5歳男児重傷で保育園「春日野園」理事長・園長に改善勧告 京都市の続きです。

保育所用務員(理事長・園長の親族/非保育士)による5歳男児放り投げ事件を受け、京都市が保育所「春日野園」に対して特別監査を実施し、その他の問題も踏まえて児童福祉法に基づく「改善勧告」を行いました。

同園に対する調査報告書(特別監査実施結果)は京都市のHPに掲載されています。

京都市認可保育所『春日野園』に対する調査報告書
・概要版
・本冊

http://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000170416.html

あまりに酷い内容に愕然としました。
どう酷いのか、調査報告書を追っていきます(以下、ページ数は調査報告書(本冊)を示します)。
この調査報告書は極めて上手くまとまっています。
民事訴訟に手慣れた弁護士が作成した訴状に見えます。

1.5歳児放り投げ事件

本事件につき、特別監査実施によって明らかになった事柄が多数あります。

(1)頭蓋骨陥没骨折の原因となったのはカラーボックスか(P6-7)
当初報道では「頭部が太鼓にあたって骨折した」とありましたが、実際には40センチ四方で重量感があり、角張っているカラーボックス(遊具の一種?)に当たった様子です。
報告書でも『カラーボックスは安定感のある形状であり,その辺や角と,当該児の頭がい骨陥没骨折の形状から,カラーボックスに頭が相当程度の勢いで当たったものとも考えられるが,何に当たって骨折したかの特定は困難である。』と示唆しています。
そもそもこの様に角張った遊具らしき物を保育所に設置しているのが不思議です。

(2)投げ出した用務員は自身の放り投げ行為による受傷と認識していなかった(P8)
用務員は当該児童の異変を「怒られたショックによるもの」と認識しており、ケガ人に対する特段の対応を行っていませんでした。
異変に気付いた他の保育士から指摘され、ようやく児童の様子を見に行き、武田病院へ搬送しました。

(3)本事件後に京都市へ監査指導の日程変更を依頼したが、単に「放り投げ」「頭蓋骨骨折」と伝えなかった。(P12)
事件翌週に京都市による監査指導が行われる予定でしたが、主治医からの説明に園長が同席する必要があるので、園長が日程変更を依頼しています。
その際に「大ケガ」とは伝えたものの、職員による放り投げ・頭蓋骨骨折とは伝えませんでした。
連絡用FAXを送る前に、園長は園児の異変に気付いた保育士から「『用務員が男児を放り投げた』と園児から聞いた」という話を聞いています。
京都市に連絡した時には既に放り投げを知っていました。

(4)事件発覚の端緒は「保護者」を名乗る匿名の通報(P13)
事件の4日後、京都市保育課へ「保護者」を名乗る匿名の通報がありました。
「体操教室の時間に,先生が,言うことを聞かなかった園児(5歳,年長児)に対して襟を掴み投げ飛ばし,投げ飛ばされた子は,大太鼓で頭を打ち付け,頭の骨を折ったと子どもから聞いた。園への指導をお願いする。もし何も変わらないようであれば,他の保護者と話し合って,警察へ通報することも考える。」という内容でした。
恐らくは園児の保護者の誰かでしょう。
子供から保育所で発生した事故を聞き、他の保護者と情報交換を行って保育所の対応を待ったものの、週が明けた月曜日になっても適切な説明や対応が為されなかった為に京都市に指導を依頼したと推測します。

(5)事件の重大性を認識できていなかった園長補佐(P15)
京都市が園長に(被害児童及び保護者へ)謝罪の意を伝えるべきと助言した所、親族たる園長補佐が「用務員は,十分に認めるところは認めているではないか。大体,今回のことで,他の保育士にも波紋が広がっていて,もう遠足さえしたくないと言っている。こんな小さなことでこんなに大事件になるなら,保育なんて怖くてできないとみんな言っている。」という旨を発言しました。
園児を放り投げて頭蓋骨陥没骨折を負わせた事件を「小さなこと」と認識しています。
また、第1回保護者説明会で「用務員は,当該児を両脇を抱えて外に置いた。」「そんなことで後頭部を打つのか疑問」と発言しています。

