「待機児童問題」は参院選の争点の一つ

7月10日(日)は参議院選挙の投票日です。一つの争点として「待機児童問題」が挙げられています。保育所の新設・新たな子育て支援制度・保育士の賃上げ・保育の質等、話題は尽きません。

毎日新聞で、大阪市内の待機児童問題が取り上げられています。

毎月、インターネットで保育所の空きをチェックすることが習慣になっている。「0」「0」−−。空きは見つからない。

大阪市城東区に住む会社員、*****さん(31)は、生後9カ月の双子の長男と長女を育てている。育児休暇は来年3月に終わる。2人の保育所を見つけないといけないが、めどはついていない。

**さんに今、必要なのは、すぐに受け入れてくれる保育所だ。**さんの場合、何度か行政の窓口に相談に行ったが、来年4月の入所申し込みを勧められるだけだった。

子育てと仕事。両方にやりがいを感じている。働かなくては生活できないのに育児で働けない。**さんの言葉は切実だ。「とにかく保育所に入所できるようにしてほしい。このまま決まらなければ、大阪を離れることも考えないといけない」【黄在龍】

http://mainichi.jp/articles/20160705/ddl/k27/010/382000c より一部引用・匿名化

子育てと仕事を両立させるか子育てに専念するか、それは個人・家庭の選択です。しかし、子育てと仕事を両立させたいにも関わらず、肝心の保育所等へ入所できずに両立できないのは大きな損失です。

記事で取り上げられている方の場合、どうするのがベターでしょうか。

9月生まれの双子

上記記事から、(1)9月生まれの双子、(2)育児休業は来年3月(日付は不明)まで取得できる、(3)城東区在住、と読み取れます。

大阪市の保育所等は毎年10月に一斉募集、翌年4月に一斉入所が行われています。入所できるのは、原則として入所日に生後6ヶ月以上である乳幼児です(施設によって例外あり)。逆算すると、概ね前年の9月末までに産まれた乳幼児が対象となります。

記事で取り上げられている方は9月に出産したと推測されます。その為、今年4月の一斉入所へ応募する事は可能だったと考えられます。しかし、ハイリスクな双子の出産、出産後の慌ただしさ、単産児との成長の違い、6ヶ月での入所への懸念等から、入所申込を見送ったのではないでしょうか。

育児休業は来年3月まで

救いなのは育児休業が来年3月まで、つまり生後1年半まで取得できるという点です。通常の育児休業(満1歳の誕生日まで)に加え、保育所へ入所できないという特別な事情によって休業期間を半年延長するのでしょう。

これは法令通りの運用ですが、育児休業の取得や半年の延長を嫌がる会社が多いのが実情です。様々な制度を設けるのでは無く、まずは法律上の最低基準を企業に遵守させるべきです。

しかし、来年3月まで延長した場合、4月から保育所へ入所できるとしても、1ヶ月弱は間が空いてしまいます。また、勤務先からは早めの復職を要請されている雰囲気が感じられます。

城東区在住

城東区は大阪城の東側、主に大型マンションや住宅街が並んでいます。国道1号線もあり、交通の要所とも言えます。保育所への入所のしやすさという観点では、大阪市内で平均的な地域です。

駅に近い保育所や区役所以北の国道1号線沿いにある保育所には多くの入所希望が集まっています。一方、それ以外の地域にある保育所はやや落ち着いています。【H28保育所等一斉入所申込分析】(8)城東区にて詳しく記載しています。

双子の入所は難しい

今回のケースで難しいのは「双子」という点です。可能な限り「同じ保育所等への2人同時入所」が求められているからです。

2カ所保育は本当に大変です。きょうだいが複数の保育所に別れると、登降園・荷物の準備・連絡事項等、全てが二度手間となってしまいます。

7月1日時点での城東区保育所等空き状況では、2人以上の0歳児空きがある施設はありませんでした。過去のデータによると、4月1日時点で今福保育所0歳児が2人空いていましたが、翌月には1人となっていました。

選考点数は203点か

保育所入所に欠かせないのは「入所選考点数」です。世帯の様々な状況を点数化し、点数が高い児童から入所が内定する仕組みです。詳細は保育利用調整基準に掲載されています。

