多くの保育士が園児への虐待に関与した松原保育園(福岡県田川市)が、福岡県・田川市へ改善報告書を提出しました。同園のウェブサイトで公表しています。
不適切な保育事案に関する改善報告書
提出日:令和7年11月20日 提出者:社会福祉法人 松原福祉会 理事長 本報告書は、同法人が運営する保育施設における不適切な保育事案(虐待等)について、その原因を検証し、具体的な再発防止策をまとめたものです。
1. 不適切な保育が生じた原因の検証
職員への聴取と環境分析の結果、以下の要因が複合的に作用し、事案発生につながったと結論付けています。ア. 職員の資質・認識の欠如 不適切行為に関与した職員の多くは、自身の行為を「しつけの一環」「保育のあり方」と捉え、不適切との認識が薄かったことが判明しました。特に経験の浅い職員は対応スキル不足から感情的な行動(怒鳴る、手を出す)しか選択肢がなく、ベテラン職員も古い価値観を更新できていませんでした。
イ. 古い風潮の行き過ぎ(給食の強要) 「残さず食べる」という指導が誤って解釈され、給食を無理やり食べさせる行為が常態化していました。これは後に虐待と認定される行為につながりました(現在は廃止)。
ウ. 指導的役割の不在と相談体制の機能不全 事案当時、現場を指導する主任保育士が不在でした。これにより、若手とベテランの橋渡し役や、経験の浅い職員の相談相手がおらず、職員の孤立を招き、不満や不安が蓄積しやすい環境でした。また、職員会議は事務連絡のみで、保育の悩みを話し合う場がなく、閉鎖的な雰囲気が「言っても無駄」という諦めの空気を生んでいました。
エ. 見守り体制の不備(密室化) 防犯カメラは設置されていましたが、常時監視する体制ではありませんでした。また、園長や事務職員による現場巡回が少なく、保育室がブラックボックス化していました。
オ. 園長と現場の対立 保育士資格を持たない園長が主導する改革と古参職員との間で軋轢が生じ、コミュニケーション不全により信頼関係が構築されず、組織内の対立が職員の精神的な余裕を奪っていました。
2. 再発防止に向けた具体的な取組方針
上記の問題点を解消するため、以下の重点的な取り組みを直ちに実施します。(1) 組織体制の強化と風通しの改善
指導者の確保: リーダーシップを発揮し、若手を指導できる主任保育士を新規採用または行政派遣により早期に確保します。
副園長の配置: 園長を補佐し、現場とのパイプ役となる副園長を設置します。
複数担任制の導入: 全クラスを主担任・副担任の2名以上で担当し、職員一人ひとりの精神的・時間的余裕を確保し、相互チェックを可能にします。
相談体制の構築: 世代や経験年数混合のチーム制やメンター制度を導入し、職員が孤立せず、悩みや問題点を気軽に相談・共有できる環境を整備します。
(2) 教育・研修の徹底
専門研修の強化: 外部講師を招いた研修を義務化し、特に「特別支援保育」に関する研修を必修とします。これは「できないことを責める」姿勢から「個々に配慮する」姿勢への意識改革を目的とします。
セルフチェックの習慣化: 全国保育士会チェックリスト等を活用し、週1回の読み合わせと月1回のセルフチェック報告を全職員に義務付け、自らの保育を振り返る機会を定着させます。
意識改革研修: アンガーマネジメントやハラスメントに関する研修を毎年実施し、職員が感情をコントロールするスキルを習得させます。
(3) 開かれた園の実現と監視体制の強化
保護者の目線の導入: 月1回の保育参観や園開放日を設け、常に第三者の目線が入る環境を作ります。
巡回とモニターの改善: 園長や事務職員が園内を積極的に巡回し、異変を早期に察知する体制を構築します。防犯カメラのモニターを事務室外の誰もが見える位置に移設し、監視体制を強化します。
3. 保護者への信頼回復
保護者に対し、弁護士立ち会いのもと計3回の説明会を実施し、事実経緯と本報告書に記載された改善策を提示しました。園児の心のケアのため、臨床心理士会と連携したカウンセラー配置を継続しています。
同園で30年以上も前から勤務する保育士の証言によると、園内での虐待行為は相当以前から行われていました。
報告書には「困難な園児・状況への対応に際して不適切保育ないし虐待”以外の方法”を知り、身に着けることができていなかった」という、恐ろしい記述があります。
