以前に改善勧告無視の認可外保育施設「トムインターナショナルスクール」、遂に捜査へという記事を投稿しました。死亡事故により事業継続が困難となり、破産手続開始決定に至ったそうです。

~保育士不足で死亡事故発生~

(有)トム・インターナショナル・スクール(TSR企業コード:296331406、法人番号:7013302019873、豊島区東池袋1-22-5、設立平成17年3月、資本金10万円、赤堀道子社長)は5月11日、東京地裁より破産開始決定を受けた。 負債は現在調査中。

0歳児から幼児までを対象とした保育園、幼児英語教室、英会話スクールを事業展開。保育園事業では「トム保育園」として0歳からのバイリンガル教育として大卒外国人講師が教育に携わり、一時は都内でも保育所不足の環境もあり、認可外保育施設として人気を得ていた。幼児英語教室・英会話スクールは「トム英会話学院」としてイギリス人やアメリカ人のネイティブスピーカーをそろえ、オリジナルカリキュラムを使って、一時は月間500名近くのこどもたちが学んでいると紹介されていた。これらの事業によって、平成27年3月期には売上高約8000万円をあげていた。
しかし、保育園事業において東京都福祉保健局から有資格者の配置不足および保育室の面積不足を指摘されていたが、改善勧告に従わず、平成27年2月には保育施設としての基準遵守に対する理解や意欲が乏しいとして東京都から再度の勧告を受け、改善が図られない状態が続いてきた。こうしたなか、27年2月5日、保育園内で2歳児の死亡事故が発生し信用を大きく失墜。事業継続は難しくなり、以降、運営を休止していた。

http://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/20160518_01.html

上記記事には重大な誤りがあります。平成27年に死亡事故が発生した旨が記載されていますが、正しくは「平成25年」です。死亡事故が発生→東京都による調査・改善勧告→改善勧告に従わない施設として公表→警視庁の捜査→嫌疑不十分で不起訴、という流れです。

男児死亡は施設に過失なし 警視庁が捜査結果送付

東京都豊島区の認可外保育施設「トム・インターナショナル・スクール」で平成25年2月に死亡した2歳男児について、業務上過失致死容疑で調べていた警視庁池袋署は30日、死因はインフルエンザ脳症で、施設の対応に過失はなかったとする捜査結果を東京地検に書類送付した。

都や施設などによると、25年2月5日、預かっていた男児が高熱を出し、病院でインフルエンザと診断された。その後、男児は施設に戻りベッドで寝ていたが、母親が夕方ごろに迎えに来た際にはうつぶせでぐったりしており、搬送先で死亡した。

司法解剖の結果、吐いたものをのどに詰まらせて窒息した可能性があり、施設に保育士が一人も配置されていなかったことから、池袋署が捜査していた。

施設をめぐっては、都が6月、入所児童数に対し必要な数の保育士を配置しなかったなどとして施設名を公表していた。
http://www.sankei.com/affairs/news/150930/afr1509300012-n1.html

刑事上の過失責任は認定されませんでした。民事上の責任が認められたかは定かではありません。しかし死亡事故が起き、東京都から何度も改善勧告を受けても改善しようとしなかったのは事実です。

多くの保護者が「大切な我が子を預けるに足る施設ではない」と判断したのでしょう。多くの児童が退所し、新たな入所者も集まらず、事業継続が困難になったと容易に推測できます。

行政からの指摘、特に保育士不足は重大事故へ直結

死亡事故が発生した施設の多くに共通する事柄があります。それは「常勤職員、特に有資格者(保育士)の不足」です。必要な人数は認可外保育施設指導監督基準で定められています。

保育に従事する者の数及び資格
(1)保育に従事する者(常勤職員)の数は、原則として施設の開所時間については、乳児おおむね3人につき1人以上、満1歳以上満3歳に満たない幼児おおむね6人につき1人以上、満3歳以上満4歳に満たない幼児おおむね20人につき1人以上、満4歳以上の幼児おおむね30人につき1人以上であること。ただし、常時2人以上であること。
(2)保育に従事する者のおおむね3分の1(保育に従事する者が2人の施設にあっては、1人)以上は、保育士又は看護師(助産師及び保健師を含む。)の資格を有するものであること。
(3)保育に従事する者及び資格を有する者の数は、常勤職員(1日6時間以上で月20日以上、又は月120時間以上勤務する職員をいう。)により算定すること。 常勤職員に代えて短時間勤務(アルバイトやパート)の職員を充てる場合にあっては、総勤務時間数を常勤職員に換算すること。
認可外保育施設指導監督基準

トムインターナショナルスクールでは有資格者不足が繰り返し指摘されていました。保育士不足が重大な事故に直結するわけではありません。しかし、職員や有資格者の不足を見過ごす施設は、法令を遵守する姿勢が著しく欠けていると考えられます。そうした施設は面積基準・保育内容等、様々な分野で不備が発生しても軽視する傾向があるでしょう。

その結果が重大な事故という形で現れました。日頃から法令遵守を心がけていれば、かなりの確率で事故は回避できたはずです。

重要なのは理念ではなくて職員・保育士

トムインターナショナルスクールでは幼児教育・英会話を重視していました。だが、これらは「安全な保育」が大前提です。それには適切な職員数・有資格者が必要不可欠です。

最近気になるのは、職員数等の基準は満たしているが入れ替わりが激しい保育施設が存在する話です。パワハラ・セクハラ・給与未払い・ボーナスカット等により、職員を次々と退職へ追い込む保育施設が一部で存在するという話を聞きました。

こうした施設では派遣会社・人材紹介会社等を利用して新たな保育士を確保しています。その為、見た目の保育士数は充足しています。しかし、職員がころころと変わる保育所で、果たして安全な保育が実施できるのでしょうか。

ここで1日の大半を過ごす園児への影響は深刻です。せっかく保育士に慣れてきたと思ったら、唐突に新しい保育士へバトンタッチ。子供が混乱しないわけがありません。

大切な子供が登園している保育所、もしくは入所を検討している保育所は大丈夫でしょうか。気になる方は、是非「保育士の離職率」を訊ねてみて下さい。「昨年1年間で退職した保育士数」からでも計算できます。

厚生労働省の資料によると、保育士の離職率は10.3%(民間保育所は12.0%)とされています。これを大きく上回る保育所は「何かおかしい」と考えて下さい。特に崇高な理念・英語学習やプリスクール・保育目標を掲げている保育所であれば、外面と実態が大きく異なる恐れがあるでしょう。