先日、2021年1月に実施される大学入学共通テスト(旧大学入試センター試験)における英語民間試験の活用が先送りにされると発表されました。

英語民間試験実施延期 萩生田大臣の会見での発言は

「受験生におすすめできるシステムになっていない」
「受験生の皆さんとの約束果たせなかった 大変申し訳ない」
「検討会議で今後1年を目途に検討」
「仕組みを含めて抜本的に見直しを図りたい」
“身の丈”発言「直接の原因になったということはない」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191101/k10012160031000.html

延期に対しては様々な意見があります。

その一方、予定通りに来年4月から導入される制度もあります。小学校中学年(3-4年生)での外国語活動、高学年(5-6年生)での外国語科(教科)です。

中学年では概ね週1時間、高学年では週2時間の授業が行われます。


https://www.zkai.co.jp/saponavi/el/featured/16765/

しかし、お世話になっている学校の管理職、授業を行う先生方、既に外国語活動の授業を受けている高学年の児童からは「不安の声」ばかりが聞こえてきます。

授業時間が足りない!

学校の管理職を務めている先生から、「来年度の授業時間が足りず、頭を抱えている」という旨の話を聞きました。

お世話になっている学校の高学年では、通常の授業に加えて授業後の委員会活動等も行っています。結果、平日の授業等は実質的に常に6時間目まで行われているそうです(週30コマ)。

既に行われている外国語活動(週1コマ)の代わりに外国語科(週2コマ)を実施すると、1週間で31コマが必要となってしまいます。

小学校で7時間授業を行うのは無茶な話です。既存の授業外の活動を削る、土曜授業の時間も含めて再計算する、更に夏休み等を短縮する等、様々な検討を行っているそうです。

学校の権限で変えられる物もあれば、外部の機関(教育委員会や地域団体等)と調整を要する物もあるでしょう。いずれにしても大変です。

「先生、英語はできますか?」

実際に授業を行う先生方にも不安感があるそうです。

以前に担任の先生に「もうすぐ小学校でも英語授業が行われるそうですが、先生は英語が得意ですか?」と訊ねたところ、「全くできません」と即答されてしまいました。

小学校の先生方の大半は、大学入試や大学生活から離れると英語を学習する機会は殆どなかったのでしょう。

大学入試等で一定以上の英語能力を要求されなかった学校を卒業した先生も少なくないと感じています。

先生を対象とした英語研修の実施、当面は英語が得意な先生が高学年を担当する、外部講師の手助けを借りる等、来年度に向けて様々な対策を講じられるでしょう。

とは言え、小学校の先生の英語指導力の向上は避けて通れません。先生方が小学校外国語活動・外国語研修ガイドブックを読み込む姿が目に浮かびます。

嫌がる子供

既に外国語活動の授業が導入されている高学年の他に、中学年や低学年でも緩い形での外国語活動が行われています。

実は我が家の子供は、この活動を強く嫌っています。「英語は分からない、できなくてもいい」と呟く始末です。

小学校でどういった活動が行われているかを見た経験がないので、その善し悪しは分かりません。

持ち帰ってくるレジメ等を見る限り、コミュニケーション系の活動が中心かなと感じています。

しかしながら、小さい内から外国語に親しませようとする活動が、意図に反して英語嫌いを生み出しているのが実情です(サンプル数は僅かですが)。

小学校での英語教科化と大学入試の英語民間試験は同じ水脈

そもそも論として、小学校からの外国語学習は本当に必要なのでしょうか。

そもそも小学校での英語学習の教科化を打ち出したのは、自民党からの提言でした。なお、同提言では「大学入試での英語民間試験の導入」も打ち出されています。

同時に、若者の国際性を高め、英語コミュニケーション能力を向上させるため、小学校での英語教育開始学齢の引き下げを含め、英語母国語人材(JETプログラム)を小中高校に一段と厚めに配置し、留学奨励、留学生受け入れ増、などを推進する。

●大学入試改革

リーダーの育成が期待される大学を対象に、入試を「点数を重視し、その上位から選抜する方式」を改め、特技や資格、学習意欲などで人物を総合的に評価して判定するアドミッション・オフィス (AO)方式への変更を推進する。 共通試験による学力保証の資格試験化、英語については TOEFL、IELTS などによる資格試験化、高校の成績及び課外活動などの特記事項、推薦状、小論文及び面接により選抜し、丁寧な選考方式によるリーダーの育成を推進する。

中間提言 自由民主党日本経済再生本部

その提言の2週間後、政府に設置された教育再生実行会議で「教科化」が答申されました。

③初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を充実する。

○ 国は、小学校の英語学習の抜本的拡充(実施学年の早期化、指導時間増、教科化、専任教員配置等)や中学校における英語による英語授業の実施、初等中等教育を通じた系統的な英語教育について、学習指導要領の改訂も視野に入れ、諸外国の英語教育の事例も参考にしながら検討する。国、地方公共団体は、少人数での英語指導体制の整備、JETプログラムの拡充等によるネイティブ・スピーカーの配置拡大、イングリッシュキャンプなどの英語に触れる機会の充実を図る。
(太線は投稿者強調)

教育再生実行会議「これからの大学教育等の在り方について」(第三次提言)

なお、上記提言の半年後には大学入試における英語民間試験の導入が答申され、その通りに導入される直前まで進みました。

国は、大学教育を受けるために必要な能力の判定のための新たな試験(達成度テスト(発展レベル)(仮称))を導入し、各大学の判断で利用可能とする。高等学校教育への影響等を考慮しつつ、試験として課す教科・科目を勘案し、複数回挑戦を可能とすることや、外国語、職業分野等の外部検定試験の活用を検討する。

「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」(第四次提言)

英語民間試験の導入は4年間先送りされ、現在の中学2年生が大学受験する2024年から実施すると検討されています。

グローバル化に対応した小学校教育が必要か?

そもそもグローバル化を目指し、小学校から英語を学習する必要性はどれだけあるのでしょうか。

あくまで私個人としての考えとなりますが、小学校では様々な書籍や文章に触れ、日本語の語彙力や考える力を伸ばすのが重要だと考えています。

いくら外国語を学習しても、ベースとなるのは日本語の能力です。十分な母語能力がなければ、十分な外国語能力を身につけられないでしょう。

私自身が英語を学習し始めたのは中学1年生でした。家庭等で教えられた経験は皆無、英和辞典もない家庭でした。

他の科目と比べ、英語はずっと苦手意識を持っていました。高校3年生で重い腰を上げて猛勉強(文法・長文読解・英文和訳・和文英訳等)し、何とか人並みの語学力が身につきました。

とは言え、現在は英語を使う機会は殆どありません。外国人観光客と話すか、英語で書かれた資料やメール等を読む程度です。グローバルとは無縁のローカル活動です。

グローバル化に対応した能力が必要か否かは、個々人によって大きな差があるでしょう。

小学校でグローバル化に対応した教育を充実させるよりも、日本国内で生きていくのに必要な基礎学力を徹底的に学習させて欲しいと考えています。

特に大阪市では、ただでさえ小中学生の学力低迷が指摘されています。

ここに英語を上乗せしても、消化しきれないのが目に見えています。来年度以降の学校現場、大変ですね。