不思議な出来事が起きました。

運営会社の倒産に伴って東京都世田谷区にある認可外保育施設を閉鎖しようとしたところ、預け先を失う保護者と子供達の為に保育士が「自主運営」を始めました。

世田谷の保育施設が突然閉鎖 保育士、無給で自主運営

2019年12月4日 朝刊

 東京都世田谷区内の認可外保育施設で運営会社が先月末、突然閉鎖を通告し、施設に通う子どもと預け先を失う親たちのために、保育士たちが二日から自主運営を始めた。十三日まで続ける予定で、保育士たちが加入する労働組合「総合サポートユニオン」(同区)は、保育士の人件費など当座に必要な資金を確保するため寄付を募っている。 (岩岡千景)

 同ユニオン支部の介護・保育ユニオン共同代表の三浦かおりさんによると、十一月二十九日夕方に運営会社の幹部が施設を訪問。保育士やその場にいた保護者らへ倒産手続きに入ることを理由に、同日での施設閉鎖を告げた。

 会社側は「お客様の皆様には、大変なご迷惑とご心配をお掛けすることとなり、弊社役員一同、深くお詫(わ)び申し上げます」などと記された書面を持参したが、保育士や保護者への事前説明はなかったという。

 通告を受けて保育士らが話し合い、週明け二日から自主運営をすることにした。

 この施設では以前から保育士不足、給料未払いや、段ボール箱など物がたくさん置かれた場所で乳児を寝かせるなど労働、保育環境に問題があった。このため、ユニオンが会社側に団体交渉を申し入れた直後の閉鎖通告だった。一日にあった保護者会では、急きょ自主運営について説明した。

 この保育施設は保育や遊びなどを目的に未就園児を預かり、定員は二十五人。自主運営は常時三~四人の保育士が子どもをみる態勢で二週間続ける。その後どうするかはめどが立っていないという。保育士は無給の勤務となるため、ユニオンが寄付を募っている。

 当面の目標額は、一カ月程度運営が可能な百万円とした。三浦さんは「子どもたちのために、もらえるはずの給料ももらえず働いている人たちに少しでも渡したい」と話している。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201912/CK2019120402000140.html

当初は施設名を伏せて報道されていましたが、徐々に噂話等が広がっていきました。ただ、マスコミ等の取材は「法的に問題ないがダメです」という理由で拒否していました。

 東京・三軒茶屋などで認可外保育施設「マム・クラブ」を経営していた(株)マム・クラブ(TSR企業コード: 300504888、世田谷区)が、事後処理を國安耕太弁護士(ノースブルー総合法律事務所)に一任した。11月末、Webニュースなどで法的手続きの検討に入ったことが報じられていた。

 マム・クラブは0歳から預けることのできる一時保育、プレスクールの位置付けで、乳幼児に英語教育や「リトミック」と呼ばれる音楽教育などを行っていた。三軒茶屋の本社以外にも、豪徳寺や尾山台(いずれも東京都)などで保育施設を運営していた。

 2014年頃にはテレビ番組でアイドルが保育体験する様子が放映されたこともあったが、最近は段階的に保育施設を閉鎖し、業容は縮小傾向にあった。

 12月2日、現地に行くと園の前には保護者やマスコミとみられる人たちが数組集まっていた。

 法的手続の検討を報じたWebニュースでは運営会社や園の名前は伏せられており、対応した関係者は「なぜここの名前がわかったのか」と訝しんだ。暗に渦中の保育施設であることを認めた格好だが、「写真や保護者へのインタビューは一切ご遠慮いただいています」と取材を頑なに拒否。「園の情報が外に漏れると、ただでさえ先行きを心配している保護者がお子さんを預けづらくなり、子どもにも影響が及ぶ可能性がある」と話した。

 人物の写らない建物の撮影や、本人の同意を得た上でのインタビューも一切認めない徹底ぶり。敷地外の道路上から建物撮影のためカメラを向けると、「法的に問題ないがダメです」との論理で何度も注意された。また、カメラを抱えた取材陣がマム・クラブ本社建物に近づこうとしたが、関係者らが繰り返し近づくことを制止していた。

 園の窓は全面スモークガラスで、外からは内部の様子は窺えない。玄関に人の出入りは何度もあったが、子どもの気配は感じられなかった。

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20191203_02.html

(株)マム・クラブは三軒茶屋・尾山台・豪徳寺・下北沢・長野県白馬村で保育施設を運営していましたが、経営難の為に徐々に縮小し、最終的には三軒茶屋のみとなっていました。

