大阪市廃止・特別区設置(いわゆる大阪都構想)住民投票は、11月1日が投票日です。


https://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu240/jumin/index.html

大阪市の松井市長の定例記者会見が行われました。

都構想に関する質問が集中しました。市長の考え方がよく現れているので、重要部分を引用します。

財政シミュレーション

大阪日日新聞:いや、今回お聞きしているのはそうじゃなくて、特別区になったとき裁量経費は減るんですか減らないんですか、義務的の割合が上がっちゃうんですかっていう質問をさせていただいたときに、上がらないとは言い切れないとおっしゃった。

松井:それは特別区長の裁量でどんどん新しい人を雇ったり、人は増えますからね、人件費は。そこは義務的経費増えます。収入が同じなら裁量経費は、それは減るということですけれども、今、僕らがやっているのは、これ、財政シミュレーションをした結果、赤字にならないんだから、十分今のサービスは守れるということです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba3951314d35a56c1c37d453d3f0607457a8eff?page=2

財政シミュレーションは焦点の一つになっていますね。賛成派・反対派、双方から激しい主張が繰り広げられています。

正直なところ、財政シミュレーションの正誤は分かりません。地方財政は非常に複雑です。

あくまで一般論となりますが、一つの自治体を4分割すると必要な経費は増大するでしょう。

これは財政シミュレーションに「特別区設置に伴う増員」という形で記載されています。

https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/cmsfiles/contents/0000511/511466/simulation.pdf#page=28

赤字にはならないのは当然の話です。問題は見合う効果が生じるかですね。

大阪消防庁

松井:これは大阪府が消防を担う【****(音飛び) 00:33:05】、近隣の各市町村の消防と連携が取りやすくなります。大阪府っていうのは府域全体の基礎自治体の広域連携、広域行政をこれまでもずっと担ってきたわけです。担ってきた。だから大阪市で連携をするよりは、大阪府が市内の一番強い消防組織をまずは担うことで、周りの市町村、全体と一体化になって消防組織を、大阪消防庁という、そういう組織に育てていきたいということです。(中略)

松井:何度も言うけど、大阪府が担ったら地域の安全が守れないの? と。そこ、もう反対派の皆さん、特別区の権限がなくなると言うけど、大阪府が消防を担ったら消防車が来なくなるの? 今、大阪府警って大阪府が担ってるけど、特別区には交番もなければパトカーもなければ警察署もないんかね。なんで大阪府が担うことで特別区の皆さんが不利益になるかよく分かりません。より強い消防力になったほうがいいんじゃないの?

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba3951314d35a56c1c37d453d3f0607457a8eff?page=3

大阪市消防局と母体として、大阪府域や西日本の広域防災を担う「大阪消防庁」を設置する考えは理解できます。

一方、それに要する期間の長さや、過渡期における大阪市内の防災に不安が残ります。

「大阪府消防広域化推進計画」では「おおむね10年後までに地域ブロック単位で広域化したい」とされています。

大阪府としての広域化の方向性は、

〇将来像
広域化による規模拡大の効果が働くことによって、消防力の強化につながる府内消防の一元化(1ブロック)を将来像とする。ただし、各自治体の合意を得ながら、段階的に進めていく。

〇おおむね10年後までに広域化すべき組合せ
地域の地理的・社会的状況や歴史的経過等や、消防本部間の連携や二次医療圏の整合性、消防団を含む地元の事情について配慮して設定した現行の8ブロックを基本とするが、気運が高まった地域や必要に応じてブロックを超える広域化へも柔軟に対応する。

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5010/00319699/keikakuR0205.pdf

なお、大阪消防庁は大阪市の廃止・特別区設置と切り離して設置する事も可能でしょう。

消防本部のブロック単位での統合、そして大阪府内の消防組織の一元化、少し時間が掛かりそうですね。

当面は大阪府に設置された大阪消防庁が大阪市域の消防を担います。

これまでは大阪市長→大阪市消防局(→大阪市内の消火活動等)という指揮系統でしたが、特別区設置後は大阪府知事→大阪消防庁(→大阪市内の消防活動等)となります。

大阪市内の消防組織は無くなりません。しかし、特別区と大阪消防庁は全く異なる組織となるので、細かな調整等は手間が掛かってしまいそうです。

たとえば学校が消防署へ特別な防災教育等を依頼する場合、これまでは同じ大阪市の中の話で済みました。

しかし、今後は特別区の中の話では済みません。特別区から大阪府への依頼が必要となりかねません。

広域化された大阪消防庁のメリット(=より強い消防力)が生じるまでは、大阪市民にメリットは無さそうです。

保健所

朝日放送テレビ:ちょっと保健所【のところ 00:37:00】にも書いてあるんですけども、保健所も特別区が設置されるときに4カ所できることになると思うんですけれども、あらためてどういったところが今よりも良くなるのかということを教えてください。

