大阪市長や教育長等に宛てた提言の内容や拡散等を理由として、今年8月に大阪市立木川南小学校の久保校長が文書訓告処分を受けました。

 令和3年4月、大阪府における新型コロナウイルス感染者数の急増に伴って医療体制が非常にひっ迫するとともに、本市の児童生徒の感染者数も飛躍的に増加し、変異株が子どもたちにどう影響するか分からない状況にある中、危機管理的な判断として、教育委員会で具体的な対応を決定し、各学校へ通知し、各学校で対応を進めておりました。そうした中、本市が進める教育施策・教育行政の内容や緊急事態宣言中の学校運営等に対して、大阪市立小学校長から提言が提出されました。

教育委員会としては、よりよい教育行政の実現のため、学校現場からの声を聞くことは重要なことであると考えておりますが、今回の提言については、他校の状況等を斟酌せず、独自の意見だけをもって本市の学校現場全体がそうだと断じるなどの内容となっており、そうした提言を拡散させたことについて、次のとおり、令和3年8月20日付けで当該小学校長に文書訓告を行いました。

https://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000542776.html

この処分に関する市教委等の対応につき、開示請求を行った文書を沙和さんが公開しています。

第40回開示請求 木川南小 久保校長先生はなぜ処分されたのか

https://note.com/sawa_osaka/n/n03c61df4db00

久保校長の思いや考え等については、沙和さんが細かく引用・指摘されています。

市教委は当初「SNS拡散」と重大視

私がむしろ気になったのは、市教委の関心事項です。

提言書が拡散された直後の5月19日に行われた事情聴取では、「大阪教育行政への提言」がインターネット上で掲載・拡散している経緯や意図等について繰り返し繰り返し質問が行われています。

6月24日に行われた第2回事情聴取では、提言書を作成・送付した意図や学校運営に関しても質問が及んでいます。

7月7日に行われた教育長レクでは、提言案がfacebook等で拡散した経緯に重点が置かれています。学力テストや学校運営に関する否定的な意見については文末に少しだけ掲載されています。7月20日に行われた教育長レクも同じ内容でした。

処分直前に「市教委の対応に懸念を生じさせた」と断罪

しかし、7月15日に決裁された人事監察委員会への案件付議においては、唐突に「教育委員会の対応について、その決定過程や他校の状況等を斟酌することなく、独自の意見に基づき、本市の学校現場全体でお粗末な状況が露呈し、混乱を極め、子どもの安心・安全が保障されない状況を作り出していると断じ、子どもの安全・安心に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせ、関係教職員らの努力を蔑ろに」と強く記載されています。

フェイスブックやブログへの拡散は脇に追いやられています。

私はここに強い違和感を感じました。事情聴取で重点が置かれたポイントと、付議された案件で主に指摘されているポイントが異なっているのです。

理由は不明です。強いていれば教育委員会や関係職員の意見に関する聴取は必要なかったと判断したのかもしれません。だとしても、何度も何度も聴取した拡散の経緯や意図が付議案件では「付け足し」の様に扱われています。

更に市教委の対応への懸念や努力を蔑ろにした点については、事情聴取等で突っ込んで訊かれていません。不意打ちの様な形で記載されています。

7月27日に決裁された行政措置(文書訓告処分)でもこうした扱いが引き継がれています。

こうした変遷がどうして発生したのでしょうか。あくまで推測となりますが、この事案に対する問題意識が徐々に変化したのではないかと感じています。

事案が発生した直後に問題視したのは「SNSを通じたインターネット上での拡散」だったのでしょう。

オンライン授業や大阪市の教育に対する(批判的な)提言書が現職校長の実名が入りでインターネット上で公開されるのは前代未聞です。寝耳に水の市教委が慌てて対応したのも無理はありません。

久保校長としてもここまで拡散されてしまうとは全く意図していませんでした。そもそもFacebookで一般公開されると無制限に公開される事すら知りませんでした。

あくまで身内(知人の知人レベル)程度に読んで欲しいという思いでしたが、全国に知れ渡ってしまいました。

事情聴取でのポイントも「拡散行為」でした。提言案の内容や市長等へ郵送した行為では無く、拡散という外形がクローズアップされました。

しかし、人事監察委員会へ案件付議した時点では、文面に対する教育委員会や教職員の不快感が前面に出ています。あきらかに主義主張が変化しています。

ただ、こうした主張を行うのであれば、事情聴取等で提言の中身についてより具体的に訊ねるべきでした。事情聴取では殆ど取り上げらませんでした。

懸念される状況を発生させたのは大阪市や市教委

大阪市教委が処分理由として記載した「本市の学校現場全体でお粗末な状況が露呈し、混乱を極め、子どもの安心・安全が保障されない状況を作り出していると断じ、子どもの安全・安心に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせ、関係教職員らの努力を蔑ろにした」という部分には、実は深刻な問題が隠されています。

