福岡県田川市にある「松原保育園」にて、保育士10人が園児に虐待や不適切保育等を行っていた事が明らかになりました。研修や保護者とのコミュニケーションも取れていませんでした。
福岡県は20日、同県田川市の私立認可保育所「松原保育園」で、保育士10人が、複数の園児を殴ったり強引に食べ物を口に押し込んだりするなどの虐待行為をしたとして、園を設置する社会福祉法人「松原福祉会」(高瀬春美理事長)に児童福祉法に基づく改善勧告を出した。
県によると、保育園の40代の園長が、園の室内カメラの映像に虐待のような行為が映っていることに気付き、8月4日に市に通報。県が8月14日~10月17日に特別指導監査を実施した。
カメラの映像を確認するなどした結果、20~60代の常勤保育士10人が7月18日~8月6日、0~5歳児クラスの複数の園児に殴るなどの身体的虐待を加えたほか、「頭悪いんか」と発言したり威圧的な叱責を繰り返したりする心理的虐待があったと認定。一つのスプーンなどで複数の園児に食事を与える不適切保育も確認した。園には0~6歳の園児88人が通っている。
法人は保育士10人のうち20代の2人をすでに懲戒解雇。県などの聞き取りに園長は「(通報するまで)虐待行為を把握していなかった」と説明し、県警にも相談しているという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6f414287710dfc5a9196c01130215b2462124df1
松原保育園は福岡県田川市川宮1710-4にあります。関西の方には余り馴染みがないかもしれませんが、田川市は筑豊炭田の中心的な場所の一つです。「筑豊最大の炭都」でした。
炭鉱地域やその他の様々な歴史的経緯があるのでしょうか。同保育園の周囲は公営住宅だらけです。公営住宅が比較的多い大阪市といえども、これほど集中している地域は現存していません。
同園ウェブサイトによると、もともとは三井田川鉱業内保育園として発足しました。その後に経営主体が何度か変わり、最終的には松原福祉会が運営する様になりました。
同園は定員90人という中規模の保育園です。ここで働く保育士14人中、10人が虐待等に関わっていました。これだけ多くの保育士が園児への虐待等に関わったいたのは前代未聞です。過去の同種事例を思い出せません。
具体的な内容は田川市や福岡県が行った改善勧告に記されています。
子ども・子育て支援法第39条第1項に基づく改善勧告について (田川市)
松原保育園(田川市)に対する改善勧告の実施について(福岡県)
田川市の改善勧告には、保育士が行った虐待や不適切保育の具体的な内容が記されています。
| 保育士 | 内容 | 行為の類型 |
|---|---|---|
| 保育士A | ① 運動会の練習中や昼食の時間等において、園児が指示に従わないことや上手くできないことを理由に、殴る・叩く・頬をつねる・服を強く引っ張る等の行為を繰り返し行っていた。 ② 昼食やおやつの時間において、食べるのが遅い園児に対し、園児が嫌がっているにもかかわらず、強引に食べ物を口に押し込んだ。 ③ 運動会の練習中、上着の服のポケットに手を入れていた園児の手を叩き、園児の上着を脱がし(園児の上半身は下着姿のまま)その後も練習を続行した。 ④ 園児の服や髪を引っ張り、保育室に隣接する物置に入れた。 ⑤ 園児に対し、「頭悪いんか」など、こどもの心を傷つける発言を繰り返し言っていた。 ⑥ 園児に対し、威圧的に、大声で叱責する行為を繰り返していた。 | 身体的虐待/心理的虐待/ネグレクト |
| 保育士B | ① 運動会の練習中や昼食の時間等において、園児が指示に従わないことや上手くできないことを理由に、殴る・叩く・頬をつねる・服を強く引っ張る等の行為を繰り返し行っていた。 ② 昼食の時間、食べるのが遅い園児に対し、園児が嫌がっているにもかかわらず、強引に食べ物を口に押し込む行為を繰り返していた。園児は食べきれず、口に入った食べ物を嘔吐する場面もあったが、嘔吐したことに対しても、激しく叱責していた。 ③ 園児に対し、威圧的に、大声で叱責する行為を繰り返していた。 ④ 昼食の時間、食事を一つのトングで複数の園児の口に直接与えた。(※衛生・安全に配慮すべきところ不適切) | 身体的虐待/不適切保育 |
| 保育士C | ① 保育士A及びBが行った身体的虐待を確認しながら、これを放置していた。 | ネグレクト |
| 保育士D | ① 保育士Bが行った身体的虐待を面前で確認しながら、これを放置していた。 ② 昼食の時間、園児の背後から食べさせるという食事介助を繰り返し行っていた。(※誤嚥・窒息のリスクがあるほか、自立的な食事習慣の形成に配慮を欠く) | ネグレクト/不適切保育 |
| 保育士E | ① 保育士Bが行った身体的虐待を面前で確認しながら、これを放置していた。 ② 昼食の時間、食事を一つのトングで複数の園児の口に直接与えるという食事介助を繰り返し行っていた。 ③ 昼食の時間、園児の背後から食べさせるという食事介助を繰り返し行っていた。 | ネグレクト/不適切保育 |
| 保育士F | ① 昼食の時間、食べ物をこぼした園児に対し、威圧的に問いかけした結果、泣き出した園児の腕を引っ張り床に倒した。その後、他の園児のところに行き、後ろから頬を叩いた。 ② 言うことを聞かなかった園児を別の保育室に連れていき、ベビーゲート内に乱暴に放り、お尻から落とした。当該園児はその後激しく泣き出した。 | 身体的虐待 |
