「道路交通法等における電動アシスト付ベビーカーの取扱い」がネット上で話題になっています。
電動アシスト付ベビーカーに関する道路交通法及び道路運送車両法の取扱いが明確になりました
今般、事業者より、電動アシスト機能を付加した6人乗りのベビーカー(以下「電動アシスト付ベビーカー」という。)の道路交通法及び道路運送車両法上の取扱いについて確認を求める照会がありました。
関係省庁が検討を行った結果、以下の回答を行いました。
・照会のあった電動アシスト付ベビーカーは、道路交通法第2条第3項第1号の「小児用の車」に該当せず、同法第2条第1項第11号の「軽車両」に該当する。
・また、当該電動アシスト付ベビーカーは、「人力により陸上を移動させることを目的として製作した用具」及び「軌条又は架線を用いないもの」であり、その用途や使用の方法、車両の寸法から道路運送車両法施行令第1条の「人力車」として、同法第2条第4項の「軽車両」に該当し、同法第2条第1項の「道路運送車両」に該当する。以上のことから、当該電動アシスト付ベビーカーを使用する際には、道路交通法上、車道若しくは路側帯(軽車両の通行を禁止することを表示する道路標示によって区画されたものを除く。)の通行が求められ、道路運送車両法上、「軽車両」の保安基準(警音器の設置等)に適合する必要があることが明確になった。
http://www.meti.go.jp/press/2017/09/20170907003/20170907003.html
この決定を非難する記事(ヤフー個人ニュース)も注目を集めているそうです。
「業務用大型ベビーカー 電動アシストスワニーSSA」か
電動アシスト付ベビーカーとはどういう物でしょうか。検索したところ、それらしき製品が見つかりました。「業務用大型ベビーカー 電動アシストスワニーSSA オープンタイプ 4~6人乗り」です。
4人用の大型おさんぽ車
幼稚園・保育所など幼児を乗せる、4人用の大型お散歩カー。小回りが効く中央大型車輪タイプ。
電源ON/OFFスイッチだけの簡単操作で、前進・後退・ブレーキ・方向転換・のすべてを自動で走行のアシストします。
また、坂道などで手を離しても、自動でブレーキがかかる安全装置付。電動アシスト機能
わずらわしい操作は一切無く、ハンドルを持って押すだけ!
前進、ブレーキ、後退、方向転換、全て自動でアシストするのでとっても楽ちん。ノーパンクタイヤでパンクの心配なし
車輪はノーパンクタイヤでパンクの心配がなく、緊急時も安心。
溝も深いタイプで土の路面も快適に走行できます。防炎ハンモックが標準装備で万が一の時も安心
燃えにくい防炎ハンモックシートを使用しているので、もしもの時に備えておけます。避難車として最適です。製品の仕様
完成寸法 奥行106cm×幅78cm×高102cm
ゲージ内寸法 奥行90cm×幅57cm×深さ38cm
重量 27kg
耐荷重 43kg
充電 家庭用100V電源で充電可能
家庭用電源のフル充電で、約5時間・20km程度の走行が可能。http://akachantown.com/shopdetail/008018000021/(ページ削除済みなのでキャッシュより)
大型お散歩車を利用するのは、1人で歩ける様になった1-2歳児が主となるでしょう。1人につき体重は10kg程度です。4人で40kgとなります。押して移動するのには相当の力が必要となります。
これを電気の力で楽にするのが「業務用大型ベビーカー 電動アシストスワニーSSA」です。保育士の重作業が楽になりそうです。
しかし、経済産業省の見解では「軽車両」とされました。どうしてでしょうか。
道路交通法上は?
関係法令等を詳しく見ていきます。まずは道路交通法からです。
・この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする(道路交通法第1条)
・「軽車両」とは、自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう(同法第2条第1項第11号)
・「身体障害者用の車いす、歩行補助車等又は小児用の車を通行させている者」は歩行者とする(同法第2条第3項第1号)
「小児用の車」に該当すれば、「歩行者」とされます。この規定は定義規定を定めた同法第2条の末尾に記載されています。いわゆる例外規定と言えるでしょう。
電動アシスト付き業務用大型ベビーカーは「軽車両」に該当すると判断されました。人の力によって運転される車です。
しかし、「小児用の車」に該当すれば歩行者とされます。では「小児用の車」とは何を指すのでしょうか。
警察庁が示した「小児用の車についての見解」などによると、以下の物が「小児用の車」に該当するそうです。
乳母車 (ベビーカー)
小児用三輪車
小児用自転車
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%94%A8%E3%81%AE%E8%BB%8A
これらの規定や見解等によると、ベビーカーに関しては人力と電動を区別していません。「人力だから歩行者、電動だから軽車両」と一概に分けられる、とは読み取れません。
なお、電動大型ベビーカーと似た大きさ・移動速度である「歩行補助車(シニアカー)」は「歩行者」とされています。歩行補助車について定めた道路交通法施行規則第1条の4を見てみます。
車体の大きさは、次に掲げる長さ、幅及び高さを超えないこと。
長さ 百二十センチメートル
幅 七十センチメートル
高さ 百九センチメートル車体の構造は、次に掲げるものであること。
原動機として、電動機を用いること。
六キロメートル毎時を超える速度を出すことができないこと。
歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
自動車又は原動機付自転車と外観を通じて明確に識別することができること。
これと電動アシスト付き大型ベビーカーを比べてみます。ベビーカーの奥行と高さは歩行補助車の枠内に収まっていますが、幅は8センチほど出ています。
また、移動速度はベビーカー(時速4km程度)の方が遅そうです。自転車等と明確に識別できます。
警察庁交通企画課が見解公表済
この歩行補助車に関する規定につき、ほぼ同じ規定が電動アシスト付きベビーカーにも適用されています。
重要なのは下記部分です。
駆動補助機付乳母車のうち次に掲げる要件を備えたものについては、法第2条第3項第1号にいう「小児用の車」として取り扱うこととする。
(1)車体の大きさが次に掲げる長さ、幅及び高さを超えないこと
長さ120センチメートル幅70センチメートル高さ109センチメートル
(2)原動機を用いない乳母車と同様の使い方を想定したものであり、かつ乳児等を載せるための機能を有するもの
(3)原動機として、電動機を用いること
(4)最高速度が6キロメートル毎時を超えないこと
(5)鋭利な突出物がないこと
(6)ハンドル等から手を離した際には原動機が停止すること
車幅を除けば、問題となった大型電動ベビーカーは歩行補助車の枠内に収まっています。車幅の問題が引っかかったのでは無いでしょうか。
道路運送車両法は?
