平成29年4月に平塚市の保育所で発生した乳幼児死亡事案につき、同市から検証報告書が公開されました。

平塚市特定教育・保育施設等における重大事故の再発防止のための事後的検証委員会からの報告
https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/press/page02_e00001_02186.html

【概要版】

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【本文】

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乳幼児が死亡したのは中原保育園です。事件から4年後、同保育園で働いていた保育士が逮捕されました。が、未だ公判は行われていません。

【ニュース・5/27追記】中原保育園(神奈川県平塚市)で1歳女児を暴行死 保育士を逮捕

検証報告書に事案の詳細が記載されていると思って目を通しましたが、

以下、検証報告書より引用します。

(3)本児の状況
本児は在胎23週1日の早産児(出生時体重546グラム)であり、出生3日目には頭部に脳内出血が確認された。生後5か月までは新生児集中治療管理室(NICU)、新生児回復室(GCU)に入院していた。その後は、生後6か月で首が据わり、生後8か月の体重は5,440グラムであった。事案発生時は、本児は座位が取れず、寝返りはできるが戻ることができない状況であった。また、適宜、医療機関の発達外来を受診していた。なお、事案発生当時(平成29年4月25日時点)の身長は70.0センチメートルであり、体重は6,875グラムであった。

(4)園での状況
本児は、平成29年2月1日に入所し、事案発生時には1歳児であり、平成29年4月のクラス編成時に1歳児クラスに所属するはずであったが、発育状況から0歳児クラスで保育しており、保育時は本児に対し職員1人で対応していた。

亡くなった乳幼児は体重546g(23週)で生まれました。超未熟児です。以前ならば胎外で生きていくのは困難だったでしょう。こうした乳児でも成長し、生活していけるのは、現在医学の進歩のお陰です。

亡くなった当時は1歳1カ月、体重6,875g、身長70.0cmでした。体重は生後3カ月から4カ月の平均、身長は生後9カ月前後の平均値でした。超未熟児で出生したので、同年齢の幼児より身長も体重も大幅に少ないです。身体能力面でも寝返りするのが精一杯でした。「生後半年の健常児相当」と考えると分かりやすいです。

園児は同年2月に入所しました。同保育園では0歳児クラスで保育を行っていました。そして、職員1人(特定の保育士とは限らない)が付きっきりで対応していました。一般的な0歳児と比べ、保育を行うのに重い負担が掛かっていたと想像できます。

事故が発生する前は体調を崩し、5日間連続で登園していませんでした。久しぶりに登園した当日も機嫌が悪く、保育士が膝に乗せたり抱っこしたりして対応していました。

事故が起きたのは午睡中でした。一時的に他保育士や看護士が退室し、数分間だけ1人の保育士が園児5人(本児を含む)を保育していました。他の園児が寝ている中、本児は保育士がミルクを飲ませていました。

異変が起きたのはその数分中でした。保育士や看護士が顔面が蒼白になっている事に気づきました。呼吸が急激に弱くなっていきます。119番通報すると共に、人工呼吸・AED・心臓マッサージ等を行いました。その後、15時15分頃に医師が死亡を確認しました。

この流れだけを読むと、午睡中もしくはミルクを飲んだ事による窒息と受け止めてしまいます。しかし、死体検案書によると死因は「頭部打撲及び頭蓋骨骨折による外傷性くも膜下出血の疑」でした。

園児に何が起きたのでしょうか。何かが起きたのだとしたら、保育士1人だけが保育を行っていた「空白の数分間」が焦点となります。

乳児が頭蓋骨を骨折するには強い衝撃が必要となります。検証報告書では幾つかの可能性を指摘しています。

傷害容疑で保育士が逮捕されたにも関わらず、報告書は偶発的事案と故意の作為による事案という両論を併記しています。公判が開催されず、証拠類も開示されていない現状では、は「どちらか分からない」と言わざるを得ないのでしょう。報告書で最も重要な部分が欠けており、記載されている再発防止策も曖昧な物となっています。

本報告書が強く指摘しているのは、「手厚い保育を必要とする園児に対する保育体制」です。

同月齢の園児より発達が大幅に遅れ、過去に脳内出血も起こした園児を保育するのは、他の園児の何倍もの負荷が掛かっていた筈です。0歳児3人に対して保育士1人が保育を行うのは一般的ですが、本児は保育士1人が付きっきりとなっていました。

が、同園は「療育支援加算」や「平塚市独自の補助金」を受け取っていませんでした。人員のやりくりが切迫するのは言うまでもありません。

更に園長は超未熟児・超低体重児を通常の保育所で預かる事にも疑問を呈しています。身体の発達が数ヶ月遅れているだけならまだしも、それ以外の諸症状を併発して特別のケアが必要となってしまうと、一般的な保育所で保育を行うと重い負荷が掛かります。

本報告書には超未熟児で生まれ、事故当時も低体重・低身長であるとしか触れていません。ただ、1対1保育が必要である事から、身体の大きさが同程度の0歳児よりも注意する必要があったと推測できます。

園長からの聞き取りに基づくと、どうやら園児の入所を園が知ったのは入所決定後だったと考えられます。園が慌てたとは言うまでもありません。

園が知らなかったのには本当に驚きました。入所決定に先立って平塚市は同園と相談等を行わなかったのでしょうか。また、同園への入園を希望した保護者は、入園前に同園と打ち合わせ等を行わなかったのでしょうか(見学・相談等を行ったと思いたいです)。

入園後も園は自治体の発達支援室への定期的な通所を提案していました。「同保育園で保育を行うのは怖い。責任が重すぎる。」という思いを抱いていたとしても不思議ではありません。

しかし、保護者の受け止めは異なりました。障害認定をされたと感じ、園に不信感を持ってしまったのです。

この件に関して、私は園に同情的です。保育園は毎年大勢の子供を保育しています。園長ともなれば、過去に数百人の乳幼児と関わってきています。過去の様々な園児や事例を思い浮かべつつ、今いる園児にとって何が最も望ましいかを考えられる能力があるでしょう。

低身長・低体重以外にも、園長や保育士には何か思う所があったはずです(報告書では触れていない)。そこで平塚市の「こども発達支援室」の受診を勧めました。

「こども発達支援室くれよん」では、発達にご心配があるお子さんの相談をお受けし、保護者の方と一緒によりよい方法を考えていきます。例えば、

ことばについて心配している
落ち着きが無く集中して遊べない
友達にあまり関心が無い
名前を呼んでも振り向かない
集団行動が苦手
歩行等運動面の発達状態が心配など
このような気になること、心配ごとがありましたら、お気軽にご相談ください。

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/kodomo/page-c_00246.html

入園直後に園が外部への受診を勧めるのは余程のケースです。言語化していなくとも、私は「集団保育を行う前提条件」と受け止めました。しかし、これを保護者は拒否しました。報告書には受診した旨は記載されていません。

亡くなった園児や保護者に限らず、他の保護者に対する情報公開等についても報告書は問題視しています。

保護者とのボタンの掛け違いはその後も続きました。本事案に関する連絡等を園が全くせず、他の保護者も全く知りませんでした。3-5歳児の保育室で起きた事故ならば、園児から保護者へ話が伝わるでしょう。しかし、0歳児保育室で起きた事故は園児経由では伝わりません。

本報告書では亡くなった園児の特異性(超未熟児等)、園の運営体制に多くのページが割かれています。しかし、何故事故・事件に至ったのか、当時に1人で保育を行っていた保育士が何をしたのかは未解決のままです。逮捕された保育士からの聞き取りも出来ていません。

やむを得ない事情があるとしても、最も重要な点が欠けた報告書となったのは残念です。