松井:それは各区に、例えばコロナ対応も各区の保健所ができるほうがマンパワーも増えるわけですよ。保健師さんも看護師さんも。そのほうが圧倒的に地域の住民の皆さんの健康被害を抑えれるんじゃないの? 分かりやすく。人が増えるんだから。看護師も保健師も。相談体制も強化されるんじゃないの? 当たり前の話です。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba3951314d35a56c1c37d453d3f0607457a8eff/comments

4特別区に分割せずとも、大阪市保健所の増員を図ればマンパワーは増やせます。

保健所の増強と特別区の設置は直接は関係しない話ではないでしょうか。

特別区間の連携(防災・保育所等の広域入所)

読売テレビ:2次避難の策定に携わっている区役所の職員ですとか、あと防災の専門家とかに聞くと、特別区に移行したあとは、やはり独立した自治体になってしまうので、そのまま引き継げないのではないか、計画がリセットされるんではないかというふうな不安視する声を実際に聞いているんですけれども、そういう指摘についてはどう思いますか。

松井:だからそれは特別区長が、うちはうちでと、もう一切周りとはなんら連携しませんと、そんな人、区長になりますか。もう何度も言うけど。みんな、あり得ない想像の形で、これが、こういうところが心配だ、リスクあるって。区長選挙で選ばれるけど、これは民主主義で、それは、民主主義はおかしい民主主義もあるとかなんか変なことを言う学者とかもいるけど、でも普通に、ごくごくスタンダード、普通に考えれば今の災害対応のガイドラインを一切引き継ぎませんなんていう区長が選ばれますかね。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4ba3951314d35a56c1c37d453d3f0607457a8eff/comments

この発言には、実は大阪都構想との深刻な矛盾が隠されています。

そもそも大阪都構想は、大阪府と大阪市の仲違い(いわゆる府市あわせ)を解消するのが一大目標です。

今は大阪府・大阪市は共に大阪維新の会に所属する政治家が首長に就任し、両者の円満な関係をもって協調して行政が行われています。

松井市長はしばしば「人間関係が無くとも、大阪府と大阪市の二重行政を避けるのが大阪都構想だ」との旨を主張しています。異なる主義主張の人間が当選する事態を想定しています。

しかし、昨日の記者会見での発言は「他特別区と連携しない政治家は区長に当選しない」とするものです。

異なる主義主張を行う政治家が当選する事によって権限が重複する事務が迷走する事態を避けたいのであれば、大阪都構想における協定書と同じ様に特別区間の連携事務を明文化して欲しかったです。

保育所も同じです。

読売テレビ:移行というのは、そもそも移行期間で全て決めてしまうのか、それとも特別区の区長同士で何か話し合いをした上で、合意があって移行するものなのか、どちらでしょう。

松井:基本的には移行期間に市長である僕がさまざまな連携の部分は決めていきます。例えば言っているように幼稚園の、要は区域外入園。これも連携協約を作って、保育園も同じです。そういうことができるようにしようと思っている。これ、よく調べたら大阪市は今でもできてんねん。東大阪市や八尾市と。境のところで。東大阪の保育園、幼稚園で空きがあれば、大阪市民を受け入れてもらってる。それで大阪市民、大阪市がその受け入れてもらう経費を払っている。教育費だとか。これは今もできてるんだから、もうまったく問題なくできると思います。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bb844b5d79f61317240ab9a9f325ebe81415f6f9

幼稚園や保育所等への入所に関する各特別区間の連携について、協定書には明記されていません。

松井市長は「東大阪市や八尾市と出来ているので、特別区間でも連携協約を作って出来るようにしようと思っている」と発言しています。

しかし、心配なのはそこではありません。「別特別区の保育所等への入所を希望しても減点されないか」という点です。

他自治体にある保育所等へ入所を希望する場合、一般的にはその自治体の住民の入所が優先されます。当然です。大阪市も同じです。

たとえば現福島区の住民(新北区)が現此花区(新淀川区)にある保育所等への入所を希望した場合、果たして新淀川区の住民と同じ基準で調整されるのでしょうか。

少なくとも当該特別区と別特別区の住民を同等に取り扱うという、制度的担保はありません(私見ですが、特別区移行後数年間に限って同等扱いになると見ています)。

大阪都構想の賛否を決めがたいのは、「特別区間の連携」が見えてこないのが一つの理由です。

松井市長は「特別区への以降前後に連携協定を結ぶ予定だ」としています。

読売テレビ:読売テレビの【オガワ 01:37:04】です。先ほどの都構想の防災関連なんですけれども、代表が今の避難行動計画などを引き継ぐと。という話を力強くおっしゃったので、いいなと思ったんですけれども、移行期間中に特別区同士で連携できるように想定するというのは、制度としてどういうふうに担保するのかなと思って、枠組みを逸脱するような変な区長がもし仮に出ないように担保できる仕組みとか制度ってあるんですか。