こうした事態を生み出したのは、他でも無い市教委だからです。

唐突なオンライン学習・登校・給食との併用というお粗末な状況を生じさせたのは市教委でした。その影には松井市長の「要請」がありました。

これによって学校現場は混乱を極めました。児童生徒によって登下校する時間はバラバラ、更にコロナ感染を警戒して終日自宅で過ごす子どももいました。学校は児童生徒1人1人が登下校する時間を把握できていたとは考えにくいです。

オンライン学習と併用中の学校での授業が科目授業としてカウントできないのも大きな問題でした(今は違うかもしれません)。

久保校長が市教委へ提出した顛末書によると、児童全員が登校して実施した1~2時間目は授業としてカウントできない(児童監護という解釈)、3~4時間目は特別活動としてのみカウントできるという解釈でした。

これは学校のみならず、保護者や児童生徒を馬鹿にした話です。各家庭が仕事のスケジュール等を調整して学びを継続させようとしても、それを授業として扱わないなんて無茶苦茶です。何の為に必死になって登校させようとしたのでしょうか。

オンライン学習もお粗末その物でした。通信帯域の不足等により、各校が利用出来るのは1週間あたり40分のみでした。これも授業時数にカウントできません。開いた口が塞がりません。

この間、松井市長は何度も「これは休校ではない、オンラインで学習を継続できている」と繰り返しました。科目の授業時数として計上できない授業、週1回のみのオンライン学習、果たしてこれが「学習の継続」や「学びの保障」と言えるのでしょうか。

子どもの安全・安心に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせたのは、大阪市や市教委自身のお粗末な対応でした。

久保校長の提言や顛末書は、こうした事態をストレートに指摘したものです。外部に拡散した行為は問題かもしれませんが、市教委はこの中身に対して真摯に向き合って欲しいです。

不幸中の幸いか、今夏の第5波で各校で行われたオンライン学習では、多くの学校で第4波とは比較にならないほどにスムーズに行われたと聞きました。第4波の反省を受け、各校や市教委が対策を練ったのでしょう。

「商品」と読解力授業

また、久保校長が子どもを「商品」と喩えた部分も市教委は批難しています。努力を蔑ろにしたわけではなく、努力する方向性が誤っているのではないかと問題提起したものであり、私は問題だとは感じていません。

むしろ市教委は「商品」をより積極的に産みだそうとする動きさえあります。2023年度からの試験導入を検討している「読解力授業」です。

大阪市、読解力育てる授業を23年度に試験導入へ 小3~中3対象

 大阪市教育委員会は、小学3年~中学3年を対象に、読解力を育む授業を2023年度から試験的に導入する。週1回程度を想定し、24年度にも全ての市立小中学校での実施を目指す。今年の全国学力調査の結果で、同市は全科目で全国平均を下回っており、基礎学力の土台となる読解力の向上を目指すという。

 22年度からの4年間に取り組む教育政策を示す「市教育振興基本計画」に盛り込む。市教委によると、自治体ぐるみで読解力を育てる授業に取り組む例は全国でも珍しいという。

 授業は週1時間、年間35時間程度を想定。内容は、新聞や雑誌、広報誌などの実用的な文章のほか図表・グラフを読み解くことを検討している。社会問題や科学技術をテーマにディベート形式で議論するなど、対話を重視した内容にする。

https://news.yahoo.co.jp/articles/9eddff732b61d86b2423404f2b53601e76dfbb54

学校で実用的な文章・図表・グラフを読み解かせるなんて、「グローバル経済を支える人材という商品」を積極的に育成する動きに他なりません。

社会で生活していく上ではこうした知識や技術は必要です。ただ、小中学校で週1時間の授業を行うべきなのでしょうか。国語の授業や図書館の利用促進では足りないのでしょうか。

特にコロナ禍以降の大阪市教委の対応には不安や懸念が募る物が多かったです。大阪市で子育てするのが正解か、自問自答する機会が増えました。