昔ほどは聞かなくなりましたが、今も保育料に関するトラブルは発生しています。

入学金や1年分の保育料を前納したが途中で退園した場合、納付済みの保育料は返還されるのでしょうか。東京地裁は「返還すべき」との判断を下しました。

 東京都港区の認可外保育園に次男(3)を1年間通わせる契約を結んだ後、期間途中で退園したとして、両親が保育園の運営会社に支払い済みの保育料など計約210万円を求めた訴訟の判決が17日、東京地裁であった。佐藤哲治裁判長は「前払いした報酬があれば返還すべきだ」として、退園後の分に相当する保育料99万円の返還を命じた。

 判決によると、両親は2017年3月、運営会社との間で、次男を同年9月から18年8月まで通園させる契約を結び、入学金20万円と1年分の保育料を前払いした。しかし、哺乳瓶持参などをめぐってトラブルとなり、次男を同年3月末で退園させた。

 佐藤裁判長は、保育園の利用規約に保育料が返還されないという記載はないと指摘。「契約が中途で終了した場合、(運営会社は)履行の割合に応じた報酬を請求できるにすぎない」とし、返還の必要はないとした運営会社側の主張を退けた。

 運営会社側は、和解を申し入れたが、成立しなかったとしている。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020121701151&g=soc

同種事案で有名なのは「学納金返還訴訟」ですね。原則として3月31日までに入学を辞退した場合、入学金以外の金額を全額返還するものとされました。

学納金返還訴訟とは、学校(主として大学)に合格後、いったん支払った学納金(入学金、授業料など)を、その学校を入学辞退した後に返還請求する訴訟のことである。

多くの場合、合格者が入学辞退する理由が他大学合格であり、入学辞退の届出は4月1日より前に提出されている。しかし、学則などで「いったん納入された学納金は、いかなる理由であろうと返還しない」という趣旨のことが定められていたため、学納金の返還を求めて訴訟が起されたものである。

このような訴訟は以前からあったが、消費者契約法の施行前は、学納金の返還を一切認めない判決が支配的であり、ごく一部の判決で入学金以外の部分(授業料、施設費等)についての返還を認める判決があるに過ぎなかった。

消費者契約法の施行後、2006年11月27日、最高裁による判決が出された。最高裁判決を端的にいえば、入学金は返還不要、授業料等は原則3月31日までに辞退を申し入れれば全額返還すべきという判決が出されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E7%B4%8D%E9%87%91%E8%BF%94%E9%82%84%E8%A8%B4%E8%A8%9F

また、国民生活センターADR(裁判外紛争解決手続)にて保育料返還に関する紛争が解決されています。「平均的損害を上回る部分」に相当する保育料を返還する旨を仲介委員が斡旋し、和解が成立しました。

保育園入園契約解約に伴う保育料返還に関する紛争

仲介委員は、A.①の規定に従っても、翌々月保育料(充当分1万2000円)については、退会告知が1カ月前になされているため返却すべきであると指摘し、合わせて、B.①は解約に係る違約金の定めといえ、消費者契約法9条1号により平均的損害を上回る部分は無効となるが、解約の時期および解約料割合を相関的に考えれば、1カ月前の解約であることから契約金の20%程度の返金が妥当であるとした。

そこで、翌月の保育料(5万9000円)の約20%である1万円および翌々月保育料に充当した1万2000円の合計2万2000円の返金を提案した。また、仲介委員は②については消費契約法により無効となる可能性があると指摘した。

http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20161208_2.pdf#page=61

報道によると、裁判所は「保育園の利用規約に保育料が返還されないという記載はない」「契約が中途で終了した場合、(運営会社は)履行の割合に応じた報酬を請求できるにすぎない」としました。

保育料を返還しない特約がない以上、前納済の保育料であっても退園後に相当する部分は返還すべきという内容でした。

認可外保育施設との契約には様々なケースがありますが、年齢や保育時間等によって定められた月極金額を前月末までに納付するのが一般的でしょう。

消費者目線としては、退園した後の保育料を返還すべきなのは当たり前の判決でした。

ただ、仮に利用規約に「保育料を返還しない」という記載があったらどうなっていたでしょうか。消費者契約法による「平均的損害を上回る部分」についての返還を命じたのでしょうか。

一方で保育施設の視点に立った場合は話が変わります。保育施設は在園する園児数に必要な保育士等を雇っています。

退園者が生じても、すぐに保育士を解雇するわけにはいきません。継続雇用に必要な費用は発生し続けるでしょう。

本件で非常に問題だと感じたのは「入学金20万円と1年分の保育料を前払いした」と言う部分です。

返還を命じた5カ月分の保育料が約99万円だったのが、同園の月額保育料は約20万円だと推測されます。1年分の保育料は約240万円、入学金と合わせて約260万円を納付したものと考えられます。

1年分の高額保育料を前払いさせる認可外保育施設が存在する事に驚かされました。それだけの金銭的余裕がある家庭の子供を厳選して預かると共に、前払金を運転費用に充てていたのでしょう。

保育施設との金銭トラブルを避ける為には、高額な前納金を求める施設には注意が必要です。急に閉園したら泣き寝入りせざるを得ません。