大阪市廃止・特別区設置(いわゆる大阪都構想)住民投票は、11月1日が投票日です。


https://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu240/jumin/index.html


https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/42721.html

先週末に行われた共同通信の世論調査では、新淀川区と新天王寺区で反対が多数を占めました。

その一因だと指摘されているのは、この2区で本庁機能に従事する職員の多くが現大阪市役所本庁舎(中之島庁舎)で働くという、歪な働き方です。

 --淀川と天王寺の2区は本庁舎のスペースが足りなくて、職員全員は入りきらないって聞いたけど

 「両特別区の一部部署の職員は、スペースに余裕のある北区の中之島庁舎を『間借り』する。淀川区は全職員(約1130人)の約8割が、天王寺区では全職員(約1200人)の約5割が中之島庁舎で働く予定だ。中央区は区内のアジア太平洋トレードセンター(ATC)なども活用する」

 --分散させても、仕事は回るのかな?

 「各本庁舎には特別区長や議会、区長との密な連携が必要な政策企画部門などが置かれると決まっている。それ以外の、たとえば教育や子育て部門の職員が中之島庁舎で勤務することが想定される。具体的な配置は住民投票後に決まる」

 --災害が起きたときなどの対応に支障はない?

 「災害時に中心的な役割を果たす危機管理室は本庁舎に置かれる。ただ、避難所運営など実動部隊となる人員が分散するので、不安視する声は根強い。これに対し、松井一郎市長は4区それぞれに区長をトップとする災害対策本部ができるとして、『今よりきめ細かな災害対応が可能になる』と反論している」

 --特別区の新庁舎は将来的にも建てられないの?

 「当面は既存施設を活用するが、特別区長や区議会の判断で将来的に新庁舎を建設することは可能だ。その場合は特別区の設置後、最初の整備に限り、各特別区に配分される『特別交付金』を庁舎整備費用として活用することができる」

https://www.sankei.com/west/news/200926/wst2009260010-n1.html

こうした計画は第27回大都市制度協議会で話し合われました。

第27回 大都市制度(特別区設置)協議会について
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/page/0000483838.html

議論の結果、「再試算2(中之島庁舎のフル活用)」でまとまりました。

(今井会長)
庁舎整備経費については、前提条件等を精査して新たな庁舎建設を行わず、中之島庁舎をフル活用していくことでコストを抑える、抑制するというご意見。(中略)

特別区移行に際して庁舎をどう活用するかということの話であり、将来的な庁舎のあり方議論は選挙で選ばれた区長あるいは区議会が区民と話をしながら進めていくべきということで、その趣旨は協議会として示していくべきだというご意見もございましたが、こちらもおおむねそういったご意見が基本であったかというふうに思います。

詳しい資料が掲載されているので引用します。

新北区及び新中央区は、職員が執務するのに必要な面積を特別区内にある庁舎(各区役所・工営所・市税事務所・賃借中の民間ビル等)で充足できます。

ただ、各区役所に配置される本庁職員が多くなりそうです。

例えば政策企画や危機管理部門は特別区役所本庁舎、財務部門はB地域自治区庁舎(現B区役所)、教育委員会事務局はC地域自治区役所、建設部門やD地域自治区役所、という形で分散しそうです。

各部門が特別区内の各庁舎へ分散配置される見通しなので、戸惑いそうですね。

こうした問題が如実に表れるのが新淀川区と新天王寺区です。執務に必要な庁舎面積を区内で充足できません。

当初は新庁舎を建設または民間ビルを賃借する計画でした。しかし、費用削減の観点から、「執務面積が不足する特別区職員は、中之島庁舎(現大阪市役所本庁舎)で働く」という計画に切り替わりました(中之島庁舎のフル活用)。

新淀川区本庁職員の8割が中之島勤務?本庁舎で働くのは82人?!

新淀川区の本庁職員1,136人の内、本庁舎(現淀川区役所)で働くのはたった82人(他に区議会議員や地域保健や窓口サービスを担う地域自治区職員)だけだそうです。

残りの本庁職員の内、150人は各地域自治区役所(現区役所)や工営所等で、そして904人は中之島庁舎で働く計画となっています。

本庁舎で働く本庁職員は約7%に過ぎません。80%以上の職員は特別区外にある中之島庁舎で働きます。余りに歪な働き方です。

新天王寺区本庁職員も約半数が中之島勤務?

新天王寺区も同じです。本庁職員1,205人の内、本庁舎(現天王寺区役所、この推計では阿倍野区役所)で働くのは114人に過ぎません。

残りの480人は各地域自治区役所、そして611人は中之島庁舎で働くとされています。

両区とも本庁舎で働く本庁職員は10%以下、大半は特別区から離れた中之島庁舎で働く計画です。これで特別区の行政が滞りなく回るのでしょうか。

市民が何らかの行政手続を行う場合、殆どは区役所で済みます。私自身、何らかの手続の為に大阪市役所を訪れた事はありません。

しかし、自治体の各部局間では頻繁な連絡や打ち合わせが行われているでしょう。

隣の部屋で済むのか、それともWeb会議を利用するのか、電車で移動して打ち合わせを行うのかは行政効率に大きく関係します。

自治体外に庁舎がある自治体もある(離島)

