前代未聞の訴訟です。

多摩市役所の子育て支援課長が、市職員の子供を「えこひいき」して保育園へ入園させた疑いが持たれています。その上、受け入れた保育園が支給要件から外れたにも関わらず、同市は補助金を支給し続けていたそうです。

これに対し、元職員が「違法な公金支出が為された」として、市長に対して訴訟を通じて請求しています。

市課長、職員の子の入園決定 「特別扱い」訴訟に発展

東京都多摩市の子育て支援課長(当時)が2014年、市内の認可保育園長に市職員の子の入園を要請し、定員を理由にいったん断られながらも最終的に入園させた。この経緯をめぐり、同課の課員(同)が「身内」を特別扱いするものだとして市長を提訴する事態になっている。市は「職員だから優先したわけではない」としている。

市は16年に、元課員からの指摘を受け、経緯を検証している。検証結果の文書などによると、課長は14年11月に園長に電話をし、生後間もない職員の子の入園を求めた。園長は、市の補助金を受給するための基準となる定員を超えることを理由に拒否した。しかし、再び電話でやりとりをしたのち、課長が入園を決めた。

同市では、園の面積から定員を定め、その範囲内であれば支給される補助金がある。市によると、この保育園は、職員の子を受け入れると面積が1・6平方メートル不足する状況だった。課長は、こうした状況を十分確認しないまま補助金を4カ月間(計約456万円)支出し続けたとして、16年9月に戒告処分を受けた。

市の説明によると、入園を求めた子の両親はともに多摩市職員。母親が出産後に重い病気になったことを父親が上司に伝え、上司が子育て支援課長に相談に行ったという。通常、一般市民は窓口を訪れて相談する。母親はその後、亡くなった。

元課員は訴訟で、補助金の返還を園に求めるよう、市長に請求している。18日、元課員と市の双方が記者会見した。

元課員はかつて入園審査を担当し、入園できなかった親に泣かれたり、怒鳴られたりした経験もあるという。「今回と同じように母親が重篤な病気の状況で、父親に入園を待ってもらったことがある。同じような方がいるなかで、市職員だけを優遇するのは非常に恣意(しい)的だ」と訴えた。

一方で市は、一連の判断は「緊急性・必要性を鑑みて『緊急入所』という処置をとったもの」とし、園に対する課長の行動も「特別扱いしたものではない」としている。裁判では訴えの却下を求めている。

https://www.asahi.com/articles/ASL1J4K3KL1JULZU00J.html

細かい経緯は週刊朝日(2018年1月26日号)に掲載されています。

待機児童問題で多摩市が職員の子ども優遇で裁判沙汰

待機児童の増加が社会問題化して久しいが、東京都多摩市の職員の子どもが“優遇”されて保育園に入所した疑いが浮上している。

2014年12月、児童の入所選考や保育園への補助金交付を担当する「子育て支援課」の課長(当時)が働きかけ、同僚職員の0歳児を、第1希望の認可保育園に押し込んだという。

この問題を告発した元同課職員のA氏が語る。

「同僚職員の妻が重篤な病気になり、同情したのがきっかけだと思います。しかし、正規の手続きを踏まずに課長がトップダウンで決めてしまったのです」

課長は認可保育園の園長に直接電話で入所を要請した。しかし、定員の空きがなかった園側はいったん断った。というのも、多摩市の補助金である「0歳児加算額」の交付が受けられる要件として、保育園は「0歳児1人につき、5平方メートル以上」のスペースがなければならない。新たに0歳児を受け入れれば、この“面積基準”を下回ってしまうからだ。制度は厳格に運用されてきたようで、市の内部文書には<過去に虐待等で緊急入所させた児童も、面積基準を満たさないのに入所させた前例はない>とある。

しかし、課長は園に0歳児の受け入れを了承させ、正式入所させてしまう。

第2希望以下の保育園であれば、空きのあるところもあったという。

「第1希望の園には兄が入所していたからですが、多くの市民が兄弟が別々になっても我慢している」(A氏)

