大阪府の「高校授業料無償化」が決着しました。

 大阪府は25日、2026年度から所得制限をなくし、高校授業料を「完全無償化」する制度案を決定しました。

 この日の会議で決定された新たな制度案では、高校の授業料について、1人あたり年間63万円を上限に国と府が補助し、それを超える分は学校が負担します。

 また、これとは別にすべての私立高校への府からの助成金が生徒1人あたり2万円増額されます。来年度は高校3年生のみ補助を増額し、超える分は一部を保護者の負担にするなど段階的な移行措置がとられ、2026年度にはすべての学年で、世帯の年収に関わらず、「完全無償化」する予定です。

 現在、制度に参加している府内の私立高校は、引き続き参加する見込みですが、府外の私立高校はそれぞれの学校ごとに判断することになっていて、府は引き続き参加を呼びかけています。

 新制度は来月行われる府議会での議論を経て、その後、最終決定されます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/614b7b793cc11f83fc9dd957aa96a11c474d909a

大阪で子育てしている世帯には、影響が極めて大きい制度変更です。

制度概要は下記の通りです。

・対象生徒は2024年度が高校3年生、2025年度が高校2-3年生、2026年度に高校1-3年生へと拡張する。
・世帯所得要件は撤廃する。
・無償化されるのは授業料、入学金はその他の諸経費等は実費負担する(3年間で数十万円~100万円程度か)。
・現に就学支援推進校制度に参加している大阪府内私立校(ほぼ全校)は継続して参加する見通し。
・上記制度に参加する府外私立高校を募る。

詳細は令和5年度第2回大阪府戦略本部会議で配布された資料に掲載されています。

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世帯負担が大きく軽減されることにより、公立高校より私立高校を選択しやすくなります。具体的にどういった影響が生ずるのでしょうか。

大きな影響を受けるのは、大半の生徒がそのまま私立大学へ進学できる、大学附属高校でしょう。具体的には同志社大学・関西大学・近畿大学等の附属高校です。

そもそも公立高校からこれらの大学へ合格・進学するのは決して容易ではありません。大阪市南部の進学校の一つである府立清水谷高校(馬渕教室の合格可能性90%ライン偏差値47.6/内申点390)を例に挙げます。

令和5年度進路状況によると、同高校から国公立大学へ進学するのは全体の14%です。関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)が27%、近甲龍(近畿大学・甲南大学・龍谷大学)が21%となっています。


https://www2.osaka-c.ed.jp/shimizudani/cc95ddd1d69ee5d4afc0dacc90451ed7.pdf

ざっくりした話ですが、同高校で真ん中付近の生徒は近畿大学へ進学しています。

同じく馬渕教室の資料によると、近畿大学附属高校(進学コース)の合格可能性90%ライン(専願)は偏差値43、関西大学高等部・関西第一高校が偏差値48です。一定の条件はありますが、これらの高校から大学へは内部進学が堅いです。

となると、準難関校たる清水谷高校を受験・合格し、在学中に塾へ通って必死に受験勉強をして関関同立・産近甲龍へ進学するよりも、清水谷高校よりも同程度ないし入りやすい附属高校へ専願で入学して内部進学する方が遙かに負担は少ないでしょう。

私立高校授業料無償化により、保護者が負担する金額は3年間で大幅に軽減されます。公立高校で塾に通った場合、私立と公立高校で私費負担額が逆転するケースも生じかねません。

また、附属高校以外の私立高校でも、大学への推薦枠を数多く有している学校もあります。専願で入学し、在学中は自分がしたい事に集中し、推薦で大学へ進学するのはスマートな方法です。

一方でより入学するのが難しい文理学科設置校はやや趣が異なります。たとえば大阪府立高津高校(令和5年度)からは国公立大学へ207人(うち現役166人)が合格しています。


https://kozu-osaka.jp/course/%E5%B9%B3%E6%88%9031%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E5%85%A5%E8%A9%A6%E5%90%88%E6%A0%BC%E8%80%85%E6%95%B0%E9%80%9F%E5%A0%B1

現役で約半数、浪人も含めると半数以上が国公立大学へ合格しています。こうした高校を受験せず、内部進学を前提とした大学附属高校へ進学するのは限られるでしょう。

候補となるのは私立高校進学コース(桃山学院高校S英数コース/専願偏差値60、四天王寺高校文理選抜/専願偏差値57)でしょう。ただ、大学受験に向けた勉強は避けられません。

私立高校のカラーも変わりそうです。無償化により、これまでとは異なった階層の生徒が入学するのは避けられません。例えば中高所得世帯を念頭に置いた運営を行っていた学校では、低所得世帯出身の学生との軋轢も生ずるでしょう。

そうしたトラブル等を避ける目的もあり、授業料以外の負担額を引き上げる動きが顕在化する可能性が高いと感じています。保育所でも高額の実費負担を設定する事により、低所得世帯をパージする園もあるそうです。

高校授業料無償化は中学受験にも影響します。資金計画が全く異なる物となります。

私立中学校は授業料無償化の対象にはならず、従前通りの負担が必要です。しかし、高校以降は無償化の対象となります。中高6年間の総負担額が、ざっくり半分近い水準まで減少します。

「中高6年間の授業料等は負担しきれないけど、3年分なら何とかなる。」という家庭は一定数あるでしょう。特にきょうだいがいる家庭なら尚更です。

今後は中学受験に向けて本格的に検討を重ねる家庭が増えると予想されます。現小学5年生~6年生が今から中学入試対策を始めるのは難しいので、現実的には4年生以下の家庭が悩み始めるでしょう。

受験勉強に耐えられる優秀層がより多く私立中学へ進学してしまうと、地域の公立中学校は大変です。様々な場面でリーダーシップを取りうる生徒が相対的に減少してしまいます。学校運営や授業進行に無視できない影響を与えます。

大まかな見立ては下記の通りです。

・私立高校への進学希望者や進学者が増加し、全体的に若干難化する。
・特に大学附属高校や豊富な推薦枠を有する私立高校が人気を集め、とりわけ専願希望者が増加する。
・京大や医学部等への進学希望者が多い、公立高校文理学科上位校への志願者には大きな影響はない。
・文理学科下位校から私立高校難関校や関関同立附属高等へ若干シフトする動きも。
・関関同立への進学者が中間層を占める普通科上位校から関関同立附属校へは、大きな動きも。
・私立大学への進学者が殆どを占める普通科中位校では、志願者が大幅に減少する懸念も。
・交通の便が悪い、評判が悪い、面倒見が悪い、校舎が古いと言った公立高は、生徒減少により廃校する恐れが。
・私立中学受験熱が強まり、優秀な生徒が相対的に減少しかねない公立中学校には逆風となる。
・他府県の私立高校の参加は不透明。現時点ではネガティブな反応。