同志社大学理系キャンパスもある京都府京田辺市で、公立保育所の保育士不足が深刻な状況に陥っているそうです。
市民困惑、保育士不足で一気に待機児童140人
京都府京田辺市立保育所(4園)が今年度に入って保育士不足に陥り、混乱が広がっている。
昨年度当初はゼロだった待機児童が140人(0~3歳児)に上り、全園で受け入れるはずだった0歳児保育は1園だけに。1年更新としている多くの臨時職員と再契約できず、その補充もできなかったことが主な原因。市は「保育士の雇用事情が変化し、確保がこれほど難しくなるのは想定できなかった」とするが、市民から困惑と憤りの声が上がっている。
市子育て支援課によると、昨年度当初と比べて1年契約の臨時職員が18人減ったことが影響し、4園の保育士は前年度比15人減の計96人(1日現在)。保育士1人が担当できる児童数は決まっており、「1997年の市制開始以降初めて」(同課)、年度当初に待機児童が生じる事態となった。2年前に施設を新築し、定員を増やした三山木保育所も0歳児クラスを休止。関係者は「保育士を確保できればすぐ再開できるのに」と漏らす。
市が「異変」に気付いたのは昨年12月。入園申込書を取りに来る保護者が多く、例年より早く保育士に再契約の意向を聞いたが、更新を希望したのは約半数だけ。新規募集にもほとんど応募がなかった。
今年に入り、民間3園を含む全7園への申し込み(進級も含む)が昨年度に比べて約100人増と希望者が例年を上回ることが判明。市は2月に正職員待遇(任期3年)の採用枠で募集したが、それでも十分な人数を確保できなかった。
保護者からは憤りの声が上がる。長女が入園できなかった会社員の女性(34)は育児休業の1年延長を余儀なくされたといい、「市は想定できたはず。職場復帰の計画も狂った」。ほかの待機児童の保護者とともに市に早期受け入れを求め、市議会への請願提出なども検討しているという。
市は緊急で正職員の保育士10人の募集を開始。これまで27歳以下だった年齢制限を35歳以下に緩和し、今月23日まで受け付ける。正職員待遇(任期3年)の保育士10人も23日まで募り、新たな採用者を6~7月に配属。待機児童を順次、解消していく方針だ。
保育士の資格を持っていても、待遇面や労働環境などの問題で勤務を希望しない人が増えており、全国的な課題となっている。市子育て支援課は「市内に子育て世代の住民が増えていることもあり、待機児童を生じさせてしまった」と説明。鞍掛孝・副市長は「若い人に住みやすいまちを目指してきたのに、多くの市民に迷惑をかけてしまい、残念だ。改善に全力を尽くす」としている。
また京田辺市で4月に保育所入所を希望しながら入れない待機児童が100人を超える可能性があることが6日、明らかになった。ここ数年は4月時点の待機児童数は0で、市は対応に苦慮している。
市子育て支援課によると、同市で入所が認められなかった0歳から5歳児は3月1日時点で計172人。保育士募集を進めているが、多くの待機児童が出る見込みという。
京田辺市には公立4保育所・私立3保育所(分園を含む)、合わせて7保育所があります。定員合計は1205人となっています。
同市では昨年は0人だった待機児童が、平成29年4月には140人(0-3歳児)に達してしまったそうです。入所できなかった全ての児童まで広げると、172人になります。
その原因として、記事では(1)入所申込者の増加、(2)公立保育所の保育士不足、を指摘しています。
入所申込者が昨年より100人増加
京田辺市は京都府南部にある自治体です。京都市・大阪市・奈良市へ通勤可能なベッドタウンです。この1年間で人口は約1,000人増加し、68,508人となりました(平成29年4月1日現在、総務室調べ)。
一方、年齢別人口を見る限り、保育を必要とする年代の人口はほぼ横ばいとなっています。平成28年4月1日時点での0-4歳児人口は3,950人でしたが、平成29年4月1日には4,025人となりました。
気になったのは0歳児人口です。平成28年4月は530人でしたが、平成29年4月には613人と増加しています。また、1歳児人口は601人となっています。この1年間の間、1歳児は71人の転入超だったと推測されます。
少なくともここ数年の間は、保育を必要とする年代の子どもの転入が多い傾向が続いています。
子育て世帯での保育所への申込率が上昇しているのは、全国的な傾向です。京田辺市も例外ではありません。
同市は「昨年は待機児童がゼロだった」としています。しかし、一定数の入所保留児童が生じていたのは間違いなさそうです。ここへ更に多くの申込者が加わった事で、「待機児童」というカテゴリへあふれ出してしまった印象を受けました。
待機児童ゼロという建前にとらわれ、保育所の増設・新設を積極的に進めていなかったのかもしれません。
待遇が良くない公立保育所の臨時職員
もう一つの原因として、「公立保育所で多くの臨時保育士(1年更新)と再契約できなかった」と指摘されています。公立4園で働く保育士は、平成28年度の111人から今年度は96人へと減少してしまったそうです。
同市では3月から何度も職員募集ウェブサイトを更新し、保育士の応募を呼びかけています。
・【急募】保育士(臨時職員) の募集について(3/11)
・【急募】多数の保育士さんを募集しています(3/15)
・【急募】平成29年度職員(平成29年7月1日以降採用)を行います(3/15)
・【急募】平成29年度任期付職員(保育士)採用試験(平成29年6月1日以降採用)を行います(3/15)
では、待遇はどうなっているのでしょうか。臨時職員の賃金は172,200円(フルタイム)とされています。
では、再契約できなかった臨時職員はどこへ行ってしまったのでしょうか。候補の一つは市内の他私立保育所です。
調べたところ、みみづく保育園の初任給(大卒)は176,800円(+賞与4カ月分)、また、松井ヶ丘保育園は195,000円+賞与4~5カ月分との事でした。
同じフルタイム勤務であれば、公立保育所の臨時職員よりも私立保育所での正職員の方が待遇は明らかに良さそうです。賞与分がそのまま増え、昇給も見込めるでしょう。市外の私立保育所へ移った方も多そうです。
また、パートタイム等で働く保育士にとって問題なのは、家庭と仕事のバランスでしょう。保育士の仕事は負荷が大きく、離職してしまう方が少なくありません。お世話になっている保育所でも、年度末に数人の方が退職して保育士から離れました。
更に公立保育所特有の事情として、勤務地が変わる可能性もあります。一定の希望は聞かれるでしょうが、勤務先を決定するのは自治体です。自宅から遠くて通いにくい保育所を指定される恐れもあります。
待遇面から見た場合、公立保育所の魅力は「正職員」に尽きます。安定した雇用環境・充実した福利厚生・長く続く昇給・多額の退職金等は、多くの私立保育所より極めて恵まれています。
急遽、同市も正職員として保育士の採用試験を行うそうです。とはいえ35歳以下・保育士と幼稚園教諭の両方の免許を要件としています。この時期にどれだけ申込みがあるのか、要求水準を満たす応募者を採用できるかは不透明です。
同様の事態は大阪市でも生じています。大阪市の公立保育所の臨時職員の対応は決して良くなく、数百人規模での縮小運営を余儀なくされています。
同じ様な状況にある自治体は他にも無数に存在しているのではないでしょうか。氷山の一角と見ています。