| 保育士G | ① 昼食の時間、隣に座っている園児にちょっかいを出している園児に対し、側頭部を叩き、髪を引っ張った。その後当該園児は泣き出した。 ② 他の園児の頭を踏んだ園児の頬を後ろから叩き、さらに太ももを2回叩いた。 | 身体的虐待 |
| 保育士H | ① 他の園児の頭を踏んだ園児に対し、背中やお尻を叩いた。その該当園児は反省の態度を示したが、さらに胸を小突き、背中を叩き、腰を小突いた。 ② 言うことを聞かない園児のお尻を叩いた。その後、別の園児に対しても、園児が倒れる程度の強さでお尻を叩いた。 ③ 昼食の時間、食事を一つのスプーンで複数の園児の口に直接与えたほか、おやつの時間、当該保育士が食べているバナナを園児に直接与えた。 | 身体的虐待/不適切保育 |
| 保育士I | ① 保育士Jと関係者の不満を言っている中で、八つ当たりのように園児の頬を叩いた。その後、当該園児が舌を出したのか、「ベーとかしません」と言いながら、頬をつねり、園児は後ろに大きくのけ反り、泣き出した。 ② 昼食の時間、食事を一つのスプーンで複数の園児の口に直接与えた。 | 身体的虐待/不適切保育 |
| 保育士J | ① おやつの時間、園児が当該保育士の方を向いてくしゃみをした際、「汚い」と大声で言った後、園児の額を強く押し、園児は後ろに大きくのけ反った。 | 身体的虐待 |
特に酷い虐待を行っていたのは保育士Aと保育士Bでした。運動会の練習にて保育士の指示に従わない子供を叩いたりつねったりし、給食を口に押し込んだりしていました。こうした前時代的な虐待行為が未だに保育園で行われていたのに唖然としました。
保育士ABほどではないとしても、他の保育士8人の虐待や不適切保育も酷いものです。日常生活や給食中の暴力行為が目立ちます。特に給食中の虐待等は窒息を引き起こしかねません。虐待以上のリスクを感じました。
また、保育士複数が保育士ABによる虐待を面前で確認しながらも放置し、事実上黙認していました。保育士ABによる報復を恐れたのか、それとも仲間意識や共犯意識が芽生えていたのかは不明です。
同園で働く殆どの保育士が虐待等に関係していましたが、では園長は何もしなかったのでしょうか。
報道等によると、今年8月に保育士が園児を叩いているのを園長が防犯カメラで見つけました。それまでは園長は気付いていませんでした。
園内には19台の防犯カメラが設置されています。この規模の保育園としては異例の台数です。しかしながら、監視目的は全く果たしていませんでした。
カメラで監視されているにも関わらず、多くの保育士が虐待を行っていました。「防犯カメラが機能していない」という事実が保育士の間に広まっていたとしか思えません。園長もなめられていたのでしょう。
同園の保育には解せない部分もあります。福岡県と田川市が確認した防犯カメラに記録されていたのは、7月18日から8月6日までの映像でした。しかし、同園の運動会は11月に行われます。7月や8月から運動会の練習を行うのは異常です。仮に本当に練習をしていたのであれば、おかしな保育を行っています。
多くの保育所等では7月や8月にプール遊びが行われます。同園の予定表にも記されていません。県市の調査ではプール遊びにおける虐待は確認されていません。が、プールでのみ虐待等が行われていないと考えるのは不自然です。たまたまカメラが設置されてなく、確認できなかったと推測されます。
保護者との関係にも問題がありました。改善勧告には「保護者アンケートの結果では、連絡帳や保育参観、定期的な保護者会がないため、保育所内でのこどもの様子が分からず、保育所の保育内容が不透明であると感じている回答が複数あった。」と記されています。
保護者が保育園での子供の様子を知る術は限られています。我が家がお世話になっている保育園では日々の連絡帳やお知らせ、毎月配布されるお便り、年1-2階行われる保育参観、その他の行事等、更には登園・降園時の保育士との会話を通じて、保育内容や子供の様子を確認しています。
保護者が「保育内容が不透明」と記すのは余程の事態です。日常的に保護者と保育士の間でコミュニケーションが取れていなかったのでしょう。連絡帳や保育参観がないという事実より、問題は根深いと感じました。
改善勧告での指摘事項で触れられていなかった点もあります。その一つは虐待被害に遭った児童の人数です。
これだけ多くの保育士が虐待等に関与していたとなれば、特定の児童のみが被害にあったとは考えにくいです。複数のクラス等で虐待が行われ、多くの園児が被害にあったと考えられます。どれだけの虐待行為が行われたのか、その規模感は重要です。防犯カメラに記録されているのは氷山の一角に過ぎません。
園長が本当に知らなかったのかも疑問です。小さな規模の保育園にて、園長の目を盗む形で虐待が可能なものでしょうか。もしも本当に知らなかったのであれば、管理職として求められる管理監督義務や安全配慮義務を果たしていませんでした。
福岡県や田川市は11月20日を期限として改善状況の報告を求めています。同報告を受け、新たな県市の対応が公表されるでしょう。十分な対応等が行わなければ、県市は改善命令を行う方針です。
