「保育所の入園予約制」という言葉を聞いた事がありますか? 品川区・名古屋市等で既に導入されている制度です。この度、厚生労働省が予約制を設ける自治体を支援する方針を検討しています。
待機児童の解消に向け、厚生労働省は認可保育施設などの「入園予約制」の導入を促す方針を決めた。事前に予約して1歳で入園できるようにすることで、それまでの間は育児休業をとりやすくする。予約制を設ける自治体を支援するための必要経費を2017年度予算の概算要求に盛り込む。
特に待機児童の多い都市部ではログイン前の続き認可保育施設の定員にほとんど空きがなく、年度途中での入園は難しい。また、1歳児の枠は0歳児からの進級でほとんど埋まる。そのため保護者が新年度に合わせて育休を切り上げ、子どもが0歳のうちから入園を申し込むケースが多くなっている。ただ、育休後に子どもを預ける手立てがあれば、子どもが1歳になるまで育休の取得を希望する親も多い。
入園予約制は自治体の認可保育施設などで子どもが1歳になった時に入園できる仕組み。あらかじめ予約の枠を確保しておくことで、年度途中からでも入園が可能になる。東京都品川区などが先駆的に実施しており、厚労省は今後、こうした自治体の取り組みを踏まえて詳細を詰める。
1歳児に必要な保育士の配置は0歳児の2分の1のため、保育士1人が受け持つ子どもの定員を増やすことができ、待機児童の解消につながる。また、深刻化する保育士不足にも対応したい考えだ。(以下省略)
入園予約制を簡単に紹介した後、効果と副作用を検討してみます。
なお、子供が1歳になった時に入園するのは「0歳児クラス」です。1歳児クラスではありません。上記記事は誤解しているかもしれません。
——————-
(8/25追記)
朝日新聞の翌日付の記事で、保育所の入園予約制度の効果・問題点を指摘しています。記事より趣旨を抜粋します。
・保育所入所が早期に決まるので、保育所探しの負担が緩和される。
・品川区の昨年度の入所予約倍率は4倍弱だった。
・同区では入園予約児童が入所するまで、空き枠は一時預かり事業等に活用している。
・予約者より保育の必要性が高い児童が待機児童となる、自営業・育休不取得者が制度を利用できない。
・予約制は育児休業をフルに取得したい保護者のニーズに応える制度、それ以外の人との不公平感が生じる。
——————-
品川区の入園予約制
保育に関する取組事例集(厚生労働省)・育休明け入園予約制度のご案内(品川区)を基にまとめました。
品川区の入園予約制
・公立保育所のみで実施
・満1歳になる誕生日の前日以降まで育児休業を取得する
・通常入園枠とは別枠で実施(弾力化枠を利用?)
・申込締切は出生月の翌月末(出生直後に申込!)
・品川区が選考を行う
・予約受入枠は0歳児が約90名、四半期毎に審査・入所を行う
・平成21年度ではは183人の申込(第3四半期まで)に対して70人
・1-2歳児は計約70名、当該クラスへ4月に入所する
・同じく26人の申込に対して21人が内定
品川区と名古屋市の制度は似ている様で大きく異なっています。それは「育児休業の期間要件」に現れています。
品川区の制度は、育児休業を「満1歳の誕生日の前日以降まで」取得するのが要件です。育児休業を切り上げて復職する方は対象外とされています。また、1-2歳児クラスも対象とされています。
狙いはハッキリしています。「育児休業を出来るだけ長く取得して欲しい、その為に復職との同時入所を予約できる様にする」といったものです。
保育所に入所しやすいのは4月です。例えば8月生まれの場合、育児休業が翌年8月まで取得できるにも関わらず、4月入所に合わせて復職する方が少なくないでしょう。
一方、育児休業を利用して親子が共に過ごす期間が短くなってしまう、他の4月入所希望者が排斥されてしまう、というデメリットがあります。
入所予約制度を設ける事により、敢えて4月復職・入所をせず、8月まで育児休業を取得・同時に入所できる流れとなります。
この制度の問題として、他の入所希望者との不公平感が挙げられます。4月入所を希望したのに入所できなかったのに対し、数ヶ月後に入所予約した家庭が入所する事態が発生します。「予約分の枠を4月入所希望者に充てるべき」という主張があるでしょう。
また、対象者は育児休業を取得できる方だけです。自営業者・育児休業が取得できない職種等は対象から除外されてしまいます。
名古屋市の入園予約制
産休あけ・育休あけ入所予約事業や利用者のブログ等から要点をまとめました。
名古屋市の入園予約制
・原則として民間保育所(一部)で実施
・出産予定日の8週間前から予約できる
・満1歳になる誕生日の前日までを限度として育児休業を取得する
・0歳児クラスが対象
・途中入園も可能
・申込保育所の定員の範囲内について「入所予約の承認」を行う
・予約定員内で早い者勝ち?
