保育施設をどこまで整備するか、悩んでいる自治体が多いそうです。

正確な需要予測は難しいかもしれませんが、都市部を中心に保育所等が著しく不足しているのは間違いありません。需要ピークを予想する前に、現在の整備が需要に全く見合っていないのを認識するべきでしょう。

保育施設、どこまで増やす 自治体の子育て支援 少子化と就労希望増、需要予測難しく
2016/12/5付

待機児童対策は急務だが、自治体が今後の保育需要の予測に難しさを感じていることがわかった。少子化が進む一方、就労を希望する親が増加することなどが要因。財源が限られるなか、保育施設をどこまで増やすのか難しい判断を迫られている。
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「マンション開発で若い夫婦の転入が増えていたが、出生数は減りつつある。保育所を新設すると将来の重荷になりかねない」と語るのは東京都東大和市の尾崎保夫市長。需要増には既存施設の増床などで対応する考えだ。ただ、足元で利用希望者は想定を上回り、国が目標とする2017年度末の待機児童ゼロ達成は難しいとみている。

将来の少子化は明らかなのに、需要が増大することに自治体は困惑している。今後の保育需要のピークを聞いたところ、17年度が20%と最多だったが、19年度以降とする回答も計24%あり、想定を見直す動きもある。

北九州市は来年4月までに認可保育所2カ所、小規模保育所9カ所を整備する。未就学児はここ10年間減少し、11年4月からは待機児童ゼロ。それでも保育所を作り続けているのは、希望者が想定外のペースで増え続けているためだ。

「理由は詳しくは分析できていないが、子どもを預けて働きたい人が増えている実感がある」とし、15年度がピークと想定していた保育需要に関する調査を今、やり直しているところだ。

東京都品川区は17年度末に待機児童ゼロの達成が難しい理由を「保育所を整備することで、さらなる保育需要を喚起するため」と説明する。未就学児は10年前と比べて4割増。当初、保育需要は19年度をピークに減っていくと予想していたが、「ピークはもう少し後になりそう」(浜野健区長)とみている。

千葉県浦安市も保育所を増設することで隣接地域からの住民の流入や、子どもを預けて働き始めるといった新たな保育需要を掘り起こすと指摘。「需要の正確な把握は難しい」としている。

現在、子育てに追われる40歳すぎの女性は、その前後の世代に比べると人口が比較的多い。一方、20歳前後の女性人口はそれより4割少なく、今後、未就学児が減ることはあきらかだ。

調査で今後の認可保育所増設に対する考え方を聞いたところ、「ニーズに合わせて増設」という積極派は2割強。8割近くは「他の手法も検討」「増設は抑制」などを選択し、理由として半数が「未就学児の減少が予想される」を挙げた。(以下省略)

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO10226040S6A201C1ML0000/

地域毎の保育所等の整備を進めるに当たり、重要な要素は下記の項目でしょう。

1.出生数

毎年、生まれてくる子供の数です。1973年は約209万人が生まれました(第2次ベビーブームの最盛期)。しかし、ここ数年は100万人を僅かに上回る程度にまで減少しています。40年間で出生数が半減しています(少子化対策白書より)。

出生率が劇的に上向く兆候はありません。更に第2次ベビーブーム世代が出産適齢期を過ぎてしまい、親となる人口が急激に減少していきます。分母・出生率、共に回復する兆しはなく、出生数は良くて横ばい、むしろ減少していく可能性が濃厚でしょう。

2.地域毎の未就学児数

先に取り上げた出生数は日本全体での話です。保育所等の整備を行うにあたってより重要なのは、当該地域・自治体に住む未就学児数(特に0歳児)でしょう。大阪市の場合、未就学児(就学前児童)は大正区の2,684人から平野区の9,308人(平成28年3月31日時点)と幅があります。

更に未就学児が増加している一部の区と、減少している大半の区に区分されます。激しく増加しているのは浪速区(約7%増)・西区(約6%増)・中央区(約5%増)です。反対に西成区・東淀川区・大正区等は約5%も減少しています。

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地域毎で出生率に大きな違い・変動が生じているとは考えにくいです。出産・子育てを予定している世帯の転入・転出数が影響しているのでしょう。

3.保育所等の整備率

地域に居住する未就学児数に対し、保育所等をどれだけ整備すれば良いのでしょうか。前提となるのは、既に整備されている保育所等の数・定員数です。

ただ、まとまったデータが公開されていないので、便宜的に保育所等に在籍している児童数が定員に等しいと見做します。区毎の未就学児数を分母、在籍児童数を分子とする事により、区毎の整備率を算出しています。

2に記載した表によると、大阪市では区によって整備率に大きな違いがあります。最も整備率が高い西成区(54.9%)から低い中央区(24.9%)まで、おおよそ倍程度の違いが発生しています。

各区毎の入所倍率・入所者点数等を見る限り、現時点では整備率が約50%程度に達した段階でほぼ全ての児童が入所できています。

しかし、入所を希望する児童の割合は、市内中心部を中心に今後も上昇する可能性が高いでしょう。

利便性が高い市内中心部は地価も高く、共働きでなければ住居を購入するのは容易ではありません。郵便受けに投函されるマンション勧誘チラシを見る度に、「こんな値段、1人で働いていたら到底買えないなあ」と感じてしまいます。

また、高等教育を受けている女性の割合が上昇しているのも見逃せません。男女共同参画白書によると、平成27年度における女性の大学進学率は47.4%に達しました。平成元年は約17%であり、ここ30年間で3倍弱に伸びています。

高等教育を受けた女性が増加するに従い、結婚・出産後も家庭外で働く割合が増えるのは当然でしょう。高度な教育を受けた成果を外部で発揮したいと考えるのは自然です。産休・育休制度や雇用機会均等法の整備が後押ししています。

都市部では保育所等が全く足りない、今後は更に足りない

これらから、日本全体の出生数は今後も減少する・都市部を中心に未就学児数は増加する(それ以外の地域は減少)・保育を必要とする世帯の割合が増加する(特に高等教育を受けた女性が都市部で顕著)という推測が導かれるでしょう。

であれば、今後も都市部やその周辺部では保育所等の整備を進める必要性が高いでしょう。特に大阪市西区・中央区といった大都市の中心部は保育所等の整備が遅れている状況で未就学児数が急増しています。現在の倍の規模で施設整備を行っても、保育需要に追いつかない可能性すら感じられます。

日経新聞には「未就学児の減少が予想されるから、増設は消極的」という回答が多くを占めたと記載されています。大阪市の外縁部等、多くの地域はその通りでしょう。

しかし、タワーマンション等が次々と建設される都市部では異なります。現時点で保育所等は大きく不足しています。仮に未就学児が減少するとしても、保育所等の不足感は何十年間と続くでしょう。

課題は財源と場所です。更なる税投入が求められる一方、都市部に住むだけの高所得がある世帯には、保育料等をもう少し負担してもらうのは一手段でしょう。特に都市部での保育所等の整備費用が逓増しているのは事実です。

しかし、保育所等の運営経費における保護者負担額(保育料)は僅かです。日経新聞では16%とされており、高所得層を中心に保育料を引き上げても大きな変化はないでしょう。引き上げだけで済む話ではありません。

また、急増しているタワーマンションは住環境が良く、小さな子供が過ごすのにも適しています。一定規模以上のマンションを建設する場合は、敷地内・近隣地で保育所が利用できる場所を確保するのが望まれます。小中学校・幼稚園等も含め、外部不経済の大きさが無視できません。

簡単には解決できない話です。