ポートアイランド(神戸市)にある事業所内保育施設で混乱が生じ、全園児が転所、全保育士が退職しました。年度末での事業縮小に伴う園児転所や保育士の賃金カットを要請した為です。事前に神戸市へ相談した形跡はありません。
問題が起きたのは、2023年4月に市内の医療法人が開設した「しまのこ保育園」。市によると、事業所内保育園で、24年12月時点で園児の定員12人に対し0~2歳児11人が通っていた。
元園児の保護者によると、今年1月、法人から電話で「経営が苦しく、3月末で事業を縮小したい」「近くの施設に優先的に転園できるので検討してほしい」という趣旨の連絡があった。認可保育施設の入園や転園の調整は自治体に権限があるため、保護者からの問い合わせを受けた市が法人を指導した。
3月下旬、法人は保護者説明会を開いて謝罪し「通っている園児が卒園するまでは続ける」との方針を表明。その一方で、6人いた保育士に賃金カットを提案したところ、全員が4月末で退職したという。
法人や市によると、在籍していた園児のうち3人が3月で卒園し、さらに7人が4月末までに退園。残った1人のために新たに保育士を採用して運営を続けたが、この1人も5月末で園を離れたという。
法人の理事長は、取材に対し「子育てに悩む人の力になりたいと2年間頑張ってきたが、人件費などで法人の経営に影響するほど赤字が膨らんでしまった。本業の医療が続けられなくなる恐れがあり、事業の縮小を検討せざるを得なかった」と釈明。保護者に転園を促したことについては「制度に対する認識が欠けていた」と述べた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a3e00d802637d63aecd4a3eabbe00cf281c7265e
保育施設と言えども民間施設です。経営環境等の変化により、時には閉園せざるを得ない事態も起こり得ます。できれば1年前、少なくとも在籍園児が年度始まりの一斉入所に合わせて転所できる半年前には閉園する旨を保護者へ伝えるべきでした。
しまのこ保育園は「医療法人さんと会 わしおこども医院」が2023年4月に開設した保育施設です。同医院に併設されており、更には病児保育も併設されています。
同園は神戸市の埋め立て地たるポートアイランド内にあります。ポートライナーみなとじま駅より徒歩5分、ここから三ノ宮や神戸空港へ移動できます。
同園は主として従業員の子供を保育する「事業所内保育園」です。一部を地域住民の子供を保育する「地域枠」としています。
神戸市の空き情報によると、同園は従業員枠3人・地域枠9人の定員12人とされています。事業所内保育園としては一般的な規模です。昨年末の時点で定員をほぼ充足する11人が在園していました。
しかしながら、今年1月に神戸市へ「経営が苦しい、3月末で縮小したい。」という連絡があったそうです。開設してから未だ2年弱、しかも定員もほぼ充足しています。
理事長は「人件費等で赤字が膨らんだ、本業の医療を続けられなくなる恐れがある。」と弁解していますが、人件費等は開設に先立つシミュレーションで試算できた筈です。銀行からの融資を受けるのであれば、損益や資金繰りを記した経営計画表の作成・提出を求められるでしょう。
こうした試算やプロセスを省いたのであれば、「保育施設の運営を甘く見た」としか言えません。
本当に経営が苦しくて保育施設を閉鎖したいのであれば、在籍している園児が平穏無事に転所できる様に取りはからうのが当然です。
神戸市の保育施設一斉募集は毎年10月から11月にかけて募集が行われます。遅くとも昨年9月や10月に年度末で縮小等を行いたい旨を神戸市や保護者へ連絡できていれば、円滑に転所できたでしょう。判断が遅すぎます。
しかしながら更に迷走します。3月下旬に保護者へ「卒園までは継続する。自主的に転所して欲しい。」と説明すると共に、保育士には「賃金をカットする。」と通告します。運営継続と賃金カットは真逆の方針です。案の定、園児も保育士も急速に離れていきました。
神戸市も不満を零しています。市担当者が事態を把握したのは、運営法人から説明を受けた保護者からの問い合わせによるものでした。保護者へ連絡する前に神戸市と何らかの調整等を行った様子がうかがえません。
開設を認めた神戸市の判断にも疑義が持たれます。わずか2年で閉園する保育施設の開設を認めた過程は検証されなければなりません。「書類を受け取っただけ」ではありません。
ただ、全国各地で少子化が進み、定員を大きく下回る保育施設が急増しているのは事実です。数多くの保育施設が閉園するのは避けられません。