名古屋市の制度は品川区と違います。「0歳児クラスのみ」が対象です。出産前後に予約する事により、復職と同時に入所できる仕組みです。育児休業の取得期間は最長で「満1歳の前日」までです。
予約定員は各保育所が定めており、原則として「早い者勝ち」で決まっている様子です。
名古屋市の制度には問題がある様に感じられます。最も大きいのは「4-6月生まれの優遇」です。出産予定日の8週間前から予約できるので、必然的に4月生まれが最も早く予約できます。8月生まれの児童が予約できる頃には殆どの保育所で予約定員が埋まっているのではないでしょうか。
この制度を利用する方は、多くが育児休業を1年間取得する事になるでしょう。育児休業の切り上げを防ぐという効果はありそうです。
また、両自治体に共通する問題として、「年度途中で園児数が変わるので必要な職員数が変わる」という点も挙げられます。品川区は非常勤職員を配置する等して対応しているそうです。
入所予約制度は喜ばれる一方、4月入所組・育児休業非取得者・生まれ月による不公平感は拭いきれません。また、定員設定や運用に細心の注意が必要でしょう。手放しに導入すべき制度とは言い難いと感じました。
待機児童問題で大きな割合を占め、かつ保育所・保育士の負担となっているのは0歳児です。年度前半生まれと後半生まれで入所できる可能性が大きく異なるのも0歳児です。
10月入所枠・0歳児クラスの原則廃止?
一つの方法として考えられるのは、「0歳児の10月入所制度」です。4月入所枠とは別に10月入所枠を設けます。4月に合わせて育児休業を切り上げず、10月に合わす事も可能となるでしょう。
しかし、10月から保育士を増員する必要がある、4月入所枠が減少してしまう等の問題があるのも事実です。
であれば、思い切って0歳児クラスを原則廃止するのは一つの方法でしょう。保育所へは、原則として1歳児クラスから入所する制度です。負担の重い0歳児クラスが無くなるので保育士に余裕が生じ、待機児童問題の解消に資するでしょう。
仮に0歳児クラスを廃止するのであれば、育児休業期間の延長が前提となります。取得期間を「満1歳を迎える年度の年度末まで」とすれば、円滑に1歳児クラスへ入所できるでしょう。
「原則廃止」としたのは、0歳児保育を必要とする世帯が存在するからです。育児休業が取得できない職種、仕事が切れてしまう自営業者等が考えられます。0歳児保育は特段の事情がある方のみを対象とするのです。
悩ましいのは育児休業期間が延びすぎてしまうケースです。4月生まれの場合、丸2年近くも職場から離れてしまいます。ブランク期間が長すぎてしまい、仕事を忘れてしまいかねません。育児休業に伴う休職が嫌われ、女性の採用が避けられる可能性もあります。
0歳児と1歳児クラスの募集枠の不均衡
近頃の新設保育所で気になっているのは「0歳児クラスと1歳児クラスの募集枠の不均衡」です。
とある新設保育所では0歳児クラスで9名を募集する一方、1歳児クラスでは1名しか募集していません。0歳児クラスの方が入りやすいのは明らかです。育児休業の切り上げ・1歳児との不公平感が生じてしまいます。
あくまで推測となりますが、こうした募集数を設定している理由の一つに「園児を早めに入所させ、経営の安定に繋げたい」という狙いがあるでしょう。0歳児クラスで多くの園児を募集できてしまえば、1歳児クラス以降で園児募集を心配する必要がなくなります。
なお、大阪市内で0歳児と1歳児クラスの募集数が著しく不均衡なのは西区です。
H28一斉入所の場合、0歳児は申込数181人に対して募集数187人でした。一方、1歳児は申込数281人に対して募集数104人でした。育児休業を切り上げて入所するのには、合理的な理由があります。
負担の分かち合いを
子供の健やかな成長には親・保育所・職場や社会の理解、そして負担の分かち合いが欠かせません。しかし、その負担が偏っているのが現状です。
持続可能な保育所制度、育児と仕事の両立の為、子育てに必要なリソースを誰が負担するのかを注意深く検討する必要があるでしょう。でなければ、待機児童問題・少子化は深刻化する一方でしょう。