G20大阪サミットは昨日29日に無事閉幕しました。

期間中の大阪市内は本当に閑散としていました。首脳が宿泊しているホテルの近くを歩く機会があったのですが、人通りは普段より本当に少なく感じました。

まだ、交通規制は広範囲に渡って行われていました。ホテル周辺は自動車の行き来を完全に止め、歩行者も立ち止まらない様に誘導していました。

子供も無事に帰ってきました。「おじいちゃん、おばあちゃんともっと遊びたかった~」と呟きつつ、今は山の様な宿題に追われています。

さて、G20大阪サミットでの首脳夕食会における安倍首相のスピーチが物議を醸しています。子育て世代の必須アイテム、ベビーカーにも大きく影響する話です。

安倍首相の大阪城エレベーター設置はミス発言に批判
[2019年6月30日1時30分]

安倍晋三首相が、28日夜に開かれたG20大阪サミットでの首脳夕食会で、大阪城を復元した際にエレベーターを設置したことを「大きなミスを犯しました」と発言したことが、障がい者への配慮を欠いた発言だとして批判を広げている。

首相は、あいさつで各国首脳に大阪城について説明した際「150年前の明治維新の混乱で大阪城の大半は焼失しましたが、天守閣は約90年前、16世紀のものが忠実に復元された。しかし、1つだけ大きなミスを犯してしまいました」とした上で「エレベーターまで付けてしまいました」と述べた。

首相の発言に、各国首脳からは目立った反応は起きなかった。

この首相発言について、作家の乙武洋匡氏は29日、ツイッターで「朝からとっても悲しい気持ちになる」と、疑問を呈した。ネット上では「障がい者への配慮もそうですが、足元の悪い高齢者への配慮もない」「このスピーチだけは絶対容認できない」と、首相の発言に批判する声が拡大している。

一方で「ミスは、エレベーターを付けたことではなく、エレベーターと分かるように付けたことだと思う」と、首相の発言の意図を解説する書き込みもみられた。

7月4日公示、21日投開票の参院選では、障がいがある候補者も出馬を予定している。今回の首相発言が、選挙戦に影響を与えかねない可能性もある。

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201906290001155.html

あいさつ文はNHKニュースに掲載されています。冒頭から該当部分までを引用します(太線部は引用者が強調)。

夕食会での安倍首相あいさつ・全文

2019年6月28日 21時26分

改めて、ようこそ大阪にいらっしゃいました。

ここ大阪は、4世紀ごろに、仁徳天皇により都にさだめられ、その後、商業の街として発展してきました。大阪のシンボルである大阪城は、最初に16世紀に築城されました。石垣全体や車列が通った大手門は17世紀はじめのものです。

150年前の明治維新の混乱で、大阪城の大半は焼失しましたが、天守閣は今から約90年前に、16世紀のものが忠実に復元されました。

しかし、1つだけ、大きなミスを犯してしまいました。エレベーターまでつけてしまいました。

その大阪城を間近にのぞむこの場所で、さきほど、日本が誇る3名の演者が、皆さんのために心をこめて、それぞれ、舞い、演奏、そして歌を披露していただきました。(以下省略)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190628/k10011974041000.html

大阪城には2カ所にエレベーターが設置されています。1つは天守台の石垣、もう1つは天守閣内です。

https://osaka-castle.net/osakajo/osakajo-elevator.html

これらを使えば、1階から8階までエレベーターで移動できます。ベビーカーで利用することも可能です(混雑時は持ち込みを制限される事もある)。

ベビーカーの持込はできますか?
持ち込み可能です。ただし、混雑時には危険防止のため、持込制限を行う場合があります。
(改札にて無料でお預かりいたします。)

https://www.osakacastle.net/question

ただ、エレベーターは各階に止まらない仕組みだそうです。じっくり見学するには、抱っこ紐の方が適しているそうです。

ベビーカーがあると1Fから8Fまではエレベーターで行けても各階に止まることはできません。
2F~7Fまでの歴史資料を見たい方は抱っこ紐は持参される方が良いでしょう。

