同族で保育所を運営している法人で再び不祥事が発生しました。
奈良県田原元町等で数多くの保育所を運営している社会福祉法人「愛和会」の元理事長・現園長が、町から委託費用を詐取した容疑で逮捕されました。驚くことに、逮捕された2人は田原元町長の父親と姉でした。
領収書偽造か 元理事長ら逮捕
田原本町の子育て支援事業の業務委託を受けた社会福祉法人の元理事長ら2人が幼児用のおもちゃを購入したように装い、委託料をだまし取ろうと、偽の領収書を作成したとして有印私文書偽造などの疑いで逮捕されました。
逮捕されたのは、奈良県田原本町の社会福祉法人、「愛和会」の元理事長、森和俊容疑者(69)と、長女で、愛和会が運営する「宮古保育園」の園長、吉村久見子容疑者(43)の2人です。
警察の調べによりますと、森元理事長らは、去年、町の委託を受けて、宮古保育園で実施した子育て支援事業で幼児用のおもちゃを購入したように装い、委託料をだまし取ろうと企て、合わせておよそ46万8000円分の偽の領収書3枚を作成し、町に提出したとして有印私文書偽造などの疑いが持たれています。
森元理事長らは偽造した領収書を本物の領収書に混ぜて町に提出していたということです。
警察の調べに対し、2人は「事実に間違いありません」と容疑を認め、だまし取った金については、森元理事長は、「自分の小遣いにしていた」と話しているということです。
警察によりますと、町から法人には事前に800万円の委託料が支払われていて、使わなかった分は返還することになっていたということで、警察は、余罪についても詳しく調べています。
逮捕された元理事長は田原本町の森章浩町長の実の父親で、森町長は町役場で会見を開き、「町民の皆さんをお騒がせして、深くお詫びを申し上げます」と謝罪しました。
そのうえで、「逮捕されたのが、実の父親と姉ということで混乱もしていますが、町長として不正をただし、透明性のある町政を進めていきたい」と述べました。
さらに森町長は、「町の事業の支出先を精査するため、第三者委員会を設けて過去の分までさかのぼってしっかり調査していきたい」と述べ、警察の捜査に協力するとともに、町としても調査を進める考えを示しました。
社会福祉法人愛和会は昭和54年に設立されました。奈良県田原本町・天理市にて計5箇所の保育所等を運営しており、来年4月には同県川西町に新たな保育所を開所する予定です。
また、保育所等では一時預かり事業や地域子育て支援拠点事業も運営しています。逮捕された容疑は子育て支援拠点事業に関するものでした。
逮捕された元理事長は、平成16年4月から平成27年末まで理事長を務めていました。退任後は顧問という立場において、法人を実質的に経営していたそうです。逮捕された長女と共に、法人・保育園を同族で支配・運営していた可能性が濃厚です。
ここまではよくある同族運営法人での詐欺事件でした。しかし、本件では同族に重要な人物がいます。平成28年2月に当選した現田原本町長です。
同町長は理事長の実子であり、昨年まで同法人で理事及び朝和保育園長を務めていました。父が理事長を務める社会福祉法人にて、子供2人が同時期に園長として働いていました。経歴を調べた限り、保育士資格を有している旨の記載はありませんでした。
平成11年 学校法人西大和学園白鳳女子短期大学就職課を経て、平成13年に社会福祉法人愛和会へ。
平成27年迄社会福祉法人 愛和会朝和保育園園長を務める。保育園外での子育て支援のNPO法人「子育てすこやかサークル」初代理事長。
「次世代育成支援対策推進法に基づく企業」に保育園として初認定、厚生労働省均等・両立推進企業表彰、奈良県労働局長優良賞をいずれも保育園として全国初の受賞。子育て支援拠点事業「にぎわいプラザ」「すこやかひろば」開設。田原本町教育委員会 教育委員、田原本町教育委員会 教育委員長、一般社団法人橿原青年会議所 第42代理事長を歴任。この他にも数々の活動をする中で、広いネットワークと信頼を得る。
詐欺被害を受けたのは田原本町です。つまり、容疑者と被害者(の代表者)が親子という構図です。
実はこうした関係性への危惧が、平成28年3月に開催された田原本町議会で指摘されていました。
(西川議員)
保育所を経営しておられる愛和会が保育所型で設置され、町がそれを推進することが既成事実化されているように私には感じられます。
森町長が行政の責任者の町長として就任されなかったらまだしも、お父様が経営されていた愛和会の保育所でその保育所の経営にかかわっておられ、今後は町長として補助金、来年度は5,550万円余り、負担金、来年度は5億3,200万円余りを保育所を経営しておられる愛和会に支出されることになります。
他の市町村のように、認定こども園を町立で設置するという方法もあり、仮に私立で設置するにしても、自治体の長として認定こども園の設置を内外に広く呼びかけて設置を希望される方を公募するなど、その透明性、公平性、そして客観性を確保されるべきではないでしょうか。政治家とカネの問題が今大きく問題になっておりますが、余計な憶測を避けるためには、町長という立場を考慮されて、さらに脇を締められてはいかがでしょうか。
この認定こども園の設置の検討にかかわって、愛和会との関係について森町長のお考えをお聞きしたいと思います。(森町長)
その中で、透明性、客観性、私と愛和会との関係でございますが、私はもう選挙で当選になったときには、籍は抜けております。ですからこそ、今度は逆に管理・監督する場にあると私は考えておりますので、前町長が寺田組のときに指名願いを取り下げられましたが、今回保育という事業でございますので、委託辞退ということはなかなか難しいことですので、私、そして一親等である父親も理事長職を辞したと、そして経営から引いたという事実がありますので、今回は政治倫理条例におきまして、客観性、そして私自身が変な疑いを持たれないようにしっかりと身を律してやっていきたいと思いますので、もしそういう疑問等がございましたら、またお述べいただき、私もまた律していかないといけないと思いますので、そこはお願いをしたいと思います。
対象となった委託事業は、平成27年度中に行われたものでした。事業や委託費用の詐取が現町長の任期中に行われた物かははっきりとしません。
仮に町長就任前に事件が発覚していたら、町長選(無投票でしたが)に出馬するのは困難だったでしょう。また、就任後に詐取していたら、西川議員が町会議で指摘した危惧が現実のものとなった形です。
町長は父・姉が運営する社会福祉法人からは離れて、距離を置いていました。答弁にある通りに律していたとしても、父や姉が町に対して詐欺行為を働いたらどうにもなりません。
社会福祉法人における金銭関係の事件・不祥事等の多くは、同族で支配して第三者の監査・監督等が不十分な法人で発生している印象です。今回はたまたま早期に発覚しましたが、発覚しないケースも少なくないでしょう。
気になるのは余罪です。領収書の偽造が過去に遡って行われていた可能性もあるでしょう。現町長が理事・園長を務めていた期間にも継続的に行われていたのであれば、何らかの責任問題が浮上する局面も生じそうです。