これには法定協議会でも様々な指摘がありました。

(山田委員)
他都市で他の自治体の庁舎に部局が入ってるという、こういった事例というのはあるのか、わかってる範囲でちょっとお答えいただけますでしょうか。

(事務局職員)
通常、他の自治体に庁舎が置かれるというのはレアケースで、一部把握しているところでは、離島の自治体について、本島のほうに庁舎があるというようなケースはありますけども、普通のこういう都市部の自治体では、それはないだろうということでございます。

他の自治体に本庁舎が置かれている一例は、鹿児島県十島村役場があります。

十島村は日本へ返還された後も村内の中之島に役場を置いていたが、1956年には鹿児島市への船での移動に時間がかかることなどを理由として三島村と同様、村外の鹿児島市へ移転して現在に至っている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E5%B3%B6%E6%9D%91%E5%BD%B9%E5%A0%B4

同村内には多くの離島があり、離島間よりも離島鹿児島市間の方が交通利便性が良いとも聞きました。離島という特殊ケースですね。

無理なコスト削減

中之島庁舎をフル活用する最大の目的はコスト削減です。

しかし、不自然な形でコストを削減しようとした結果、「コストを抑制して中核市並みへ移行するのは無理ではないか」との指摘がありました。

(山中委員)
従来の案でさえ、各区の本庁機能、本庁職員を現在24区にある区役所に分散させると、たこ足になると、それだけでもそれが本当に中核市並みの姿かなというふうに思っていたところに、その上に合同庁舎にすると。たこ足であり合同庁舎であるということで、先ほどの名前の議論もありましたけれども、住民の皆さんにとっては何が何だかわからないという、そういう、もう、なにか支離滅裂な絵姿になってきてるというふうに思います。

うたい文句は中核市並みということですけれども、合同庁舎とまでなればもう本当に独立した自治体とさえ言えないのではないかというふうに思います。本当に近隣中核市並みの庁舎という体裁を整えようと思えば、これまでの議論でも何百億という、そういう初期コストがかかるという、そういう批判の中から出されたこれは案だと思いますけれども、結局、中核市並みにするということとコストを抑制するということが両立しないということが今回改めて明らかになったというふうに思います。

(松井委員)
他の自治体の庁舎に別の自治体が部局を構えてる例ないかと言われましたけど、今大阪府の咲洲庁舎に大阪市の部局入ってますから、他の自治体のところに部局入ってるわけですよ。(中略)

山中議員が言われてるのはもう昭和の時代の古い役所の形の話されてて、今の時代は、それを一番先頭で走ってるのが大阪府、大阪市ですよ。だから、どこの自治体が持ってるビルだから、そこはもうそこだけで使うんじゃなくて、それぞれの役所の中の部局が連絡を密にして機能強化して住民サービスを拡充できるのなら、そういうことにこだわる必要がないと。今それを実際にやってるのは大阪ですよと、こういうことです。

松井委員の主張は「大阪市の一部局(建設局等)がWTCにある」とするものです。ただ、建設局があるのは大阪市内です。かみ合わない反論です。

無理なコスト抑制が特別区の行政効率を阻害する恐れは高いです。事務所の分散設置はデメリットの方が多いのは当然です。

特別区長との打ち合わせや議会が開催される度に、多くの職員が中之島庁舎から特別区本庁舎へ移動するのでしょうか。それともWeb会議で済ませるのでしょうか。

ここは必要なコストを掛け、十分な特別区本庁舎を整備すべきだと考えています。これは都構想に必要なコストです。

分割後の特別区での議論に委ねるのは、重大な問題の先送りに過ぎません。正面から論じて欲しかったです。

災害対応への危惧

(川嶋委員)
例えば淀川を越えて、淀川区の職員が中之島庁舎にいてるという中で、淀川区でもし日中災害が起きたときに、淀川区の職員多くがこの中之島庁舎にいますけれども、淀川を渡って例えば災害対応に当たれるのか。

(松井委員)
特別区になると、そのときの災害対策本部長というのは選挙で選ばれた特別区長なんです。今の状態でいくと、大阪市内で災害があると市長が一人でそれ対応をするから中之島にいるんです。でも、特別区になると4人の特別区長が、災害対策の本部長がそのエリアに4人いるので、きめ細かい災害対応ができるということなんです。

各特別区毎の災害対策本部と、その手足となる職員の配属先は別の話です。

もしも津波や地震等で淀川に架かる橋が通行できなくなった場合、中之島本庁舎で執務する職員は宙に浮いてしまいます。新淀川区本庁舎(現淀川区役所)と此花区や港区との交通も遮断されてしまいます。

4つの災害対策本部を機能させるには、それぞれに十分な職員と指揮命令できる環境が必要です。分散配置を前提とした、中之島災害対策本部を立ち上げざるを得なくなるのではないでしょうか。

都構想には様々なメリットやデメリットがあります。但し、少なくとも特別区本庁舎で働くべき職員の大半が特別区外で働くのは異様な計画です。

中には「新天王寺区役所で働くが、住所は八尾市、勤務地は中之島庁舎」という職員も発生します。

現に大阪市職員の少なくない割合が大阪市外に在住しています。自治体職員がこれで良いのでしょうか。