松井:これは連携協約とか、そういう形で特別区移行時に特別区長に大阪市長として引き継ぐということです。法律、特別区設置法の中に、特別区が出来上がるまでの間は、現市の市長がそれを代行してさまざまな事務を執り行うと、そういうふうに法的に書かれてますから、その法律の範囲内で市長としてそういう形をつくっていくということです。

読売テレビ:というと、特別区同士で移行前に協定を結ぶというイメージではなくて、移行したあとに特別区同士で協定を結ぶという。

松井:そこ、ちょっと事務的な作業については、テクニックのところは事務方に聞いてよ。あくまでも特別区、できるまでの話なんだから。僕がね、市長として。特別区できたあと、50日以内に選挙が行われて、特別区長と議員が誕生するわけですよ。その最初のときに僕が特別区の前の首長として、市長として、こういう契約を特別区同士やることを決めましたよと。あとは特別区がやっぱり1つの自治体なんだから、民主主義の中で引き継ぐか引き継がないか各区長の判断になります。

 でもさっきから言うように、そのような災害の連携協約とか、幼稚園の連携協約とか、引き継がないという人はないでしょと、常識で考えて。そういうことです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/1283ae80f2434861fab697cc3712ae5a59e3f264?page=3

移行時の連携協約の中身はやはり不透明です。

災害の連携協約は移行後も長期間に渡って引き継がれるでしょう。一方、幼稚園や保育所等の入園に関する連携協約の継続は不確かです。

やや点数が低い特別区在住者より、点数が高い別特別区在住者の方が優先して入所する事態に違和感を覚えるのは当然です。

特に特別区分割後に転入し、「元大阪市民」を経験しなかった新住民にとっては尚更です。「昔は同じ大阪市でも、今は違う自治体です」は正当な主張です。

南北問題

松井:いや、南北、だから当時言われたのはやっぱり年齢層で賛否が分かれてるということも言われてました。それはやっぱり高齢の方々に反対が多かったというのは、生活の不安からだと思います。これはもう、それは北と南のほうで年代層というのは少し差がありますけど、北にも高齢者の方がいらっしゃるし、南にも若い方はいらっしゃるんだから、場所によって大きく都構想の意味と意義を説明で変えることはありません。ただやっぱり、僕は高齢の方の多いところでは、それでデマの基になっている、例えば公営住宅の値段が上がるとか、そういうところではやっぱりデマを打ち消すための説明をふんだんに取り入れてやってます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bb844b5d79f61317240ab9a9f325ebe81415f6f9?page=3

5年前の住民投票では、地域や年齢で賛否が分かれました。


(よみうりテレビの報道番組より)

(NHKより)

なお「公営住宅が値上がりする」というのは、「特別区に分割されて財政難が深刻化する→公営住宅が値上がりする」というロジックでしょうか。

値上がりするかは分かりません。当面は現状維持ではないでしょうか。

ただ、特別区が大規模な公営住宅を維持し続けるのは容易ではないと見ています。中核市クラスでは突出してしまいます。

若者の流出

松井:やっぱり僕もビジネスやってきて、本当に大阪がどんどん東京に置いていかれる状況というのは、本当にじくじたる思いがあったし。一番はもう僕の子供や孫、次の世代。やっぱりもう、なんて言うかな、大阪で居てほしいというか、大阪でも真面目にやったら豊かになれるようにしたいと。もうそれだけですよ。そろそろみんな僕らの友達ももうおじいちゃん、おばあちゃんになってくるけど、東京の学校行って東京で就職したらもう帰ってけえへんと。今、家も嫁はんと2人やとかね。おやじの年代になったらもう高齢者2人で住んでる。そうなるよ、どんどん。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bb844b5d79f61317240ab9a9f325ebe81415f6f9?page=5

関西で生まれ育って若者が進学・就職を機に東京へ移住して帰ってこない現象は、もう何十年も続いているでしょう。

私の大学時代の友人知人(殆どが関西出身)も、殆ど全員が東京で就職しました。関西で行うよりも、東京で行う同窓会の方が圧倒的に多く集まります。

ネックは就職先ですね。関西系の企業は元気がない、もしくは生き残りを懸けて東京へ移転するケースが非常に多いです。

関西での就職を希望する若者が関西で就職できるよう、しっかりとした対策を望みたいです。

気になる方は、是非市長会見の全文を読んで下さい。住民投票の賛否、本当に難しいですね。