します。

保育所不足により、保育所の要となる保育士が復職できないのは悲劇としか言い様がありません。これを解消すべく、大阪市ではH29一斉入所から「保育士優先利用枠」を設けました。

これは大阪市内の保育所等で働く保育士(就労時間要件あり)を対象とし、市内の保育所等の利用を希望する場合は最優先で利用調整を行うものです。

詳しくは公明新聞に掲載されています。

新たな制度の対象となるのは、市内の認可保育施設に勤務もしくは勤務予定の保育士で、「月20日以上かつ週30時間以上」の労働日数・時間などが条件。来年4月の入所申請から適用される。通常は保育の必要性に応じて算出される利用調整基準の点数の高い世帯から順に入所となるが、こうした基準とは関係なく、保育士の子どもは希望する保育施設に最優先で入所できる。

大阪市の待機児童は、2013年度から減少傾向にあったが、今年度は増加に転じ、273人(4月1日現在)と前年度比で56人増に。また、預け先を確保できずに育児休業を延長するなど、いわゆる「隠れ待機児童」も2597人(同)に上る。市は毎年、認可保育所や認定こども園など保育の受け皿整備を進めているが、「保育ニーズの増加に整備が追い付かない」(市こども青少年局)のが現状だ。

一方、今年4月に市が実施したアンケート調査では回答のあった約200の施設のうち、保育士不足を理由に子どもを受け入れられない施設が約3割あった。「受け皿だけあっても待機児童の解消は厳しい。保育を担う人材確保へあらゆる手を打たないといけない」。赤本勇・市保育企画課長は「優先入所」の実施に踏み切った理由をこう説明する。市は、今回の新制度により、数十人の保育士確保を見込んでおり、赤本課長は「その3、4倍の数の乳幼児を新たに受け入れることができる」と、待機児童解消の担い手を確保する“即効薬”として期待を寄せる。

「もう、この仕事を辞めようかと悩んでいたんです」。こう打ち明けるのは、西区在住の井川祥子さん(仮名=44歳)。保育士歴20年のベテランで、夫と共に4歳と2歳の子育てに奮闘する傍ら、今年4月に育休から復帰。市内の公立保育所で勤務している。

しかし、今年4月の時点では2人とも区内の認可保育所に預けることができなかった。子育て世帯が多い同区は“激戦区”の一つで、夫婦共にフルタイムで働き、利用調整基準が比較的高い点数でも入所は容易ではない。このため、週2日は区外の一時保育を利用。ただ、一時保育は利用料も高い上、「肉体的にも限界を感じていた」という。

https://www.komei.or.jp/news/detail/20161101_21837

優先枠の利用率は1.3%程度に留まる

以前に取り上げた記事では「きょうだいが在籍している等、高い点数を有する児童であっても、保育士以外の家庭で希望保育所へ入所できないケースが多発するのではないか」という懸念を指摘しました(詳細はこちら)

果たしてこの懸念、当たってしまったのでしょうか。平成29年度保育施設利用申込状況では、保育士優先利用枠とそれ以外の申込が区分して掲載されています。

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保育士優先利用枠の申込は190人、申込総数15171人に対して1.25%という結果でした。募集数に対する割合も1.37%に留まりました。

年齢別に見た場合、最も申込率が高いのが0歳児の1.81%、低いのは4歳児の0.19%でした。対募集数で見ても全年齢で2%未満でした。

制度が周知される開始2年目以降はもう少し利用率が高くなるでしょう。とはいえ、全体の利用率は0歳児利用率である2%程度に収束するのではないでしょうか。

優先枠の利用は一部保育所に偏りも

1%台の利用率に留まったとはいえ、それが特定の保育所等に偏っていないでしょうか。優先利用枠の申込が多い保育所(2名以上)を抽出しました。

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該当したのは37保育所等でした。市内にある保育所等は約600施設なので、約6%が当てはまります。優先枠を申し込んだ保育所等には、一定の偏りが生じたのは否めない結果です。

優先枠への申込が最も多かったのは、海老江保育所(福島区)・つぼみ保育園(旭区)の「5人」でした。募集人数の内、6-7人に1人程度は保育士の子供となる計算です。

また、募集人数に対する申込率が20%を越えた保育所もあります。なかよしすみれ保育園(城東区)とみどり保育園(西淀川区)です。

なかよしすみれ保育園は募集人数13人に対し、優先枠3人が申し込みました。3人は全て0歳児(募集人数12人)への申込です。0歳児入所者の内、25%が保育士の子供となる計算です。

とはいえ、同保育園を第1希望とする0歳児は11人(優先枠含む)に留まっています。保育士以外の子供でも十分に入所できます。

優先枠で埋まった保育所・年齢も

反対に懸念された事態が生じたのはみどり保育園です。優先枠への申込は1歳児1人・3歳児1人(募集無し)と少人数ですが、募集数も全体で10人と少人数です。

問題は1歳児です。募集数は1人のみです。保育士優先枠で埋まってしまいました。それ以外で第1希望としている2人や同保育所を第2希望で記入している1歳児は、入所できる可能性は全くありません。

全てが埋まってしまった事例は他に無いものの、多くが保育士優先枠で埋まってしまった保育所・年齢少なくありません。例えば磯路保育所(港区)では0歳児募集数3人に対して2人が優先枠、他申込者16人に対する残された募集枠は1人のみです。

似た様な例は複数園で生じています。保育士優先枠の設定により、第1希望としていた保育所へ入所できる可能性が著しく低くなった方は少なくありません。

良い制度だが上限が必要かも

全体としてみると優先枠の利用は低い水準に留まっており、保育所の利用・復職が保障される保育士へのメリットは極めて大きいでしょう。良い制度だと感じています。保育士が足りない他自治体でも導入する効果がありそうです。

一方、限られた事例とは言え、保育士優先枠によって希望する保育所等へ入所できなくなりそうな児童の存在は無視できません。1人枠はどうしようもないとはいえ、複数人数を募集する年齢の多くを保育士の子供が占めてしまうのは問題があるでしょう。

であれば、優先枠の利用は募集数・第1希望申込数に対して一定割合以下とする(1人枠は除く)等、何らかの形で上限を設けるべきかもしれません。

制度が周知される来年度以降、優先枠の利用は更に増加すると予想されます。復職する保育士・保育士施設にとっては良い制度ですが、それ以外の家庭への影響も考慮すべきでしょう。良い制度とは言え、バランスが必要です。

今後の予定&お願い

この様に各区毎に取り上げていく予定です。今後はリクエストを頂いた鶴見区(特に茨田・諸口地域)、淀川区(特に三国・宮原地域)、阿倍野区、都島区、中央区、天王寺区、福島区、東淀川区に関する内容を掲載する予定としています。

また、10月末から昨日までに頂いたメールの内、少なくとも北区に関係する物は全て返事をお送りしました。その他はもう少し時間を下さい。

「○○区の情報を早く知りたい」「××保育所は昨年より入りやすいの?」等のリクエストがありましたら、記事へのコメントや問い合わせからお寄せ下さい。多少のお時間を頂く場合がありますが、ご了承下さい。

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