赤ちゃんや小さなお子さんを抱っこしたまま階段を上り下りするのは大変ですので、抱っこ紐で見学されている方が多くいらっしゃいました。

私は義母、義父と一緒に行っていたので、帰りはベビーカーを義母たちに任せて階段で降りていきながら歴史資料を見ることができました。

https://irotoridori.biz/osaka-castle#OK

首相は「大阪城を忠実に復元した」と発言していますが、そもそも鉄筋コンクリートによって復元されています。

「忠実に復元」とは言い難い構造です。安倍首相は大阪城天守閣を訪れ、中を見学した経験があったのでしょうか。

相次ぐ批判

発言に対して、障害者・障害支援者・城郭研究者等から批判が相次いでいます。

どちらにも捉えられる発言は問題

安倍首相の発言はどう捉えれば良いのでしょうか。

一つは「大阪城を忠実に復元すべきだったのに、エレベーターを付けたのは間違いだった」という趣旨です。

もう一つは「バリアフリーに対応すべく、敢えて忠実に復元せず(=ミス)にエレベーターを付けた」という趣旨です。

どちらの趣旨で発言をしたかは不明です(後者だと信じたいです)。

ただ、各国首脳を前にして全世界へ報じられるスピーチにて、どちらの趣旨とも考えられる様な言葉を用いたのは大失敗です(スピーチライターは首相秘書官の佐伯耕三氏?)。

更に、安倍首相はこの文脈をジョークの一種として発言しました。

エレベーターの主な利用者は身体障害者です。自虐ネタなら兎も角、第三者が障害・民族・宗教等やそれに関する内容をジョークで利用するのは不適当です。当事者団体や専門家等から厳しい声が出るのは当然です。

また、この中には、エレベーターを利用する機会が非常に多い、ベビーカー利用者も含まれます。

「ベビーカー利用者の利便性を無視してでも、忠実に復元すべきだった」という趣旨であれば、多くの子育て世帯を敵に回す発言でしょう。私自身もがっかりします。

真意はどちらだったのでしょうか。いずれにしても、このジョークは各国首脳に受けなかったそうです。身内に身体障害者がいたら、それこそブラックジョークに聞こえます。

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(追記)

安倍首相が「バリアフリーに異論は無い」「遺憾だ」と釈明しています。

 これに対し、首相は2日、自民党本部で萩生田氏と面会し、「460年前のものを日本の技術は再生できるとアピールしたかった」と説明。「(障害者や高齢者の)状況を軽視し、バリアフリー社会に異論を唱えるような発言ではない」と話したという。

 菅義偉官房長官も2日の閣議後会見で、「あいさつを読めば、まったく問題ない発言だ。大阪城の歴史的価値と復元の経緯に触れたものであり、批判されるような問題ではない」と述べた。

https://www.asahi.com/articles/ASM725GRTM72UTFK01B.html

安倍首相「バリアフリーに異論ない」=「エレベーター」発言釈明

 安倍晋三首相は2日、大阪城にエレベーターを設置したのは「大きなミス」と言及したことについて「日本は文化財などの復元にも大きな力を持っていることをアピールしたかった。バリアフリーの社会に異論を唱えるような発言ではない」と釈明した。自民党本部で首相と面会した萩生田光一幹事長代行が記者団に明らかにした。

 首相は「障害者やお年寄りに不自由があってもしょうがないと聞こえるかのような発言はちょっと遺憾だった」とも語ったという。

 菅義偉官房長官も2日の記者会見で「全く問題ない発言だ。大阪城の歴史的価値と復元の経緯に触れたものであり、批判されるものではない」と述べた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2019070200544&g=pol

自分の発言を「遺憾」と表現するのは斬新です。

首相発言に対し、愛知県の大村知事が「不適切だ」と批判しています。

 先月行われたG20の夕食会で、安倍晋三首相が大阪城天守閣のエレベーター設置は「大きなミス」と発言したことを受け、愛知県の大村秀章知事は2日、「不適切な発言だ」と述べました。

 G20大阪サミットの夕食会で、安倍首相が、復元した大阪城にエレベーターを設置したのは「大きなミス」と発言したことを受け、大村知事は「『バリアフリーでなくてもいい』ととられかねないような発言は極めて不適切だった。早めに取り消された方がいい」と批判しました。

 城へのエレベーター設置をめぐっては、木造復元計画が進む名古屋城で議論となっており、大村知事は、エレベーター設置を求める障害者団体を支持する姿勢を示した形です。

https://www2.ctv.co.jp/news/2019/07/02/56600/

歴史的建造物(復元を含む)につき、エレベータを設置するか否かは非常に難しい問題です。

エレベーターが付いていればベビーカーや車椅子等でも訪問しやすくなりますが、文化財本来の姿からは異なってしまいます。

関西有数の観光地、姫路城でもエレベータは付いていません。

小さな子連れであれば、ベビーカーの代わりに抱っこ紐を用いたり、もう少し大きくなって歩ける様になってから訪問する事もできます。

しかし、車いす利用者はそうはいきません。代替手段を確保するのは難しく、エレベータの不設置=訪問するのを永久に断念せざるを得ないでしょう。

ただ、首相発言の問題点はそこにありません。

「バリアフリー」という社会的弱者の基本的人権に関わる内容を、各国首脳を前にしたスピーチでのジョークネタとして利用した事が問題です。

「忠実に復元」をネタとして扱いたいなら、「二度と炎上しない様に鉄筋コンクリートで復元した」で十分です。「バリアフリー」は蛇足です。

火災対策で鉄筋コンクリート化したのに、首相発言が炎上するのは残念です。