新人保育士は中堅・ベテラン保育士の仕事を見ながら働きます。不適切保育や虐待によって園児に対応する姿を日常的に見ていると、自分も真似してしまうのはやむを得ません。反対にこうした雰囲気に馴染めない保育士は早々に退職していたでしょう。
若手保育士の間に激しい虐待行為が蔓延するきっかけとなったのは、主任級・中堅保育士の不在でした。主任保育士はおらず、中堅保育士は事件発生前の約2年間の間に続々と退職しました。
これにより、入職間もなく経験も浅い若手保育士と、昭和末期~平成初期の古い保育観を抱き続けているベテラン保育士とに二分されました。両者は親子ほどの年齢差があり、コミュニケーションギャップが生じました。
若手保育士にとっては気軽に相談できる相手がいません。不適切保育や虐待を行うベテラン保育士を真似るばかりでなく、自分で悩みを抱え込む事によるストレス等が保育室で爆発した構図です。
しかも若手保育士は年中や年長クラスを1人で受け持っていました。激しい虐待を制止する職員はいません。我慢できなくなっても、一時的に保育を代わってもらう相手もいません。自分自身で抱え込んでしまったのでしょう。
医療機関での勤務経験がある臨床検査技師だった園長とのコミュニケーションにも問題がありました。
医療系の知識や経験はあるものの、保育士資格や保育所等での勤務経験はありません。保育士が保育に悩みを抱えても、なかなか相談しづらいでしょうい。園長に抜擢された理由は不明です。就任後には保育士の大量退職(2年で計12人)が始まりました。
報告書では新規採用・田川市からの派遣・法人内での人事異動により、園長を補佐する副園長や主任保育士を配置するとしています。
しかしながら、補佐役が必要かつ保育経験がない園長を採用した理由や、主任級・中堅保育士保育士が不在だった理由には触れていません。違和感を覚えました。
園運営を統括する理事長の責任については全く記述がありません。少なくとも新園長の採用に関与し、保育士の大量退職といった人事は知り得る立場です。激しい虐待行為の一因は人事のミスにあるにも関わらず、理事長の対応や責任に触れていないのは不自然です。
同じ様な考えは保護者会にて保護者から噴出しました。
・理事長は、何の保育に関わっているんですか?私、今まで1度も見たことないんですよ、保育園にいる姿を
・保育士さんというより園長や理事長がどう処分されるのかなと
・園の先生や保護者から聞くのは園長のパワハラの件が結構多いので、それも原因があったんじゃないかな
・自分は園長や理事長がどう責任を取るのか気になるという感じだけです。(理事長は)しかるべき時にしかるべき判断をしますみたいな濁したことしか言ってなかった
・(理事長と園長は)虐待した先生2人に全部責任を押し付けて自分たちは悪くない。これから頑張っていくので(この件を)許してくださいみたいな感じ
・前回の(説明会に)来たが、『園長先生(園内を)回ってますか』と聞いたら『はい回ってます』って言うけれど、先生たちは「園長先生は回っていない」と言う。だからウソ。ほんとにウソしか言わない
虐待行為等を行った保育士に責任があるのは当然です。が、虐待行為に未然に防げず、こうした行為が発生しない様な環境作りを怠った園長や理事長の責任も重大です。
園は各職員に自分の保育を振り返る報告書を作成させる方針としていますが、園長や理事長も自らを振り返る報告書を作成してもらいたいです。
園が良い方向に変わるという期待が持てるのであれば、来春も一定程度の園児が入所するでしょう。転園する園児も限られます。
されど理事長も園長も留任する園に期待できないのであれば、園児が大幅に減少する事態が生じるでしょう。大切な子供を安心して頼れない園に託すのは怖いです。
福岡県も今後の園運営を危惧しています。
服部誠太郎福岡県知事は21日の定例会見で、松原保育園に今後、無通告で立ち入り調査をする方針を明らかにした。
服部知事は「通常監査だけではだめ。市と連携し、無通告で園に立ち入り、報告内容が実施されているか継続して調査していく。虐待は絶対にあってはならない。防止に努めたい」と話した。
https://digital.asahi.com/articles/ASTCP3SCXTCPTIPE00KM.html
無通告調査を公言するのは異例中の異例です。
