日本経済新聞の短期連載記事です。「保育所急増の死角」として、保育所や小規模保育施設等が急増する裏側で発生している歪みについて取り上げています。

保育所急増の死角(上) 待機児童なお1万人 切り札の「小規模」不発
2015/10/6付

待機児童の解消に向けて保育の受け皿を増やす子ども・子育て支援新制度が4月に始まり、半年が経過した。首都圏は保育所開設ラッシュだが、待機児童はなかなか減らない。それどころか供給拡大が急がれるあまり、保育の質が低下するひずみも見え隠れする。運用面の課題も少なくない。

「本当に増えたといえるのか」。東京都台東区に住む自営業の女性(39)は疑問を感じている。認証保育所へ息子(2)を通わせているが、受け入れ対象年齢は0~2歳。来春に向けて新たな預け先を見つけなくてはならない。頭が痛いのは同区で保育所探しが厳しさを増していることだ。

(以下要旨)
・保育所等の受け入れ能力を広げているが、間に合っていない。出産後も働き続けようとする女性が増加しており、待機児童が出てしまう。
・制度詳細が不明、保育士不足等により、小規模保育も狙い通りの効果を上げていない。埼玉県内では整備が進んでいない。
・所沢市では待機児童解消の為、親の育児休業取得を理由として8月末までに30人以上が保育所から退所させている。行政訴訟で係争中。
・世田谷区や品川区では、認証保育所から認可保育所への移行時に退所を迫る例が発生した。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92485850V01C15A0L83000/?n_cid=SPTMG003

「保育所等の増設が更なる申込を誘発するので、待機児童問題はなかなか解決しない」と言われてきました。首都圏ではまさにそうした状況が生じていると言えるでしょう。しかし、様々な物価が高い首都圏では共働きする世帯が多いのは当然です。更に、首都圏では大学や大学院等を卒業・就職し、キャリアを積み重ねてきた女性が多いと考えられます。出産後もキャリアを継続して働き続けたいと考えるのは当然でしょう。

一方、夫婦2人が残業・出張を日常的に行う核家族が日々の子育てや家事等を円滑に行っていくのは、極めて難しいというのが実感です。どうしても時間が足りません。特に総合職社員が他の社員と同等に仕事を行うと、保育所のお迎えの時間に間に合わない日が多発します。「残業して当たり前・残業は正義」「定時退社は時短勤務の仲間」等という風習を変えない限り、しわ寄せは子供にいきます。

小規模保育が狙い通りの効果を上げられるかは、私自身も強い疑問を抱いていました。確かに待機児童問題が特に深刻な0-2歳児の保育の場を担うと観点では重要な場です。しかし、保育所と比較して手狭な施設・卒園を迎えた3歳児以降の不安・3歳以上の兄姉がいると2カ所保育を強いられる等、保護者目線としては積極的に選びにくい施設でした。大阪市で小規模保育施設へ入所した方の選考点数が同一地域の保育所より概ね低く、二次的な選択であったと推測されます。

また、卒園後の受け皿として期待されていた「連携施設」に関する情報が余りに少なく、特に卒園後の最優先入所枠に関する情報が決定的に不足しています。そもそも、本当に最優先で入所できる枠があるのでしょうか。こうした枠を設けると、小規模保育以外から入所できる可能性が極端に狭くなる恐れもあります。幼稚園+預かり保育へ積極的に誘導しない限り、制度設計に無理があった様に感じます。

今後も保育施設を積極的に開設していく場合、保育士の採用・保育所用地の確保・そして財源がネックとなってくるでしょう。保育士の採用や用地の確保に掛かるコストは、今後も上昇していくと推測されます。他分野への支出を削減して保育関連に回すか、保育料の値上げという形で保護者に負担の一部を担ってもらうか、更なる保育所の新設は諦めるか、自治体毎に対応は分かれてくるのではないでしょうか。

なお、保育所等が極端に不足している地域では、小学校や中学校も不足気味です。大阪市内では西区東部が子育て世帯からの人気が高いと言われています。市会こども教育委員会でとある委員が「毎日の様にタワーマンションのチラシが投函されている」と指摘していました。西区の堀江小学校は児童数は急激に増加しており、最盛期には1,500人を超えると見込まれています。堀江中学校は約600人・17学級あり、体育大会が自校で開催できないほどです。民間企業による宅地・マンション開発と、保育所や学校等に関する施策が全く連動していないのが実感です。
所沢市での育休退園訴訟は、こちらで関連記事をまとめています。退所処分の執行が停止され、10月から復園した児童もいます。10月に行われる市長選挙の争点となるかもしれません。
日経新聞の連載記事は(中)(下)と続きます。明日以降も掲載する予定です。