次は道路運送車両法です。
・この法律は、道路運送車両に関し、所有権についての公証等を行い、並びに安全性の確保及び公害の防止その他の環境の保全並びに整備についての技術の向上を図り、併せて自動車の整備事業の健全な発達に資することにより、公共の福祉を増進することを目的とする(道路運送車両法第1条)
・この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものをいう。(同法第2条第4項)
・道路運送車両法 (以下「法」という。)第二条第四項 の軽車両は、馬車、牛車、馬そり、荷車、人力車、三輪自転車(側車付の二輪自転車を含む。)及びリヤカーをいう。 (同法施行令第1条)
リリースは「その用途や使用の方法、車両の寸法から道路運送車両法施行令第1条の「人力車」」としています。
一方、「電動」という部分は何ら指摘してされていません。用途・使用方法・寸法に限ると、電動アシスト機能の有無に関係なく「大型ベビーカー」は全て同じです。
同法施行令第1条に列挙されている「軽車両」は、全て農作業や重量物の運搬に利用する為に人力や畜力で牽引する車両です(三輪自転車を除く)。ベビーカーとは性質が異なります。
また、同法第2条第4項では「牽引して」とされています。牽引とはどういう意味でしょうか。
牽引
ひっぱること。
大勢の先頭に立って引っぱっていくこと。
http://www.weblio.jp/content/%E7%89%BD%E5%BC%95
「引っ張ること」とされています。しかし、ベビーカーは人力で押す物です。「牽引して」に該当するとは考えにくいです。
電動アシスト付大型ベビーカーを道路運送車両法上の「軽車両」とするのは、難しいと感じました。
まとめ:少なくとも車幅が規定を越えている
長くなったのでまとめます。
(1)牽引せず、農作業等に従事しないので、道路運送車両法の「軽車両」には該当しないのではないか(私見)
(2)道路交通法では「ベビーカー」は歩行者扱いとされる
(3)電動アシスト付きベビーカーは一定の要件(サイズや速度等)を満たせば歩行者扱いとされる
(4)当該電動アシスト付大型ベビーカーは車幅が規定を越えており、道交法では軽車両とされる
電動アシスト付大型ベビーカーは、人力のみで動かす原モデルが車幅78センチとなっていました。実は同メーカーは車幅70センチの大型ベビーカー(立ち乗りタイプ)を発売しています。
業務用大型ベビーカー サンポカー 4~6人乗り
完成寸法 高さ92cm×幅70cm×奥行120cm
ゲージ内寸法 深さ42cm(ガードまでの深さ55cm)×幅41cm×長さ81cm
重量 20kg
耐荷重 60kg
完成寸法は警察庁交通企画課の見解内に収まっています。こちらのモデルを電動化していたら、軽車両と扱われる可能性は大きく減少したのではないでしょうか。
電動アシスト付き大型ベビーカーに対するニーズはあるでしょう。歩行者扱いとされる、製品の開発を望みます。
こちらの問題に関するまとめです。
https://matome.naver.jp/m/odai/2150523529300428401
要は、折角経産省が作ったグレーゾーン解消制度なのに、規制の内容を確認せずに製造して販売したメーカーにも非があるし、経産省側も具体的にどの機種が照会を受けてきたかを言わないと、現場は混乱します。
よどきかくさんは、冷静に分析されていて、とても参考になると思います。
まとめのご紹介、ありがとうございます。ただ、このまとめ記事を読んで、どれだけの方が問題の焦点を認識できるのでしょうか・・・・・(私には分かりませんでした)。
具体的な機種名等を交渉していないので、グレーゾーン撤廃が別のグレーゾーンを呼んでしまっていますね。