日本経済新聞の短期連載記事です。保育所急増の死角(上) 待機児童なお1万人 切り札の「小規模」不発保育所急増の死角(中) 人手不足、質低下、崩壊する認証保育所、保育格差の続きです。「保育所急増の死角」として、今回は煩雑な手続きを要する「認定こども園」と保育所新設に反対する住民運動について取り上げています。

保育所急増の死角(下)施設拡充、高まるハードル 煩雑な手続きや住民理解
2015/10/8付

東京都練馬区は9月、保育所並みに長時間子どもを預かる区内の私立幼稚園13園を「練馬こども園」に認定した。その一つ、白ふじ幼稚園の尾崎誠一教務主任は「区からの補助金で、長時間保育に対応する正規職員を雇えた」と区が導入した独自の新制度を歓迎する。

 幼稚園は3歳から子どもを預かるのが一般的だ。保育所とは異なり、午後は早い時間で終わり長期の夏休みもあるため、共働き世帯には利用しにくい面がある。これに対し、保護者の要望を受けて夕方まで子どもを預かる幼稚園も増えている。練馬区はここに着目した。夏休みは1週間までとし、保護者と運営者の双方に配慮した。

 実は国も同様の仕組みを後押ししている。子ども・子育て支援新制度の導入に併せて、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「認定こども園」の普及を狙っている。

(以下要旨)
・情報不足、事務量の多さ等を理由として、都内の認定こども園だった幼稚園の4割が認定を返上した。
・騒音問題、住宅街に落ち着きが無くなる、土地の資産価値の低下への懸念等による反対が相次いでいる。
・防音壁の設置、遊ぶ時間や人数を制限し、騒音に配慮する保育所もある。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92574610X01C15A0L83000/

待機児童対策として、認定こども園の導入や保育所の新設が進められています。しかし、思う様に進んでいないのが現実です。

一つには認定こども園に関係する制度や事務の複雑さが挙げられます。幼稚園と保育所の機能を併せ持つ反面、関係する制度や必要な事務量は幼稚園と保育所を併せた量に匹敵します。また、認定こども園に移行した場合には、従来より補助金が減少するのでは無いかと言った懸念もありました(後に補助金増額、という報道がありました)。すぐに新しい制度に移行しなくても、移行したけど従来型の幼稚園に戻りたい、という考えは理解できます。

保護者にとっても認定こども園は容易に理解できない制度でしょう。一つの施設の中に幼稚園と保育所があり、3-5歳児といえども教育と保育が併存します。一口に認定こども園と言っても、幼保連携型・幼稚園型・保育所型といった様々な類型があります。小さな子供の育児を行いながら新しい制度へ理解を深めるのは極めて難しいです。

制度面の問題は改善の余地があるとしても、より大きな懸念は保育所新設に反対する動きが強まりつつある点です。待機児童問題が深刻なのは主に都市部であり、保育所の新設も主に都市部で進められています。

ただ、記事で掲載されている反対理由が解せません。保育所の新設によって土地の資産価値は低下するのでしょうか、落ち着かない雰囲気となるのでしょうか。反対する為の理由としか受け取れません。こうした点から、子供や子育て世帯に対する風当たりの冷たさを感じてしまいます。

一方、保育所側にも対策が求められます。園児が遊ぶ時間や人数を制限するのはやりすぎとしても、防音壁等の設置による騒音対策は必要でしょう。二重窓や透明の防音壁は一案です。


http://www.lixil.co.jp/lineup/window/inplus/feature/feature04.htm


http://www.sekisuijushi.co.jp/products/road_environment/product/clear/clear_large_alumi.html

騒音対策に関連する経費には、行政も積極的に補助金を投じるべきでしょう。
騒音トラブルについては徐々に研究が進められており、例えば八戸工業大学の橋本先生は研究や事例分析を行っています。

保育所と住民の理解が進まないままに開設されると、クレームや訴訟という形で問題が顕在化してしまいます。
「保育園の声がうるさい」として、神戸市内にある保育所の運営法人を相手取った訴えが起こされています(詳細はこちら)。
なお、原告側代理人のブログによると、上記騒音訴訟は未だ続いているそうです。

少子化の最も大きな理由は若年層の経済問題と子育て費用だと考えていますが、保育所不足とも無関係では無いでしょう。働き口や利便性を求めて都心に集まる若年層・子育て世帯が増えています。そうした世代の税収によって支えられている都市部の自治体は、保育所の新設や教育環境の充実という形で還元すべきでしょう。様々な統計を見ていると、自治体毎の考え方の違いが透けて見えてきます。