複雑なニュースです。待機児童問題が深刻な芦屋市内で建設が計画されていた保育所につき、住民の猛反対により開園を断念したそうです。

兵庫県芦屋市で開園を予定していた私立の認可保育園が近隣住民の反対を受けて開園を断念していたことが、22日までに分かった。地域住民の反対で保育施設が開園できないケースは全国各地で相次いでおり、高級住宅都市として知られる芦屋でも待機児童の解消は難航している。
認可保育園の開園を計画していたのは、大阪市の社会福祉法人。今年3月末まで芦屋市竹園町で定員15人のグループ型家庭的保育事業(保育ママ事業)を運営していたが、より多くの児童を受け入れられる認可保育園への移行を目指し、市内で移転先を探していた。

法人はいったん呉川町を候補地としたが、住民の反対に遭い、断念。今年春になって国道43号沿いの宮川町に175平方メートルの敷地を見つけて仮契約までこぎ着けたが、ここでも住民の猛烈な反対に遭った。

「なぜ、この場所なのか」「送り迎えの違法駐車や事故が増える」「騒音で地価が下がったらどうするのか」。法人側は建物を二重窓にすることや、車での送迎が多い0歳児の受け入れをしないことなどの解決策を提示したが、住民側は「開園ありきだ」と拒否。3度開いた説明会やその後の戸別訪問で、批判的な意見がやまず、7月末に進出中止を決定し、市に通知した。

呉川町の自治会長(73)は「ここは古くからの高齢世帯が多く、静かな環境を守りたいという気持ちが強い。保育施設が必要なのは分かるが…」と複雑な表情を浮かべる。

一方、法人の担当者は「住民側の要望にはできる限り応えてきたつもり。これほど反対されるとは思わなかった」とうなだれる。

市によると、市の待機児童数(8月1日現在)は175人。今回の保育園は定員56人まで受け入れ可能だった。市子育て推進課は「最終的には事業者の判断だが、待機児童の解消は急務。市民には保育所の必要性を広く理解していただけるよう啓発していく」としている。

http://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/201608/0009415988.shtml

開園を断念したのは宗教法人光聖寺(蓮美幼児学園)です。大阪市内を中心に、数多くの保育施設を運営しています。狭い土地を有効活用したビル型園舎が多く、芦屋市内でもこうした園舎を想定していたと推測されます。

詳しい経緯は大原ゆうき氏(芦屋市議会議員)のブログに記載されています。出来事を時系列で抜粋して表を作成しました。

時期項目
平成28年2月住民説明会等を実施
2-3月呉川町での開園を断念
3月頃宮川町の土地を仮契約
8月頃?開園を断念

当初の建設予定地(芦屋市呉川町)

今回は建設予定地が2カ所とも住民の反対に遭い、計画を断念しています。計画当初に建設を予定していたのは、芦屋市呉川町です。同議員のブログによると具体的には地図の中央付近、むらまつ歯科クリニックと同じ街区の北東側にある駐車場です。売り出し価格は7800万円だったそうです。

周囲は大きめの戸建て住宅が並んでいる住宅街です。阪神打出駅まで約600メートル、JR芦屋駅まで約800メートルの場所です。

住宅街そのものの保育ニーズは決して多くないでしょう。むしろ、主に少し南にある大型マンション等からの登園を想定しているのではないでしょうか。マンションの更に南には中央公園・図書館があり、子育てするには便利な環境に感じます。

マンションから駅方面に通勤する途中に保育所へ立ち寄り、その足で駅へ向かう保護者が多くなりそうでした。ただ、芦屋市(阪神間)は南北の標高差が厳しいので、自動車を利用して通勤・登園する方も少なくないでしょう。

住宅街のど真ん中・建設予定地の東西は開発道路(?)・付近は高齢世帯が多い・多くの児童は地域外から登園という構図です。仮に建設されたら、住民が危惧する騒音問題・交通問題は確実に発生するでしょう。ビル型の保育所が予想され、騒音は遠くまで響きそうです。

こうした住宅街であっても、地域内に強い保育ニーズがあれば話は少し違ってきます。「うちの孫が保育園に入れず、日中は爺婆で育児して疲れた」という世帯がいるでしょう。この地域にもいる筈です。

しかし、新設保育所に登園する園児の多数は南部のマンションに住んでいると推測されます。「地域内ならともかく、地域外に住んでいる児童の為の保育所をここに作るのに反対」という意見もあったのではないでしょうか。

2番目の建設予定地(芦屋市宮川町)

呉川町での建設を断念し、次に国道43号線を挟んで北にある宮川町での建設を計画しました。関テレの映像によると、建設予定地(だった)は宮川町の南東側、国道43号線の側道に接した地点です。グーグルマップではビルが残っていますが、現在は更地化されているそうです。

当初の予定地より駅に近く、阪神打出駅へは約300メートル・JR芦屋駅へは約500メートルの場所です。利便性は抜群と言えそうです。

想定される登園者は周辺住民・呉川町と同じく南部のマンション住民でしょう。駅に近くなるので、希望者はより増加したのではないでしょうか。

周囲は住宅が広がる一方、予定地は国道43号線・阪神高速3号線に接しています。側道・防音壁があるとは言え、騒音等は完全に防ぎきれないでしょう。また、防音壁・橋脚等の圧迫感も感じられます。

その為か、この道路に接している場所は住宅以外の用途で利用されているケースが目立ちます。宮川町内に限っても、公園・空き地・商業施設として利用されています。住宅建設に適しているとは言えなさそうです。

また、国道・高速道路の側道は広い幅員がある一方、一般的に交通量は少なめです。生活道路としての利用はあるものの、通過交通は国道・高速道路を利用するからでしょう。登園・降園の自動車や自転車が並んでいても、周辺交通へ与える影響は限定的だと推測されます。ただ、歩道がないのが懸念材料です。

当初の建設予定地と比較して、周辺住民等へ与える影響は少なく感じられます。やや手狭な印象はありますが、運営法人が得意とする形式です。

しかし、それでも周辺住民の反対によって建設断念へ追い込まれてしまいました。敷地を接している住宅の存在に加え、国道・高速道路の騒音被害に園児の声が上乗せされるのを恐れたのではないでしょうか。

この場所でも建設できなければ、芦屋市の住宅街で保育所を新設するのは相当困難だと考えられます。大阪市内とは勝手が違った、と言えるかもしれません。

芦屋市の対応は?

気になったのは芦屋市の対応です。大阪市の法人であれば、芦屋市内の事情等に決して詳しいわけではありません。地元人脈もないでしょう。いわゆる「土地勘がない」状況です。

そうした法人をどこまで市役所が手助けしたかがハッキリしません。神戸新聞の記事で「最終的には事業者の判断」とコメントしているだけです。市外の法人による応募を受け付けている以上、待機児童問題解消へ向けて法人を全面的にバックアップする必要があったのではないでしょうか。

保育所建設には周辺住民の理解が欠かせません。一方、熾烈な反対運動が行われた場合、ノウハウを有しない事業者が開設を断念するのは時間の問題です(マンションデベロッパーと反対です)。

最大の被害者は園児とその保護者です。芦屋市に限らず、阪神地域は待機児童問題が深刻な自治体が多いです。仮に保育所新設が進まない場合、公有地を利用して保育所を増やしていくしかないのではないでしょうか。

宮川町内には市立打出保育所があります。90人の保育定員に対し、極めて恵まれた園舎と園庭があります。こうした保育所を改築し、保育の場を増やすという方法も考えられます。

オフィス街・タワーマンションが立ち並ぶ地域とは異なり、住宅街での保育所建設には違った問題があります。