運営法人は同園を閉鎖しようとしましたが、同園で働く保育士が「自主運営」を打ち出しました。

「自主保育」とは何でしょうか。世田谷区のウェブサイトに紹介ページがありました。

「野外保育や豊富な生活体験を通じて、子ども一人ひとりの個性やよいところを存分に伸ばしたい」そんな願いから生まれたもう一つの保育の形です。身近な自然の中で、就学前のお子さんを子育て中の親同士が集まり、お子さんを交代で見守り合いながら、自分たちで子どもを育てていく活動です。

https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kodomo/007/002/d00162187.html

今回は保護者同士が集まって交代で見守るのではなく、保育士が自主的に集まって保育を行いました。

保育士が加入していた労働組合は自主保育を賞賛しています。

 保育士たちの力で、月曜日から「自主営業」することことがこうして決まった。保育所閉鎖問題が社会問題化する中で、「一斉退職」ではなく、「自主営業」を選択した極めて貴重な実例だと言うことができるだろう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20191201-00153211/

しかし、私は当初から「本当に大丈夫だろうか???」と疑問に感じていました。

大きな問題は「責任の所在」です。仮に保育事故が起きた場合、誰がどういった責任を取るのでしょうか。補償はどうするのでしょうか。

同園は以前から保育士不足や室内環境等に問題があると指摘されていました。朝日新聞が衝撃的な写真を掲載しています。

 「とんでもないところに預けてしまい、後悔している」。生後10カ月の長男を10月下旬以降、何度か一時保育に預けていたという区内在住の女性(35)は振り返る。11月30日に職員からの電話で突然の閉園を知ったという。(中略)

 だが、その認可外すら入りにくいのが現状だ。女性は20以上の認可外を見学したが、いずれも満員だった。「マム・クラブ」を訪れた際、資料が積み上がった棚など乱雑な室内を見て、「なんかやばそう」と思ったが、「ずっと探していた預け先を見つけられた喜びが大きく、見ないふりをしてしまった」。

 復職の面談や通院のために一時保育を利用した際、迎えに行くとおむつがおしっこでパンパンになっているなど違和感を抱くこともあった。人手不足を疑うこともあったが、職員の対応は丁寧で、月決めの枠が空き次第、申し込むつもりだった。「数カ月我慢すれば、春以降にいい保育園に入れる可能性があると、目をつむってしまった。職場は人員が減らされて育休の延長も歓迎されず、焦っていた」

 「事故が起きていたかもしれないと思うと、ゾッとする」。女性がこれまでに見学した保育施設は認可園も含めると50以上。女性は今も子どもの預け先を探している。

https://digital.asahi.com/articles/ASMDK4VWTMDKUTIL02P.html

この写真は閉鎖前の様子だそうです。子供の保育を行う環境ではありません。散らかり気味の我が家ですら、ここまで雑然とはしていません。

こうした状況は認可外保育施設への監督権限を有する東京都は把握していたでしょう。しかし、施設名の公表や事業停止処分等は行わず、運営は継続されていました。

この様な保育施設で自主保育を行うとは、言葉がありません。誰かが止めなかったのでしょうか。

問題がある保育施設でも園児が集まって運営され続けるのは、待機児童問題と切り離せません。

今年4月時点の世田谷区の待機児童数は470人でした(詳細はこちら)。そして、待機児童の数倍にも及ぶ入所保留児もおり、保育施設を探していると考えられます。

であれば、問題がある保育施設でも「ないよりはマシ」となります。また、自治体も「潰したら預け先がなくなる児童が生じる」と考えがちです。

同園の自主保育は12月14日頃に終了しました。

突如 倒産宣言の保育園、異例の自主運営も終了

 先月末、突如倒産を宣言し、保育士らが異例の「自主運営」を続けていた東京・世田谷区の認可外保育園が閉園しました。

 「保護者やお子様に迷惑、大変な思いをすると思うので、『やらなければ』という思いで(自主運営を)やった」(倒産した保育園の元従業員)

 東京・世田谷区で認可外保育園を運営していた「マム・クラブ」は先月29日、倒産を宣言しました。保育士らはその場で解雇を言い渡されたといいますが、突然行き場を失ったおよそ30人の園児とその家族のため、ボランティアで「自主運営」を続けてきました。しかし、先週末でその「自主運営」も終え、閉園したということです。

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3857424.html

大きな保育事故等が起こらなかったのは不幸中の幸いです。

今後は全国各地で数多くの認可外保育施設が閉園すると予想されています。保育無償化により、保護者の保育所志向が以前より高まっています。

突然の閉園で路頭に迷う事が無い様に、行政は早急に情報を把握すると共に、近隣他園を紹介・情報提供できる仕組みを構築すべきでしょう。