首都圏を中心に数多くの「アスク保育園」などを展開しているJPホールディングスが新たな取り組みを始めるそうです。
保育士への需要が急増している中、保育士資格を有していない学生を新卒採用し、入社内定後に社内で開設する保育士養成講座を受講させて保育士試験にチャレンジさせる計画です。
面白い試みである半面、少し疑問に感じる点もあります。

保育業界最大手のJPホールディングス<2749>は、業界初の『保育士養成講座』をスタートする。

 待機児童解消という社会要請を受けて保育業界は高い成長を続けているが、保育士確保が緊急の課題となっている。同社は、初の試みとして保育士資格を持たない新卒を多数採用する意向で入社内定後の秋口に社内で「保育士養成講座」をスタートし、2016年4月の保育士試験にチャレンジさせる。

 保育士の資格は持っていないが保育士を目指したいという高い意欲がある人に保育士になるチャンスを与えることが今回の狙い。最低限でも20~30名、可能なら50名以上の確保を目標としている。

 なお、2016年春の新卒採用方針として保育士資格を有する学生で専門学校、短大、大学から「即戦力」に近い人材として230名採用する方針である。

http://kabu-ir.com/article/421731503.html

保育学校等の卒業生以外を採用し、入社前研修として保育士養成講座を受講させ、入社直後の保育士試験を受験させる計画です。
ふと気になったのは「保育士試験の日程」です。
全国保育士養成協議会ウェブサイトによると、2015年の試験日程は筆記が8月・実技が10月となっています。

では、2016年4月の保育士試験とはいったい何なのでしょうか。
地域限定保育士試験かと思ったのですが、どうやら違います。
何と同年からの保育士試験は、筆記試験が4月・実技試験が7月に行われます。

2015/06/10 平成28年試験日程について

例年8月(筆記試験)と10月(実技試験)に実施しておりますが、昨年、平成26年保育士試験の筆記試験(8月)について、台風の影響で西日本の多くの府県における保育士試験が中止になり、10月に再試験が行われました。このため平成28年保育士試験につきましては、台風の影響の少ない時期を考慮し、下記の日程にて実施することと致しました。

筆記試験:平成28年4月23日(土)、24日(日)
実技試験:平成28年7月3日(日)

http://www.hoyokyo.or.jp/exam/

この様なスケジュールとなるのでしょう。
2015年春~夏:入社内定
2015年秋~2016年春:保育士養成講座
2016年春:入社・保育士試験(筆記)
2016年夏:保育士試験(実技)

大学や専門学校等に入学した当時は保育士になる考えがなかった方であっても、就職活動等を通じて保育士に魅力を感じた方にとっては吸引力の強い入社制度となるでしょう。
教材等の費用は企業側が負担するそうです。
独学で保育士試験に備える方法もありますが、こうした講座を利用して半強制的に勉強した方が学習効率は遙かに良いでしょう。

学校を卒業してから気付いたのですが、毎日決まった時間・決まった場所に集合して勉強する学校制度は極めて効率的でした。
強制的に授業に集中させられ、同程度の学力を有した同年代の人間が集う場では良い意味で競い合う関係が作られます。

本制度は面白い試みである半面、引っかかる点もあります。
社内養成講座を集中的に受講したとしても、果たして半年間で保育士試験に受かるものなのでしょうか。
筆記試験は8科目(2日間)、実技試験は2分野が行われます。

試験に受からなかった場合の扱いも気掛かりです。
報道資料には「保育士試験に受からなかったケースでは本社・支社管理部門などに配置するなどで職場を確保する方針だ」とありますが、肩身が相当狭くなると考えられます。
仮に2回目の試験を受けるとしても、忙しい仕事と受験対策を両立させるのは容易ではありません。

魅力的な制度である半面、新しい分野の受験勉強をする労力と仮に試験に落ちた後を考えるとリスクは高いでしょう。
まずは保育士試験の難易度や自分の能力・適性を把握してからご検討下さい。

余談となりますが、上記報道資料は不思議な日本語の使い方をしています。
自社の計画を発表する文章ではなく、どこかの新聞社が作成した記事をそのまま転載した様な文面です。
学生や投資家が知りたいのは企業の人材育成計画であり、「・・・を固めた」「・・・方針だ」という文言は第三者的に聞こえてしまいます。

なお同社の創業者たる前代表取締役であった山口氏は体調不良によって2月に急遽退任して以降、消息不明のままです(詳細はこちら)。

JPホールディングス株価推移