近隣住民の反対により、保育所の設置が難航する事は少なくありません。宝塚市では来春に予定していた開園を延期せざるをえない事態となりました。

 待機児童の解消に向け、兵庫県宝塚市が誘致し、同市山本東2で来春の開園を予定していた私立認可保育所(定員120人)が、周辺住民の反対を受け、今月の着工が延期されたことが分かった。保育所は同市が公募し、たつの市の社会福祉法人が整備するが、住民は周辺道路の安全面に問題があるとして、計画の白紙撤回を要望。市によると、今月予定していた着工の先延ばしにより、春の開園は困難という。

市内の待機児童は今年4月時点で116人に上る。市は私立保育所の誘致を進めており、同市山本東2では、たつの市の社会福祉法人が地元会社の敷地の一角(約1500平方メートル)を借り、2階建て園舎や園庭の整備を計画。園舎内に小学生の放課後児童クラブ(学童保育、定員30人)も併設するという。

この計画に対し、周辺住民は6月と8月、市に「住宅密集地で、交通事情に課題がある」などとして、撤回を求める要望書を提出。住民の1人は「道路が狭く、朝は渋滞する。(子どもの送迎で)事故が起きたらどうするのか」と反対する。

これまでに運営を予定する社会福祉法人が3回、市が1回、住民説明会を開催。市は整備の必要性を説明する一方、住民の理解は得られていない。社会福祉法人は「住民の意見を聞く」として、着工の先延ばしを決めたという。

27日、市議会定例会の一般質問で、今後の取り組みを問われた中川智子市長は「地域とともに歩む保育所運営のため、社会福祉法人に、課題解決の検討を促す」とし、具体的な安全対策を協議すると応じた。

https://kobe-np.co.jp/news/hanshin/201809/0011680537.shtml

計画を進めている法人は「社会福祉法人めぐみ会」、開園が予定されていたのは「宝塚仏光保育園(仮称)」、建設予定地は宝塚市山本東2-113-1(地番)です。

詳細な資料は宝塚市ウェブサイトに掲載されています。

特定開発事業の手続経過及びその内容
内容(平成30年度 第0005号)

http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/anzen/1009495/1004758/1009853/1025705/1026181.html

住所は宝塚市山本東2丁目6-17付近です。土木会社の駐車場等として使われている敷地が保育所用地とされます。

ここは阪急山本駅から約100メートルほどしか離れていない住宅密集地です。そもそも保育所は住宅密集地にこそ必要です。駅チカで利便性が非常に高く、入所を希望する家庭は少なくないでしょう。

また、この土地の南側には大きな新池公園があります。保育所に通う子供達が元気に遊べそうです。

一方、同駅の周辺は道が非常に入り組んでいます。見通しが悪くて車道と歩道が分離されていない道が多く、常に気を遣いながら歩いた覚えがあります。

南向かいに公園用駐車場があり、出入りする車は少なくないでしょう。周辺住民が「交通事情に課題がある」と要望したのも頷けます。

説明会での意見・要望と回答

保育所の設置に際して、社会福祉法人や宝塚市は何度も説明会を行いました。説明会で寄せられた住民からの質問と回答が、一問一答形式で掲載されています。こうした事例は珍しいです。

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資料には住宅密集地や駅チカに保育所を設置する際に寄せられる典型的な質問が数多く掲載されています。幾つか取り上げてみます。

【進め方】
説明の対象者の範囲
説明が遅い
条例との整合性
住民が納得できるまで、建築着工しないで欲しい

【土地の選定】
土地は誰が探したのか
どうしてここにしたのか
別の敷地に変更して欲しい
静かに暮らす権利がある

【道路事情】
接道する道路が狭すぎる
接道部分をセットバックして欲しい
交通量調査を実施して欲しい
交通事故の補償は?
交通安全員
歩道を設置して欲しい
ガードレールを設置して欲しい

【園児の声】
騒音対策は
屋上園庭の防音は
防音壁を設置して欲しい

【園舎】
緑地は近隣側に設置して欲しい
水回りを近隣側に設置しないで欲しい
十分な離隔距離を確保して欲しい
目隠しを設置して欲しい
屋上園庭やプールは使用しないで欲しい

【駐車場】
外部駐車場の有無、台数
十分な駐輪場を設置して欲しい

【工事】
防音・振動・粉塵対策に万全を期して欲しい

【運営】
開園・閉園時間は
路上駐車者とのトラブル防止
子供や地域住民の安全確保
想定する登園エリア
収益物件で損失が生じた場合の補償の有無
保護者の迷惑行為を指導して欲しい
大人数が集まるイベントを園内で実施しないで欲しい
定員数を縮小して欲しい

住民からの質問に対して、事業者が真摯かつ適当に答えています。

近隣住民が心配するのも当然だという内容もあれば、言いがかりに近い無理筋の要望等もありました。

最も質問数が多かったのは、道路事情に関するものでした。前面道路は4.5メートルと狭く、歩道も途中までしか設置されていません。園児を巻き込んだ交通事故を恐れるのも無理はありません。

これに対して社会福祉法人は「事業区域外です。宝塚市に要望して下さい。」と回答した項目が多かったです。法人の主張も理解できます。

しかし、住民としては「保育所の設置に起因するのだから、事業者が責任を持って宝塚市と検討すべきである」という考えなのでしょう。不満が説明会で噴出してしまったのかもしれません。

園児の声や園舎については的確な質問・要望が目立ちました。運営法人としても最大限対応する方針なのでしょう。ただ、屋上園庭の使用禁止等、譲れない一線はあります。

運営については無茶な要望・意見が少なくなかったです。「イベントの実施禁止」「定員数の縮小」は無理筋です。

最も重大な意見は「土地の選定」に関するものでしょう。この土地にした理由を知りたい気持ちは理解できますが、事業者としては「ここが適当と判断した」としか言い様がありません。

「静かに暮らす権利がある」という意見もありました。しかし、ここは駅前の住宅街です。多くの子育て世帯が暮らす地域です。自分の権利を声高に主張して保育所を拒否するのは横暴です。

最終的に事業者は着工の先延ばしを決定しました。建設の完了予定も「平成32年2月1日」に延長されました。

宝塚市議会で市長は「社会福祉法人に課題解決の検討を促す」と答弁したそうです。しかし、近隣住民が最も心配する道路事情は宝塚市が管轄するものです。

宝塚市が本当に保育所を設置したいのであれば、近隣住民の要望に応じて早急に道路の拡充等に取り組む事が必要でしょう。園児の安全対策にも繋がります。