(6)事件発生から3週間後の第2回説明会で、保育所側はようやく事実関係を認めた(P16)
投げ出し行為と怪我との相当因果関係、当該園児を病院へ搬送するまで約3時間も放置した、保護者へ投げ出し行為を隠匿した事をようやく認めました。
保護者や京都市から相当強い突き上げや指導が行われたのでしょう。
一連の対応に不信感を抱いたのか、園児の保護者は警察への被害届の提出を検討しているそうです(業務上過失傷害でしょうか)。
保育園児といえども3-5歳児になると目撃した事件を正確かつ詳細に証言できます。
毎日の保育所での様子を子供が楽しく教えてくれています。

2.親族経営による社会福祉法人・保育所の「私物化」

(1)幹部職員は身内ばかり(P1)
保育所職員の内、園長・副園長・園長補佐・用務員2名(内1名が園児を放り投げた、他1名は理事長自身)が法人理事長と親族関係にありました。
保育所幹部職員の上から3人が理事長の親族であり、発言力は絶大な物があったでしょう。
他の保育士に思う所があっても怖くて発言できない状況が窺えます(離職率の異常の高さの一因でしょう、後述)。
また、放り投げた用務員も理事長や幹部職員の親族であり、何らかの問題があっても他の保育士は指摘しにくかったでしょう。
職員会議等でも用務員の発言力・影響力を持っていたそうです(P26)。
また、法人理事の多くも親族が占めています(P32)。

(2)虚偽の勤務実態・過剰な給与(P17)
用務員は小学生の子供の下校迎えの為に毎日13時頃には退勤しており、出勤予定表にもその旨が記載されていました。
しかしながら出勤簿には「9時-17時」と記載されており、京都市へ提出した出勤予定表には「午前中のみ勤務の記載」が消されていました。
他の職員も「午後からは姿を見ていない」と証言しています。

更に驚く事に、保育所は用務員へ給与全額を払い続けていました。
同族企業ではよくある話ですが、減税対象となる社会福祉法人であり、自治体から多額の補助を受ける保育所となれば話は別です。
しかも保育士資格を有していないにも関わらずクラス担任や主任業務を任せ、主任手当を支給していました。
羨ましいほどの好待遇です。
保育所幹部職員もさぞ好待遇なのでしょうか。
そのしわ寄せは他の保育士にのし掛かります。

(3)懲罰委員会の構成の見直し(P18)
京都市担当者の怒りが感じられる部分です。

懲罰委員会の構成について,7月8日は,客観性及び公平性を担保するため,外部の者も入った構成にすることが提案され,オブザーバー出席していた京都市及び監事も支持する中,決定した。しかし,7月13日に,同委員会が就業規則に基づくものであり,労使双方のみで構成すること及び労働者側にはA用務員を擁護する立場の者を入れる必要があることを,理事長が再度提案した。オブザーバー出席していた京都市及び監事は,客観性を担保するため,京都市を含む外部の者を入れるべき旨主張したが聞き入れず,理事会は理事長の再提案を議決した。

当初は外部の者を加えるべきとの京都市・監事の主張を受け入れたものの、後に外部の者を排除して代わりに用務員を擁護する立場の者を懲罰委員会に加える構成へと変更しました。

3.保育所の保育体制及び運営体制

(1)保育士の離職率の高さ(P24)
平成23年度及び24年度の2年連続で、常勤職員の約半数が退職しています。
他の職業と比較して保育士の離職率は高いと言われますが、これは異常な高さです。
京都市内で働く保育士の平均的な離職率は約12%であり、子供がお世話になっている保育所も似た数字です。
保育の継続性や経験の積み上げはなく、子供に掛かる負担も大きかったでしょう。
最大の原因は理事長一族による保育所の私物化と杜撰な運営にあるでしょう。

(2)保育士の不足(P24)
5歳児骨折事故続報&京都市の認可保育園、17園で保育士不足を指摘でも指摘しましたが、平成24年度・25年度で保育士の配置基準を満たしておらず、平成26年6月でも1名が不足していました。
保育所は労働集約的な側面が強く、十分なマンパワーと児童の安全は直結します。