“面積基準”を満たさなくなったが、保育園には補助金の支払いが続けられた。A氏は公益通報を行ったが、是正措置は取られなかった。それどころか、阿部裕行市長は“面積基準”を「5平方メートル以上」から「おおむね5平方メートル以上」と変更してしまう。しかも、多摩市が制度を制定した08年4月まで遡って適用した。市は課長を戒告処分にしたが、問題の幕引きを図ったのは明らかだ。

A氏は昨年10月、補助金計456万円が違法に支出されたとして、阿部市長に対する住民訴訟を東京地裁に提起。代理人の加藤博太郎弁護士が説明する。

「本質的な問題は、子どもが不平等に扱われ、公平原則が破られていること。市民感覚から乖離している」

多摩市に見解を求めるとこう回答した。

「市の職員だから特別な配慮をしたわけではありません。一般のお子さんでも今回のようなケースであれば緊急入所の手続きを取りました」(総務部)

保育研究所所長の村山祐一氏はこう指摘する。

「どんな事情があるにせよ、課長が直接、保育園に電話したのは問題です。役所は市民感情にもっと神経を使うべきです」

https://dot.asahi.com/wa/2018011500060.html

市職員といえども人の子です。妻の急病という緊急事態により、急いで保育所への入所を申し込んだのでしょう。正規の窓口ではなく責任者である課長へ直訴したのは、心情として頷けないものではありません。

多摩市の保育実施基準(案)には、「上記以外で、明らかに保育が必要と認められた場合」には5~25点を加点する項目が設けられています。

こうした例外項目を利用して入所を申し込む事自体は、咎められる物ではありません。本件は、適正な内容・手続を経て、緊急入所が認められたのでしょうか。それとも「市職員だから」という理由で特別扱いし、入所が認められたのでしょうか。

重要なのは、第1希望(きょうだいが入所している)の保育園長が「定員の空きがない」という理由で一旦は断ったという点です。

緊急入所といえども、保育士の配置数・保育室の面積等の基準は守られなければならないでしょう。また、多摩市が交付する「0歳児加算額」を受給する為には「0歳児1人につき、5平方メートル以上」が必要であり、事実上、面積基準として扱われているでしょう。

保育園長は「いくら子育て支援課長の要望とは言え、定員を上回ってしまう。更に支給要件から外れてしまう。」と認識していたとうかがえます。

子育て支援課長が第1希望の保育園を諦め、第2希望の保育園への入園を決定すれば大きな問題とはなりませんでした。しかし、課長は第1希望の保育園へ無理矢理押し込みました。

無理矢理入所させたという事実は、恐らくは保育園内でも噂になっていたでしょう。0歳児クラスは入所希望者が多く、特に秋になると前年度後半に生まれてきょうだいが在園している児童が空きを待っています。

しかし、大勢の待機児童の列を越え、空きが無いのに新たな児童が入所したら、待っている保護者は不信感を抱きます。園長を問いただした保護者もいるでしょう。

また、子育て支援課長からの強い要望に苦慮する園長の姿を、主任保育士やその他の職員が目撃しているでしょう。誰かの口から保護者へ漏れてしまった可能性も否定できません。

果たして一般の児童であっても、妻が末期ガンであれば、定員枠や面積要件を飛び越えてでも第1希望の保育園へ入所させてくれるのでしょうか。

なお、多摩市議会に出席した子育て支援課長は下記の通りです。参考として記します。

日付出来事課長名
2014年9月24日予算決算特別委員会古川美賀
2014年11-12月園長に電話、入園決定
2014年12月8日第4回定例会古川美賀

古川氏は子育て支援課長を務めた後、現在は健康福祉部高齢者支援課長を務めているそうです。福祉畑の方ですね。

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(2/17追記)
「現在は健康福祉部生活福祉課長を務めているようです」との旨をお寄せ頂きました。ありがとうございます。