両親がフルタイム共働きであれば200点です。これに加え、双子が同時に申込をする場合は3点が加点されます。少なくとも203点にはなるでしょう。きょうだい加点(7点)・認可外保育施設加点(5-7点)に次ぎます。

加点が何らない世帯も多い中、203点は比較的高い部類となります。平成28年度一斉入所で城東区内の保育所等へ入所した849人中、201点以上あったのは246人(約3割)でした。

案(1):年度途中入所

一つの方法は「年度途中に空きが生じた保育所等へ入所する」ものです。しかし、0歳児の入所枠が同一施設で2人以上も生じるのは例外的でしょう。1カ所保育は極めて難しいです。

となると一時的な2カ所保育は避けられません。1人が保育所等へ、もう1人は別の保育所等か認可外保育施設へ入所し、同時に転所・入所申請する可能性が高いでしょう。

保育料も2人分がまるまる掛かってきます。所得によっては2人合わせて10万円を超えます。小さな内は保育所からの呼び出しや病院通いも多いです。保育所等を事実上選べないのも難点です。

案(2):来年4月に1歳児枠で入所する

区役所の窓口で案内された方法です。城東区内にある保育所等の殆どでは1歳児入所枠があります。平均倍率は1.37倍と決して低くありません。一部の保育所に第1希望が集中する一方、それ以外は落ち着いています。

3月までは育児休業が取得できるので、育児休業給付金もまるまる給付できるでしょう。保育所等の保育料は2人目は半額となるので、事実上1.5人分で済みます。保育料が高い1歳児なので、これは助かります。

保育所等を選べるのは大きな利点です。複数の施設を見学し、第1希望から順位を付けて申し込めます。選考点数が比較的高いので、希望する保育所に入所できる可能性は高いでしょう。いずれの保育所にも入所できないケースは想定しづらいです。

また、入所申込時に「双子は同じ施設を希望する」とする事も可能です。きょうだい同時入所の場合、担当者から確実に訊かれるでしょう。

難点は復職の遅れ、育児休業が切れた後の3月中の扱いです。勤務先と話し合い、了承や融通を利かせてもらうしかないかもしれません。

203点あれば、来年4月に入所できます

年度途中入所は厳しいが、来年4月の同時入所はほぼ可能という結論になりました。

来年4月を待つか、2カ所保育(&高額の保育料)を覚悟で年度途中入所するか、大阪を離れるかは個人の選択です。私だったら、区役所と同じく来年4月の入所を念頭に、保育所等の見学&勤務先との調整を行うでしょう。

年度途中入所、特に双子(きょうだい同時)は本当に難しいです。待機児童問題の解消は望ましいですが、こうしたケースにも対応する膨大な施設・保育士・公費が必要となります。

区役所・新聞社の対応は?

気になるのは区役所の回答内容です。来年4月の入所申込を勧めたのは妥当ですが、入所できる見込みまで伝えたのでしょうか。見込みが伝わっていたら、行動がより定まったのでは無いかと感じます。

これを「待機児童問題」として取り上げたセンスも気になります。年度途中・双子という極めて厳しい事例ではなく、4月一斉入所から漏れてしまった世帯(特に双子)を取り上げるべきでした。記事で取り上げた方が一斉入所で漏れたのであれば、それを記事に明記すべきです。

また、保育所等の設置問題を指摘するなら、公募しても西区等で全く決まらない事例を取り上げるべきです(詳細はこちら)。待機児童問題に敏感な世帯が多く、ニュースバリューも高いです。

朝日新聞や産経新聞さん、いかがですか?

(7/7追記)空き情報をチェックする前に申し込むのが大切

記事では「毎月、インターネットで保育所の空きをチェックすることが習慣になっている。」と書かれていました。

大阪市の保育所等空き情報は、各月の選考を終えた後の数字が掲載されています。その為、誰かが退所するのと同時に入所した場合、その表には掲載されません。

今すぐにでも保育所等へ入所したい方は、区役所で申込書を提出して内定連絡を待っています。0以外の数字が掲載されている欄は、誰も申込が無かった年齢・施設です。

決して疑うつもりはありませんが、記事に掲載されている方は本気で保育所を探しているのでしょうか。見つけたい気持ちと行動に乖離が、そして記事に違和感を覚えました。