(3)無資格者による保育の常態化(P24)
無資格者たる用務員が単独で体操教室に立ち会うどころか、幼児主任・乳児主任といった主要な業務を任されており、日常的に保育士としての業務を行っていました。
保育士としての資格が一定水準の知識を担保するものである以上、無資格者に子供の安全に対する責任者としての役割を委ねるのは言語道断です。
また、他の保育所でも無資格者を保育士の様に見せかけていないかが少し心配になりました。
自治体や保育所関係者は、一度、保育士免許の有無を再確認した方が良いかもしれません。
(余談ですが、教職免許更新制によって無免許者の存在が明らかになるという側面があるそうです)。
また、京都市に対し、同保育所は保育士業務を行わせながらも「用務員」「保育補助」と虚偽の報告を行っています。
(ここでも京都市の怒りが炸裂しています)。

(4)杜撰な労務管理
理事長親族たる用務員には過剰な給与が支払われていました。
同じく親族たる副園長や園長補佐には、時間外勤務手当の根拠となる時間外勤務命令簿が作成されなくとも同手当が支給されていました。
一方、その他の職員にはお泊まり保育・時間外勤務を行っても「ボランティア」という名目の下、手当の支給等が行われていませんでした。
親族には極めて甘く、一方で他の職員には極めて厳しい労務管理です。
離職率が高いのも当然です。

サービス残業が横行し、適切な職員配置が行われない企業に対し、最近は「ブラック企業」と指摘されます。
新しい言葉ができそうです。

(5)財務管理も杜撰(P28-P32)
出納関係も杜撰です。
園長や園長補佐が一度に数十万円・数十件の立替精算を行い、その中には保育所運営との関連性が疑われる領収書もありました。
領収書・レシートをかき集め、まとめて精算していたと窺われます。
なお、他の職員による立替払は、領収書を添付した書類を作成して支払を行っていました。

更に酷いのが不適切な経費支出です(流石は同族企業・・・)。
ここにも京都市の怒りが垣間見えます。
・経費の二重請求(8,460円)
・園長個人名義の携帯電話、タブレット端末使用料の全額請求(187,352円)
・誤出金(76,923円)
・保育所運営との関係が不明瞭な研修費(福岡市内・福知山市内・有馬温泉のホテル宿泊費、理事長が勤務していた大学での愛好会の懇親会費等)
・保育所運営との関係が不明瞭な会費(女子駅伝後援会費、青年会議所会費等)
・保育所運営との関係が不明瞭な飲食費(愛宕山のペンション・京料理・高級弁当・ホテルレストラン等)

(6)監査指摘事項への不十分な対応(P32)
京都市の指導監査によって度々指摘・指導されていましたが、多くの指摘事項が改善されていませんでした。
理事会で十分な審議が行われず、園長等に必要な指示が為されていませんでした。
一般的に許認可事業に対する行政からの指導事項には早急に対応するものですが(許認可取消が怖い)、同法人・保育所は対応せずに、更には事実と異なる報告を繰り返していました。

(7)閉鎖的な保育所運営と法人理事会の形骸化(P34)
調査報告書からそのまま引用します。

理事会は,当該園の保育士の離職率の高さ等,当該園の重要な課題を認識しておらず,園長及び園長補佐による不適切な労務管理及び経費支出を見過ごしてきた。また,理事長及び園長は,本市の指導監査の内容等,当該園の課題を理事会に詳しく報告してこなかった。
こうしたことから,隠ぺい体質で親族優遇の極めて閉鎖的な園運営,及び形骸化した理事会運営が浮かび上がる。
今後,園運営の改革を確実に実施していくためには,当該園の運営体制の見直しに加え,理事会運営の自浄が困難な場合にはその刷新が必要であると考える。

本事件の根本的な原因はここにあります。

法人・保育所自らが適切な処分及び運営体制の見直しを行わなければ、「認可取消し」等の行政処分もあり得るでしょう。
園児と保護者の為に保育所の存続を出来る限り模索するでしょうが、再びこうした事件が発生する危険性が潜在化している保育所の運営を許すわけにはいかない、という断固たる姿勢が感じられます。